人間

 イロトリは笑った。可笑しいと言った。何を悩む事がある。孰れ皆死ぬのさ、白と黒で足りるだろうと言って、黄色のかたい嘴から嘲笑が降った。


 カムパネルラは云った。ほんとうのしあわせを探していると。銀河の果てで流した涙は、友だちの溺死で終幕する。友だちなんかいらない、その人間は嘆息した。しかし彼女は知っていた、その友だちも彼女であると。呪いの様だ。しかし心臓に根を張って離せない、いやどちらが心臓か分かるものか。



 苦しいと言う。悲しいと言う。そう言う人間を見下ろして、イロトリは辟易する。知るか、知るか。何方でもいいだろう。おまえの乾いた目が、おまえの世界を濡らすのだ。どの色が欲しいか言ってみろ。朱か? 藍か? 泥濘の中で泣いてばかりで、おまえにゃ黒がお似合いさ。



 呪いは解けない。手と手の隙間の世界を知って、羨み、傾げた首の痛みにまた涙する。海でもできそうだ。魚が酸素を吸っていく。体を通り抜ける魚たちを呆然と眺めて、しとしとと嘔吐した。


 欲しいのは私を、形にする手のひらだと。人間は泣いた。只管泣いた。雨が沈んだ。体の中に溜まった水たまりで、笑顔を形成する。頬の乾燥が痛い。痛い。ほしい、ほしい、あれがほしい。だめだ、だめだ、おまえにゃこれで十分さ。イロトリの真っ黒い羽が、人間の目を覚ます。


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