外伝その4 未来よりの使者! 勇者VSカラオケネーター

 相変わらず、船上である。

 夜だった。空には、星がまたたいていた。


「綺麗ですわね、アラン様」


「ああ、見事な星空だな」


 俺の隣にはサーシャがいる。

 俺たちは、星を眺めていたのだ。

 いまは午前4時。朝方だ。

 なんだか早く起きてしまった俺はデッキに出た。

 するとそこには、やっぱり早く起きてしまったサーシャがいて――こうしてふたりで星見をすることになった、というわけだ。


「イズサーベル大陸を出てずいぶん経ったようですけど、まだ数日なんですよね」


「あと少しでゼイロヌ国に着くんだろ?」


「はい。数時間後には着く予定です。……残念ですわ」


「なにが?」


「せっかくアラン様との船旅なのに、あまり思い出ができませんでしたから」


「……そういえばそうだな」


 無人島に行ったり、カラオケになったり、ミドラの母親と会ったり。

 この船旅の間、イベントはいろいろあったが、サーシャとの思い出はなにもできていない。


「いや、まだあと数時間あるからさ。楽しい思い出、これからでも作ろうぜ」


「ふふっ、そうですわね! ……そうですわ、アラン様。さっそくこれから、わたくしのお部屋ですてきな思い出を作りませんか!?」


「え。これから?」


「はいっ。わたくしのお部屋なら、窓から星が見られますし。ベッドに身体を横たえて、夜空を眺めるのは格別ですわよ?」


「サーシャの部屋で……ベッドに……?」


 俺はその単語をおうむ返しに繰り返した。

 すてきな思い出。サーシャのお部屋。作る。ベッド……。

 なんとなく、顔が赤くなるのを感じた。

 そしてサーシャも、自身の発言のヤバさに気がついたらしい。


「……あ、いえ! その……」


 サーシャは顔を赤くして手を振る。


「ち、違います。星空を眺めるとか、できたらいいな、と思って……。その、別にイヤらしい意味では……」


「あ、ああ! なんだそうか! いや俺はてっきり――」


 って、またドツボだ!

 てっきり、なんて言ってるんじゃないよ。

 なに言ってんだ、俺は。こんなことを口走るなんてどうかしている。

 サーシャは単にいっしょに星を見たかっただけなのに。

 俺の、ばか、ばか、ばか!


 ――だが。

 サーシャは瞳を潤ませながら、もじもじしつつ。


「……あの」


 消え入りそうな、小さな声で彼女は言った。


「……いい、ですわよ?」


「……え?」


「わたくしは、アラン様がお望みなら。……その、そういうことでも、わたくしは……」


 サーシャはそっと、俺の手を握ってくる。

 熱っぽい指先が、手のひらの上で艶かしく動いた。


「サーシャ……」


「アラン様。わたくしは何度でもお伝えします。……あなたのことが大好きです。愛しています」


「…………」


「……あなたのためなら、どんなことでも……わたくしは……」


 吸い込まれそうな綺麗な瞳が、俺の眼を見つめている。

 少しずつ、彼女の顔が近づいてくる。亜麻色の髪からほのかに漂ってくるサーシャの匂いが、なんだか鼻にくすぐったくて。

 艶めいたくちびるが、たまらなく愛おしかった。

 だから俺は、次の瞬間。……自分が自分でないように、身体が動いていたのである。

 サーシャの口に、自分の顔がゆっくりゆっくりと近づいていく――


 だが、そのときだった。




 ピカッ……!




「きゃっ!」


「うわっ!?」


 突如、巨大な光が俺たちの目の前に出現し――

 かと思うと光の中から、だだんだんだだん、だだんだんだだん、と不思議な音と共に、背の高い銀髪の美女が登場したのだ。

 切れ長の、なんだかエキゾチックな雰囲気をもった瞳に高い鼻、さらに全身にまとっている真紅のラバースーツが印象的な女性である。やがて光は消え去り、美女は「がーがーがー」と意味不明な声音を出すのだが……なんなんだ、こいつは?


