論功行賞 天下布武の七徳は、今日も主に振り回された

「まあ、就業時間はきちんと守らせるべきよね。両親が子供の顔も見れないほどに働かなきゃいけない今の『ひのもと』じゃあ、根本は何にも解決しないわ」


 政財界の大物が「裏」の顔を見せてはばからないこのバーは、表向きは雑居ビルの事務所のような面構えだ。

 現に、エレベーターを降りてドアを開けると、そこには小さなオフィスが組まれている。


 その事務所で予約名を告げて通される扉の奥の部屋は、窓ひとつないのに開放感がある、腰高までしか物を置いていないというこだわり抜いた酒場になっているのだ。


 そんな店の一番奥のボックスシートに座る、青い短髪と瞳を持った二十歳前後にしか見えない女が、楽しそうにグラスの氷を鳴らしながら正面に座る足利あしかが太陽たいように笑顔を向けた。

 足利は手を挙げて店員の気を引くと、青髪の女性が手に持ったグラスを指差した後、その指を上に立て、お代りを注文する。


「太陽クンは、もう飲まないの?」

「酒量くらいわきまえてる。男ってやつは、分不相応ぶんふそうおうな女にふられた翌日にそれを学ぶんだ。俺は物覚えが悪いから何度も授業を受けに行ったもんだがな」


 足利は不味そうに水の入ったグラスに口を付けると、いよいよ本題を切りだした。


「……リズ。お前の狙いを、今日こそ話してもらう」


 トーンを落とした足利の口調に、女は隙の無い目元を作りながら氷ばかりで空になったグラスをローテーブルへコツンと置いた。

 そして深い赤のイブニングドレスに似つかわしくない、健康的で化粧っ気のない顔から笑いを消し、まるで彫刻のような表情に変貌してから答えた。


「人類発祥の意味を知ること。人は、腹が満たされているのに共食いをする唯一の生物。こんなものが、意味もなく生まれるはずなどない」

「……何度聞いてもそれしか答えねえのな、お前」

「詳しく語る義務は無いわよ? あたしは、太陽クンを当選させた。リコール運動からその地位を守った。あなたが消されてもおかしくないほどの世論をコントロールし続けてる。で、その代償として太陽クンが許可した範囲でしかあたしは遊んでない。この時点でイーブンでしょ?」

「なにか聞きたければ、何かを差し出せってことか?」

「そこまでは言わないわ。その分、太陽クンの立場を守る手を抜くだけ」

「とんだトレードオフだな……、セイラムの魔女」


 足利が俯いたままで目だけを彼女に向けると、その女性は満面に笑みを作って彼を見た。


 無言のままに見つめ合う、いや、牽制の為ににらみ合う二人だったが、バーボンのロックを運んだウェイターが離れると、足利はその推理を語り始めた。


「あんた、大岡おおおか忠相ただすけが日本に入れてくれた、とか話してたよな? 鎖国してた日本に外人、とくれば、なんかまずいことやって追っ手がいるってことだ。で、当時のでかい事件とか探ってるうちに、気付いたんだよ」


 女はバーボンを一気にあおると、先を促した。


「リズって愛称からはいろんな本名が考えられるが、そのうち一つがエリザベス。逆にエリザベスの愛称には、ベティーってのがある。……まさか、パリス牧師の娘が主犯だったとはな。そりゃあ疑われるわきゃねえよな」

「……一応弁護しておくと、彼女を眠らせて入れ替わっていたのよ。名前が同じだから彼女を選んだんだけど、まさかそこからばれるとはね。……あの実験は、失敗だった」

「二百人近い連中が魔女と判定されて、二十人以上が処刑されたあの悲劇を、実験だと? ……きさま、この東京で、言霊スキルを使って、また同じような事を繰り返す気じゃあねえだろうな?」


