期待

分からなかった、どう反応すれば良いのか、どんな表情をすれば良いのか。

家族だったらこの時、どうしたら良い?

やっぱり、私は変われない....。

でも、今だけは彼らの家族でいても良いかな。

_Fの手記より_



フィンリは誰かと食卓を囲んだ記憶が無い。

物心ついた時には大量の本に囲まれ生活していた。誰とも関わる事無く。そんな生活にも慣れてはいたが何処かで仲間や家族との生活に憧れれていた。くだらない事で笑い合ったり、喧嘩したりする、そんなベタでありふれた生活に。


「アレク、私の人参あげる」

「姉さんそれくらい食べなよ。って、ちょ勝手に入れんな!」

双子は人参を食べる食べないで言い合いをしている。ヴィンは、ポトフを食べながらその様子を見て笑っていた。


「二人とも相変わらずだねー。あ、ライ塩取ってー」

「ほらよ」

ヴィンは受け取った塩をポトフに何度か振りかけ、食べ始めた。目は隠れているが楽しそうにしているのはわかる。

ライは何も言わないが心なしか口角が上がっている。


あぁ、これだ。自分が憧れていた風景は。

フィンリは目の前の風景に対してそう思った。


彼女は歓喜に、打ち震えている事を隠してバスケットに盛られた丸いパンを取り、千切って口に運ぶ。

変わらず味は感じないけれど。今朝は無理に口へ料理運ぶ事を苦痛にしか感じなかったが、今は苦痛には感じなかった。


「フィン姉、ポトフどお?美味しかった?その人参ね、リムが切ったんだよ!」


フィンリの隣でパンを頬張っていたリムは、親に褒められた子供の様に目を輝かせてフィンリを見る。

さっきの事があってか、リムは彼女に懐いているようだ。


「美味しかったですよ。それに、人参、上手に切れてました」


「えへへ」


前者は嘘、なにせ味が分からないのだから。その嘘はリムを傷付けないためについたものだが、無垢なリムに嘘をついた事を彼女は心苦しく感じた。



「リム、フィンリにすごく懐いてんね」

食事が終わるとハミルとアレクは、二人を見て思った事を口にした。


「フィンリじゃなくてフィン姉って呼ぶ位だからね、それに」

ハミルが続きはライによって遮られる事になる。

意図的に遮ったのか、声がいつもより低い。

「皿持ってこいよ、片付けるぞ」


双子は顔を見合わせ、はーいと生返事をした後、片付けをする為に自身が使った食器を重ねシンクに運び、布巾てテーブルを拭く。

ライは洗い物をし、リムが食器の水気を拭きフィンリに渡す。

フィンリが再度拭いた食器をヴィンが片付ける。

15分程で片付けが終わり、やっと落ち着いた時アレクが疑問を投げかけた。


「思ったけど、フィンリが此処に住むんだったら部屋はどうする?ハミルとリムの部屋か?」


「二人の部屋のベットは二つだしな。」

どうすると悩む彼らを見るフィンリは

リムに服の袖を引かれる。


「リム、今日はフィン姉と一緒に寝る!ね、いいでしょ?ライ兄」


リムがそう言うと、ライはフィンリとハミルにそれでいいか?と聞く。

「構わないわ」

「私も、良いですよ」


二人の合意が確認出来たライは頷いた。


「そうか、ならフィンリの部屋はハミルとリムの部屋に決定だな。後、明日はC区で仕事だいつもより早い時間に出るからな。各自準備しておけよ」

「C区で買い物していい?そろそろ備品が無くなりそうなの」

「仕事が終わったらな」


仕事...

彼らの言う仕事とはどんな内容なのか聞いても良いのかとフィンリは躊躇するが、何かを察したヴィンが口を開いた。

「あ、フィンリちゃんにはまだ言ってなかったねー。僕達の仕事はね、依頼された荷物を届ける謂わば運び屋的なものだよー」


それを聞いたハミルは呆れたように肩をすくめる。

「運び屋って言うと、悪い事してるみたいじゃ無い...。危ない薬とかは扱ってない真っ当な運送業よ。えっと、あのね...フィンリさえ良ければ、明日の仕事手伝ってくれない?」



「え、あっはい!是非、行かせて下さい」


フィンリは嬉しく思った。

出会って一日も経っていない、赤の他人同然の自分を仲間として必要としてくれる人がいるからだ。

彼女はその夜、リムと一緒のベットで眠った。

このまま何事もなく、あの物語の様にハッピーエンドを迎えられたらと、少しばかり期待しながら。


そして、夜が明ける。


動き出した歯車は、

もう止められない。

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