「が、が、が。……ががががが。テスッ、テスッ。本日は晴天なり。本日は晴天なり」


 晴天どころか夜空なんだが……。

 と、内心ひそかにツッコミを入れた俺――に反応したわけじゃないだろうが、美女は突然、びしっ、と首をこちらへ向けてきて、俺たちふたりを見つめつつ、口を開いた。


「目標発見。この時代のディアック夫妻。すなわちアラン・ディアックとサーシャ・ディアック……」


「ふ……」


「夫妻!? ですって!?」


 夫妻、という言葉に、俺とサーシャは思わず目を見開いた。

 いや、おかしいのは夫妻って単語だけじゃない。

 いまこいつ、『この時代』っていったな?


「おい、まさかお前は、違う時代からやってきたのか?」


「そうだ」


「あっさり肯定した!?」


「我が名は、カラオケネーター。王国暦317年からやってきた、すべてのカラオケを破壊する者」


「な、なんだと……」


 王国暦317年!?

 いまより30年も未来からやってきたのか、こいつは?


「私の任務は若いころのアラン・ディアックとサーシャ・ディアック。ふたりをこの世から抹消すること。……いいか、お前たちふたりの間に産まれた息子は、王国歴317年の世界においてカラオケ王となっている。お前たちの息子が世界にカラオケを広め、世界中がカラオケまみれになっているのだ」


「ほ、本当ですかっ、カラオケネーターさん! わたくしとアラン様の間に、子供がっ!?」


 サーシャは、瞳をきらきらさせて叫んだ。

 よほど嬉しいようだが、俺もビックリしている。

 まさか俺とサーシャが、未来で結婚して、子供まで作っているなんて!


 ……しかし、俺たちの息子はカラオケ王になっているのか。

 そのへん、すごい複雑なんだが……。

 未来の俺よ。お前、いま、幸せか?


「お前たちが結婚し、子供を作るのは事実だ。だがその結果、世界はカラオケに満ちてしまう。それを快く思わない者もいる」


「なんですって!?」


「カラオケが嫌いな人間にとって、未来は地獄のような世界でしかない」


 カラオケネーターは、苦虫を嚙み潰したような顔で言った。


「かく言う私もそのひとり。私はカラオケのスピーカーから発せられる音を聞くだけで鳥肌が立つ特異体質なのだ」


「え、それなんとか我慢できるレベルじゃね?」


「できん! 町を歩くだけで毎日鳥肌が立つのだぞ。私はもはや、カラオケだらけの世界に我慢がならない。そこで私は、未来を変えるためにやってきたのだ。この時代で、まだ結ばれる前のディアック夫妻を殺して、カラオケだらけの歴史を変えるために!」


「カラオケをなくすためだけに、時を越えてやってきたのですか!? どうしてそんな愚かであわれで回りくどいことを!? 他にいくらでもやり方はあるでしょうに! ねえ、アラン様!」


「…………ああ……いや……うん。……そう、だね……?」


 俺は目をそらした。思わず顔がひきつってしまう。

 とはいえ、それはそれとして。

 俺はカラオケネーターに向かって叫んだ。


「悪いが殺されるわけにはいかない。もとの時代に帰れ、カラオケネーター! そうしないのなら、倒させてもらうぞ!」


「帰るわけにはいかない。お前たち夫婦を殺すまでは」


「ふ、夫婦っ! カラオケネーターさん、もう一度言ってくださいまし! 大事なことなのでぜひとも2回目!」


「帰るわけにはいかない。お前たち夫婦を殺すまでは!」


「ああっ! わたくしとアラン様が夫婦だなんて。もうわたくし、死んでもいいですわ!」


「駄目だよ、死ぬのは! しっかりしろ、サーシャ!」


 うっとり顔でくねくねと全身を躍らせるサーシャに、思い切りツッコむ俺。……なんとなく想像するんだが、未来のサーシャは結婚式のときとかどんなテンションだったんだろう。

 ともあれ、とにかくカラオケネーターとのバトル開始だ。負けるわけにはいかない!