 足利は用心深く女を見つめていた。

 彼女がその気になったら、自分のことを消すくらいわけも無いだろう。

 だが彼女は、そうはしなかった。そして、


「人が発生した意味を知ること。それが、魔女として生まれた者にとって唯一無二の使命。そのために、あたしたちには言霊スキルを発生させる能力がある。今はニセモノばかりだけど、そのうち本物が現れる。そう、信じてる」


 とうとう、核心を話した。

 足利は大きく息をつくと、グラスに入った高額なミネラルウォーターを一気に飲み干し、


「全部話すんじゃねえよ。おれに差し出せるもんはねえと言っただろう」


 そう言いながら、口に入れた氷を一つがりっと齧ると、


「安心してよ、これはご褒美。そこまで推理できたことへのご褒美よ。まあ、それだけじゃあちょっと足りないけど」

「サービスしやがれ。……その足りない分てやつでこれ以上東京になんかしてみろ。ただじゃおかねえ」


 真剣な足利の表情とは対照的に、屈託の無い笑みを浮かべた女性は、


「ふふ。大丈夫よ、あたしだって、江戸の町は好きよ? じゃ、そうねえ、今日はごちそうになるわ。それで、イーブン」

「今日は、か。次から今日も、にするつもりだな」


 思ったより高くつきそうだ。


 足利はそう考えながら、一万円札を置いて席を立った。だが、立ち上がったのは一人だけ。

 彼の前には空になったグラスと、暗く淀んだかすみが漂っているだけだった。

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「…………済まなかった、松平」

「今はもう、徳川ですよ、今川さん」

「うい……、よんだ?」

「あ、そか……えっと、勇兵、さん」

「…………そう…………だった、な」


 墨田・江東の大戦は江東側の防衛勝利で幕を閉じた。

 都の条例により「大戦」とされる規模の効果測定が行われた場合、抗争に巻き込まれた生徒のうち戦闘従事者は三日、非戦闘者は一日、出席を免除される。


 ここは江北領内にある公園の散歩道。

 江北連合主宰、松平亜寿沙と、墨田区を束ねる今川勇兵との間に、右手を兄に、左手をおねえちゃんに繋がれて大層ご満悦な今川愛が歌を歌いながら歩いていた。


「……ういちゃん……。ずいぶん、その、大胆な歌ね……」

「まいちゃ……教えてくれた」

「そ、そう……」


 晴天に恵まれた公園は、やわらかい風と暖かい日差しとを存分に堪能できる。

 そんな中を三人が歩くと、園内にちらちらと見かける江北高校生達は皆、まず自分達の領区へと執拗しつように攻め込んできた金髪の大男の姿に驚き、次いで彼と歩く江北の女神に気付いて癒され、最後に墨田区を治める若き指導者、今川愛に気付いて携帯で写真を撮り始めるのだった。


「ういちゃん、『北砂きたすな奇襲戦』以来人気者になりましたね……」


 考課測定に始めてその姿を現した愛は、江北と解放同盟とに驚くほどの人気が出たのだ。

 しかしその背景には、亜寿沙の力が隠されていた。


 このように言うと政治的な匂いが漂ってしまうのだが、ようは、「走る亜寿沙めがみが胸に抱いたようじょ」という破壊力抜群の写真がウェブにアップされ、大反響を巻き起こしたということである。


 今川勇兵は亜寿沙の言葉に表情一つ動かさなかったが、心の中で両手を腰に当ててスキップしながら、しかし真剣な声で繰り返した。


「…………俺が、部下を管理できていなかった責任だ。本当に、済まなかった」


 亜寿沙はゆるふわなセミロングを左右に振り、笑顔を返して返事とした。



 ……「北砂奇襲戦」の直後、今川勇兵は松平亜寿沙を伴い、墨田区内に住む彼女の母親に会いに行った。

 そして母親を連れ、皆で向かった先は亜寿沙の父の元。ここで勇兵は、菓子折り土下座で事情を説明したのである。


 父親の浮気、母親の横領、それはすべて自分の部下がねつ造したことだと。

 許されることではないが、どうか二人に、亜寿沙の『家族』でい続けて欲しいと、そうお願いしたのだ。


 結果、母娘は家へと戻ることに、亜寿沙の転校も白紙へとなった。


 だが、亜寿沙の両親はお互いのことを信頼できなかったことと、何より、自分達の娘に絶対にしてはいけないことをしてしまったことを深く反省し、このことを忘れないために、本当にお互いを信じ合える関係になるまでは籍を戻さないことを決めたのだ。


