忘れる
日が昇る、空は明るくなり生き物は活動を始める。何処にいても、それは変わる事がない。
例え、人間が消えた世界でも。
「フィン姉、起きて!」
リムはベットから這い出し、フィンリを揺すり起こす。リムが這い出鹿ことで身体を覆っていた毛布に隙間ができ、入り込む冷えた外気にフィンリは身を震わせる。
そして、開けてもすぐにくっつきそうな瞼をこすりながら上体を起こした。
リムに手を引かれ、靴を履く暇も無いため靴は空いた手に持ち、裸足で階段を駆けて降りる。
食堂に入るとそこには知らない人ではない、昨日となんら変わらない四人が朝食の準備をしていた。
「あ、おはよう。やっと起きたんだ」
アレクが二人に気付きおはようと言うと、他の三人もフィンリと挨拶を交わす。
だが、リムはフィンリの背後に隠れたまま四人に顔を見せないでいる。
「あれ、リムどうかした?」
アレクが隠れているリムに近寄ると、彼女はフィンリの服を強く握った。
彼女は警戒心を剥き出しにした猫の様にアレクを睨むと、弱々しい口調で言う。
「お兄さんたち、誰...リム、知らない.....」
フィンリは此処で、彼女に対して疑問が浮かんだ。
何故、彼女はフィンリ以外の四人の事を忘れてしまっているのか。
だが、他の四人に対してはそれ以上の疑問が浮かんだ。
「アレク、今日って何日?」
ハミルはアレクに問うと、暫く考えたアレクは何かを納得した様に頷いている。
ヴィンもライも、朝食の準備をする手は止めているが驚いた様子も無い。
何故、家族同然のリムに自分達の事を忘れられて平然としている?
フィンリには理解出来なかった。
「あー。そう言えばそろそろだったね、んじゃ姉さんよろしく」
「わかった」
彼と入れ替わりで、今度はハミルがリム近くへと移動する。
変わらずリムは、目の前に来る彼女自身にとって知らない人を睨む。
ハミルは疑念の目線も気にせず、リムの両肩を掴み後ろを向かせ、彼女の手はフィンリの服から剥がれた。
リムが彼女の手を振り払おうとしてジタバタと暴れている。
「リム、ちょっとゴメンね」
そう言い、ハミルはリムの首元に淡い水色の結晶をかざした。
暴れていたリムは気を失い、フィンリの方向に倒れ、彼女に身体を支えられる。
「いきなりの事で、驚いたでしょ?」
それをポケットにしまうハミルは、驚愕している彼女を落ち着かせる様に言った。泣く子を宥める母の様に。
哀しげに下がった眉は、フィンリが怯えた表情をしていたからかも知れない。
繭は花の中で眠る 鈴白 縁 @szsr-e-666
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