「サンダー!」


 俺は右手を突き出し、電撃系魔法を放った。

 ドッ、シャアアアアン――光り輝く雷が、カラオケネーターに直撃する。

 だが。


「ノーダメージ、だ」


 カラオケネーターは、顔や身体はもちろんのこと、服にさえキズひとつついていない。


「なんだと……まさか俺の攻撃が効かないなんて……」


 見たところ、カラオケネーターからはさほどの戦闘力も感じない。

 それなのに、なぜ魔法が効かないんだ!?


「この服だ」


 カラオケネーターは、着込んでいるラバースーツを右手の親指でトントンと叩いた。


「これは未来の技術で作ったラバースーツだ。物理攻撃に対しても魔法攻撃に対しても無敵なのだ。この時代の攻撃はいっさい通じないのだ」


「なんてインフレ! なんてインチキ!」


「終わりだ、アラン・ディアック」


 カラオケネーターは、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。

 だだんだんだだん、だだんだんだだん。

 不思議な音と共に、美女が迫り寄ってくる。

 ほんとなんなんだ、この音。

 し、しかしとにかくまずい。

 このままじゃやられる。どうする!?


「お待ちなさい、カラオケネーター!」


 そのとき俺の背後から、サーシャの声がした。

 振り返ると、彼女はその手にマイクを持っている。

 この船はあちらこちらに空唱カラオケの機械が置かれてある。

 だからサーシャがいきなりマイクを持っているのは不自然じゃないが、しかし、


「なにをする気なんだ、サーシャ!」


「アラン様。カラオケネーターは、スピーカーから発せられる音を聴くだけで鳥肌が立つ体質ですわ。ならばこのマイクで歌えば、必ずカラオケネーターはその動きを止めるはず!」


「そ、そうか。よしっ! さすがだ、サーシャ。ぜひ歌ってくれ!」


「はいですわ!」


 サーシャは空唱カラオケのスイッチを入れて、歌を歌いだす。


「――あ痛くて、あ痛くて、震える~♪」


 サーシャが歌った曲は『あ痛くてあ痛くて』という曲だ。

 家の中で走っていた子供が、柱に足の小指をぶつけて痛がり震える。それを見た母親は、子供の震え顔に愛する旦那の面影を見る。そして母親本人も夫への愛に震える……という、歌い出しからは想像もつかない歌詞の展開をする歌だ。

 なぜ、この曲をサーシャが歌ったのかは分からないのだが――あ、なんかキラキラしたまなざしで彼女は歌っているぞ。なるほど、未来の自分の子供を守るために、母親と子供、というシチュエーションの曲を歌ってみたんだな。最近、サーシャの考えていることがちょっと読めるようになってきた俺である。にしても、親子のテーマならもう少しマシな歌があったと思う。

 ともあれ、サーシャは見事な声で『あ痛くてあ痛くて』を歌い切った。


「いいぞ、サーシャ!」


 俺は思わず手を叩いた。それだけサーシャの声は絶品だったのだ。さすが空唱室カラオケボックスの娘だ。これならカラオケネーターも参るはず……。


 ――だが。

 カラオケネーターは、不敵な笑みを浮かべるだけだった。


「な、なぜ? どうして空唱が効きませんの!?」


 サーシャが愕然とした面持ちで叫ぶ。

 するとカラオケネーターは――

 トン、トン。……自分の耳を二度、人差し指で叩いた。


「「……!!」」


 俺とサーシャは、カラオケネーターの耳を見て驚愕した。

 こ、こいつ……耳センをしているぞ!?


「この耳センは、未来の耳セン。カラオケによる歌声だけをシャットアウトする素晴らしい耳センなのだ。ゆえにお前たちと会話はできるが歌声だけは通さない。だから私も鳥肌が立たない!」


「なんて都合のいい耳センなんだ!」


「未来の道具だからな」


「ずるいぞ未来! 発展しやがって!」


「なんとでも言うがいい」


「だいたいそんな耳センがあるなら未来でもずっとつけてりゃいいだろ! カラオケだけシャットアウトできるんなら鳥肌問題解決だろ!」


「いつも耳にものが詰まっているのはなんとなく不愉快だ」


「ああ、それもそうだな……」


「アラン様、論破されないでください!」


 サーシャが叫ぶ。そ、そうだった。

 とにかくカラオケネーターを倒さないといけない。このままじゃ俺もサーシャも殺されてしまう!

