イロトリ
色に塗れているな。首が締まって苦しかろうよ。イロトリが薄ら笑う。女の懐に飛び降りて、顔を覗き上げた勢いに、女は後退った。動いた空気で、真っ黒な羽毛がふわりと揺れる。
誰(た)も彼も愉悦に溺れて死に体じゃあないか。イロトリの台詞は続く。黒を広げた。女の視界が闇夜に染まる。月のない夜は星灯りのみ、藍が深い。
何色が欲しいのだ? イロトリの嘴が動く。こてり、と首が傾いだ。女の震えは止まらない。赤い唇と桃色の頬が、細かく動くが問の答えは出なかった。
黒を厭うか? 蓋をして見えなければそれでいいのか? 赤もなにも捨てられなどしないくせして喧しいな。
どうでもいいじゃあないか、そんなこと。何れ死ぬのさ。逃げられやしない。生きている限り。逃れたいか、ならば死ぬしかないだろうな。青も紅も常磐も黄もそして藍も。鬱陶しいだろう。
最後は呟くようだった。悲しいと言うようだった。実際何を想っているか、その無表情からは読み取れない。藍、哀、相、愛! 嗚呼、なんて煩わしい!
要らないと思う。思うが、捨てきれずに持て余す。捨てられたらどんなに楽か。楽、なのか。分からないと云う。人間が喚く。ほんとうのしあわせがほしいと喚く。ハナカイの腕の中で泣く。
真っ黒な瞳が艷やかに輝いたのをイロトリは知らない。瞬きをしない目に吸い込まれてしまいそうだ。
さあ、何色を棄てるのだ? イロトリは頭を傾げる。かたりと、傾ぐ。
イロトリ鳥 しょうの @syouno
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