 そのため今朝、二人は手を繋ぎ、笑顔を交し合って区役所へ離婚届を提出したのである。


 それを見届けた彼らは、すっかり恋人同士のようになってしまった二人と別れて昼下がりの公園でひとまずの平和を満喫しているところだ。


「墨田区は……、織田さんの解放同盟に参加するのですか?」


 亜寿沙が、勇兵を見上げながら訪ねると、


「…………いや。…………今回の事で、俺は、墨田を掌握できていないことがよく分かった。もしそんなことをしたら…………あの女に屈するを良しとしない連中が反旗はんきひるがえして、同士ちが始まってしまうだろう」

「では……、お金を支払うなどして、同盟締結でもされるのですか?」

「それも…………できない。今の状態、急いで戦力を回復させないと、台東区が不可侵協定を破棄して攻めて来るだろう。金が要る」

「じゃあ……、えっと、今まで通り?」

「違う。…………そんなことを言ったら、きっとあの女は了承してしまうだろう。その後、自分が解放同盟の連中から非難されることも考えずに。…………あの女に、迷惑はかけられん」

「では、どうされるのですか?」


 亜寿沙の問いに勇兵は、早朝のうちに花音と電話で話して二人で決めた内容だと前置きしてから、墨田が敗戦側として受け入れた条件について説明した。


 それを聞いた亜寿沙は満面に輝く笑みを浮かべ、そして、


「……織田……花音さん」


 自分を友達と慕ってくれる、自分の目標となった人物の名を口にしていた。

 それを横目で見た勇兵は、昨日の事を思い出しながら呟く。


「…………強い…………女だ」


 拓朗といい、あの女といい、自分より強い者の、なんと多い世界なのか。


「それに比べて…………、俺の、なんと弱いことか」


 少しうつむく彼の声を聞きながら、亜寿沙も言う。


「はい。あたしも、まだまだです。……彼女は、教えてくれました。本当の愛情という物を。笑顔だけ求め合って、傷つけ合わないで。そんなのはただの、馴れ合いだってことを」


 赤い髪でメガネの可愛らしい子が、自分のことを間違っていると泣きながら叱ってくれたあの日を思い出して亜寿沙が目頭を熱くしていると、不意に手を引っ張られて体勢を崩した。


「きゃっ! ……どうしたの? ういちゃん?」


 今川愛は二人に手を引っ張られた状態でしゃがみこんでいたのだ。


 これは疲れたという合図。

 これを出すと勇兵が愛をおぶってあげるのが一連の流れだった。


 しかし、亜寿沙は気付いていた。

 彼女は疲れてなどいない。これは、ただのわがままだ。

 愛を持ち上げようと伸ばした勇兵の手に自分の手を重ねて止めると、


「ういちゃん! ダメだよ!」


 亜寿沙はしゃがんで、愛の顔をじっと見た。


「あたしは、ういちゃんが、ういちゃんの行きたいところに連れて行ってくれなきゃここを動きません!」


 叱られ慣れていない愛は、亜寿沙の言葉を理解するまでに随分と時間を要した。

 しかし、いままでの自分は他人に手を引いてもらい、その中だけで暮らしてきたことに気付いた。


 彼女は立ち上がり、二人より前を、最初は慎重に、そして次第に軽い足取りで歩き出した。


 すると愛の目に、今まで二人の背中で隠れていた三十度くらいまでしかなかった世界が、急に三百六十度、どこまでも、どこに行ってもいい世界へと姿を変えて飛び込んできたのだ。