 どうする。どうすればいい!? カラオケネーターを倒すにはどうしたらいいんだ!?

 と、そのときだった。……俺はふと、思い出したのだ。『あれ』を使うのはどうだ!?


「サーシャ!」


「は、はい?」


「俺にしがみついていろ。絶対に離れるなよ!」


「え……」


 サーシャが戸惑いの顔を見せるが、それはまったく意に介さず。

 俺は彼女の柔らかな身体を、ぎゅっと強く、抱きしめた。


「あ……。……あ、アラン……様……?」


 俺の胸板に、サーシャの豊満な双乳が当たる。彼女の首筋から漂ってくる、少女そのものの体臭が、なにやら俺の心をむずむずさせた。う。ううう。……なんていい匂い。なんて温かな身体なんだ、サーシャ……。

 って、違う。そうじゃない。俺がサーシャを抱きしめたのにはワケがある。……空唱機カラオケシステムに取り付けられている、ある装置を使うためなのだ。

 いくぞ、カラオケネーター! 食らえ!


「触手攻撃だ!」


 俺は空唱機に取り付けられている触手ボタンを押した。ぽちっとな!


 すると――しゅるしゅるしゅるしゅるっ!


「な、なにっ!? あ、ああンっ……!? あははあああッ!」


 カラオケネーターの肢体は、いきなり触手に責められてしまった。

 髪の毛や首筋、両手両足が絡まれまくり、さらに耳たぶまでグネグネと責められるカラオケネーター。

 やがて、ぽんっ。耳せんが取れた。

 さらに触手は、服と素肌のわずかな隙間を見つけたらしい。ラバースーツの中にまで、にゅるにゅるにゅるると侵入していく。


「やっ! ああ! あはァ……う、ンアアァ!」


「やったぜ、カラオケネーターの耳せんとラバースーツ。ふたつの防具を破ったぞ!」


「さすがはアラン様! ……なるほど、わたくしをこうして抱いたのは、触手から守ってくださるためなんですね!?」


「そういうこと。空唱の触手は、俺を責めないからな」


「アラン様、お見事です。かっこいいですわ! ……ああ、それにしてもこんな……アラン様に抱かれているなんて。まるで夢みたい……」


 サーシャは、うっとりとした顔で俺の腕の中にいる。

 空の果てが、わずかながら朝焼けに染まってきていた。


 島影ひとつ見られない、大洋の上に浮かぶ船。

 わずかな光に照らされている船上で、俺たちふたりは互いの温もりを感じていた。

 風が吹く。亜麻色の髪が、揺れている。少女の心が伝わってくる。

 それは確かに、夢の中の景色のようで――


「あああああああああいやああああああああもう、もう、らめええええええええええええええええええ!!」


 ……触手に責められているカラオケネーターさえいなければ、確かにロマンチックだったのだ。

 えらい叫び声である。これでは、夢は夢でも悪夢のほうの光景だ。


「あの、アラン様。この攻撃はもう、よろしいのでは?」


「サーシャは優しいな。……じゃ、そろそろやめてやるか」


 そう言って、俺は空唱機の触手スイッチを切ろうとする。

 だが、そのときだ。


「だめ、だぁめ、あヒン! もうダメ、にげ、逃げる! もとの時代に! 逃げるからぁ!!」


 カラオケネーターは、嬌声をあげつつも右手を天に向かって掲げ、


「『トキトブ』!」


 と、いつか俺が唱えたのと同じ呪文を詠唱した。

 するとカラオケネーターは、光に包まれていく。

 と同時に。空唱機から伸びている触手は、あくまでもカラオケネーターを責め続ける。ぐねぐねぐねぐね!!


