第2話
「何をお考えですか、陛下」
ウィリアム=ウィルドは馬車に揺られながら、淡々と聞いた。
主である女帝の意図が、彼には全く掴めない。
女帝は───ルーナは、ただ余裕の笑みを返すばかりだった。
ウィルはため息をついた。
「戴冠式もまだ終えていないというのに……どれだけ城を───首都を離れておられる気ですか」
「シアンにはお前の部下たちがいるだろう? 安全なら保証されている。煩わしい各国の使者が尋ねてくるであろう戴冠後ではできないことをやっているまでだ」
変わらぬ笑みを浮かべながら言う彼女は、まだ十代の少女だとは到底考えられない威厳を漂わせている───。
ただ付き従えと言われるままあちこち引きずり回されている現状をただ単純に捉えるなら、『地方各都市の視察』か、皆に私服での軽装を命じ、自らもただの町娘のような服装をしているあたり『お忍びの観光旅行』とでも言うべきなのだろうか。その各都市の知事に面会するわけでもなく、事前に訪問の知らせをするわけでもなく、自分が新しいこの国の帝だと明かすこともなく、しかも隣合った都市にただ順番に訪れている訳ではなく、御者にめちゃくちゃな指示を出している。一体何がしたいのだ。
困惑するばかりのウィルに対して、同じく同行を命じられたエリディアはただ目を閉じて静かに座っていた。ただし───周囲にただならぬ殺気を放っている。もしルーナに何か危害を加えようとするモノがあれば即座に般若と化すだろう。───さすがに都市を訪れている間は殺気は隠しているようだが。
ウィルはまたため息をつくと窓の外に視線を移した。街道沿いには田畑が広がっていて、時折作業をしている人影が見えた。穏やかな日差しが心地良い。
そして、もう何も聞くまいと諦めた。きっとこの少女のことだ。あの日の『あの時』と同じで、単なるお遊びなどでは決してないだろうと、それだけは分かっているからだった。
静謐に映える月 千里亭希遊 @syl8pb313
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