「うい……! じゃあ、ういが行きたいのはね! こっち!」


 ……本当の愛情とは、愛でて、甘やかすことではない。

 厳しく教え、そして自分で正しい道を歩く意思を持つようにと、手を離してしまうこと。


 強く、大きな理想の人を胸に描き、二人は、輝くように笑いながら走る少女をいつまでも笑顔で見つめていた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 清洲高校生徒会室から外を見つめる男女がいた。


 男子の方は右腕の裂傷が突っ張ることを気にしながら焼いた餅の入ったパンに噛り付き、女子の方はおでこに刻まれた刀傷などお構い無しに、赤い髪を春風に吹かれて目を細めていた。


 清洲の生徒達は、戦勝記念ということもあって校庭に集まっていた。

 それは、他の学校では見かけないような光景だった。


 しゃがみ込んで友達と喋って、他愛の無いドラマの話しで夢中になって、好きな人にどうやってアタックするべきか真剣に議論して、二次元の嫁について熱く討論している。

 こんな姿は中学校、いや、最近では考課こうか測定そくていに備えて中学校も随分厳しいので、小学校でしか見かけない光景だ。


 生徒会室の窓辺に花音が現れたことに最初に気付いたのは悠斗だった。


 勇兵の言霊スキルの効果を、たった一晩寝ただけで消し去った彼が目の前に積まれたハンバーガーの山に挑みながら主君に手を振ると、それを見た者達も思い思いに手を振った。


 花音は窓から身を乗り出して、皆に笑顔で手を振り返しながら郁袮に語りかけた。


「清洲らしいよね! すっごいチャーミング!」

語彙ごいはめちゃくちゃだけど、さすがにそれには同感だな」


 郁袮はそんな花音の横で窓枠に背をつけて、何気なく生徒会室を見渡すと、窓際ぎりぎりに置かれた棚の下にピンクで小さなプラスチック製の蝶があしらってある髪ゴムを見つけた。

 落としたばかりであろうそれは埃を被るでもなく、拾い上げた郁袮がゴムの部分を適当に引っ張って離すだけで、あらかた綺麗に汚れが落ちた。


「柴田さんの怪我も綺麗に治るそうだし! 松平さんの心配事も解決したし! これぞ天下てんか泰平たいへいってやつだね! でも、もうちょっとくらい刺激があってもいいかな?」

「じゃあ、泣けばいい。外の連中には刺激的だぜ?」


 郁袮の言葉にさすがに膨れた花音は窓から離れてくるりと回ると、スカートの後ろに違和感を感じて首を後ろに回した。

 だが、体がねじれて痛いためなのか、足がドンドン首から離れ、その場でトコトコと回り出す。まるで自分の尻尾を追いかける犬だ。


「お前はバカでカモフラージュしているからなかなか分かりにくいけど、真の姿は脳みそを元の世界に置いてきた不思議の国のお姫様だったんだな」

「え? 何それ? 綺麗ってこと?」

「もう、それでいいです」


 郁袮は花音のそばに近寄って回転を止めてスカートの裾を手前に回すと、連日の戦闘で痛んだのだろう、その裾がぱっくり割れていた。

 女の子らしく、ちょっとしょぼくれた花音の顔をちらりと見た後、郁袮はポケットから安全ピンを取り出して割けていた部分をカチリと留めてあげた。


 すると花音の顔はぱっと明るくなり、郁袮とスカートの裾とを交互に見てから、


「すごい! なんでこんなの持ってたの? ありがとう!」


 再びくるりと回転した。


 郁袮はポケットへ手を突っ込み、絆創膏、消毒液、はさみ、ビニールテープ、爪切り、ウェットティッシュ、ヘアブラシなどなど、両手にごちゃっと雑多なものを広げて見せながら、