 えらいことになっていた。

 カラオケネーターは時を飛んで逃げようとする。

 だがその時間の通り道にまで、空唱からの触手が伸びて、カラオケネーターを責め続けているのだ。


 びび、びびびびび。

 不気味な音が響いている。

 あ、ヤバい。触手が、時間の通り道を破ろうとしている。


「あ、だめ、こら、アン! やめて!! このままじゃ時間が壊れる! 時間が、時間そのものが壊れて――ああン、いやああああああああああああああああ!!」


「あ、アラン様!」


「サーシャ!」


 俺はサーシャをかばうように抱きしめたまま、その場に思いっきり伏せた。

 すると――ドォ、シャーーーーーーーーーン……!

 形容しがたい、不思議な光の爆発が起きた。

 風も吹かず、海面も波打たない、奇妙なエネルギーの奔流。

 そのとき、俺はピンときた。理屈ではなく感覚で、いまなにが起こったのかを理解した。時魔法を使える人間にしか理解できない感覚なのだが。


 すなわち。

 いま、カラオケネーターの使った時魔法は、暴走したのだ。

 空唱から伸びた触手が、時間の通り道を無理やりこじ開けたせいで、時間の爆発が起こったのだ。

 その結果、カラオケネーターは元いた未来に飛ばされた。いや、それだけじゃない。未来が枝分かれした。その実感があった。すなわち、カラオケネーターがやってきた王国暦317年の世界と、いま俺たちがいる王国暦287年の世界は地続きでなくなったのだ。


 やがて光がおさまっていく。


「う……あ、アラン様……?」

 

 サーシャはゆっくりとかぶりを振って、デッキの上に立ちあがる。


「い、いまのはなんだったのでしょう? ……よく、よく覚えていませんわ。わたくし、たしかアラン様と星を見ていて……それで……? ……わたくし、どうしてマイクを持っているのでしょう……?」


 サーシャ。……なにも覚えていないのか?

 時間が爆発した結果だろうか。彼女はカラオケネーターのことを覚えていないようだった。

 ……まあ、いいか。説明してもたぶん理解できないと思うし。


 ――そのときだった。


「あっ、アラン様。ご覧くださいまし……」


 サーシャは、遠い水平線の果てを指さす。

 完全なるあかつきが、世界に訪れていた。




 夜明けだ。




 焼けるような陽光が、空を切り裂いていた。

 風が、いっそう強く吹き抜ける。朝の空を駆けていく雲と、鼻腔をくすぐる潮の香りが、泣けてくるほどに心地よかった。


「最高だな」


 何気なく、俺はつぶやいた。

 サーシャも、こくりとうなずいた。


「わたくしはいま、幸せです」


「俺もさ」


 なぜだろう。

 太陽の光は、俺の胸にいっそう強く、未来の二文字を思わせた。

 サーシャはもちろん、他の仲間たちと力を合わせて、輝く未来を俺はかならず歩んでみせる。

 ……なんて。……ちょっとガラにもないクサいセリフだけど。

 でも本当に、そんなことを思ったんだ。


「アラン様ぁ、サーシャぁ!」


 太い声が聞こえた。

 振り返ると、サーシャの父親、ガイさんがいる。


「おはようございます、アラン様」


「おはようございます、ガイさん」


「アラン様、いよいよ今日はゼイロヌ国に到着です。長い船旅、お疲れ様でした」


「いえ。楽しかったですよ。思い出もたくさんできましたし。……なあ、サーシャ?」


 かたわらにいる少女――ある未来においては俺の妻となっている女性を振り返りながら、その名を呼ぶ。彼女は「はいっ」と明るくうなずいて、しっとりとした声音で言った。


「素敵な思い出ができましたわ。……これからもたくさん、思い出を作っていきましょうね。アラン様っ!」

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【書籍版発売中】勇者だけど歌唱スキルがゼロなせいで修羅場続きになっている 須崎正太郎 @suzaki_shotaro

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