「……俺さ、騎士って言ったって、走るぐらいしか役に立たないからさ、こんな形でお前のこと守ってやろうかと思って、持ち歩いてるんだよ」


 そんなことを言いながら、苦笑いのような照れたような、複雑な瞳で花音のことを見つめた。


「ふーん」


 気の無い返事をした花音は、しかし内心、ちょっと嬉しくなったようだ。

 鼓動も激しくなって、郁袮の精悍な顔を見ていることが出来ない。


 ……いつも自分のことを考えてくれる人の存在が、胸をポカポカにする。

 だがこんな流れが最近もあったなと考えているうち、昨日のひどい事件を思い出して大声をあげた。


「あ! 昨日! みんなの前でスカートめくった! ひどい! どこが騎士よ!」

「しょうがねえだろ。いいじゃん別に、減るもんじゃなし」

「しょうがなくも良くもない! 今までは一つ年上になったらいいかって思ってたけど、二才年上にならないと付き合ってあげないことにした!」

「裸で金星まで飛んで行けって言われてたのが水星になっただけだバカ!」


 条件が厳しくなったわけでは無い。蓬莱の玉の枝が雀の子安貝になっただけだ。

 怒りながらも悲しい表情を浮かべる郁袮の前を、ふくれっ面の花音が顎に手を当てて悩みながら往復して、


「……んーと、なにか反撃しないと気が済まなにこれ可愛い!」


 怒っていたはずの花音は郁袮の手に乗っていた雑貨の中に蝶の髪ゴムを見つけ、ニコニコとしながら顔を寄せてきた。

 今日はいつにも増してテンションの上げ下げが激しくてくたびれるなあと思いながら、郁袮は雑貨からヘアブラシを取り出して花音を椅子に座らせると、髪をとかし始めた。


 男の人に髪をいてもらうなんて、初めてだ。花音も今日のテンションが上がったり下がったりと激しいことを自覚していたのだが、それは全部郁袮のせいだ。


「郁袮、あの……、あたしね? いつもそばにいてくれる郁袮が……」


 頬を赤くしてスカートの裾をもじもじとさせた花音は、今の想いを口にし始めた。


「あのね? いつも年下だから気にしてなかったんだけど、なんだか最近どきどきするようになって……」

「……できた」

「え? あ、そ、そう! ど、どう? 似合ってる?」

「……ちょうちょが、ょちうょちになっとる」

「よち? ……ああ、さかさまに付けたの? しょうがないなあ!」


 タイミングを外されたことと恥ずかしさとで頭をぐるぐるにした花音は、ぷうと頬を膨らませながら髪ゴムを外して郁袮の方へ振り返り、蝶の部分を郁袮に持たせた。

 でも、正面に立つ郁袮の顔を見ると急に恥ずかしなって、床へと目線を下げながら長い赤髪を後ろ手に束ね、


「あのね……、あ、あたし……、あたしも、郁袮のことが……」


 そう言いながら、ゴムの部分を摘む。当然郁袮は手を離してくれるだろうと思っていたが、


「ん? あ。これ、ねえちゃんのじゃねえか」


 プラスチックの蝶は郁袮の手にあるまま、ゴムは俯きながら引っ張る花音の顔まで伸び、


「あたしも……、あたしも、ス」

 ッパーーーーーーン!



 どざあ



 ……その後、校庭から千五百人の怒りが生徒会室に突撃してくるまでの数十秒、郁袮は一生守ると、たしかそう誓ったはずだった女性に殴りつけられながら必死で謝り続けたのだった。



 ……明けて翌日正午、墨田区から発表された内容を元に各区の生徒会室では勢力図への修正が加えられた。

 各勢力の境界線はそのままに、墨田区に書かれた「今川愛支配区」の文字に二重線が引かれ、代わりに「今川愛を代表とする解放区」と書き込まれたのであった。


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俺が通ってる高校領区制国家・東京 如月 仁成 @hitomi_aki

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