第8話 決戦
大雨が降りしきる中、真は全身ズブ濡れになりながら、夢遊病者のようにふらふら歩いていた。
泣き止んだ後、荷物を取って町を出ていこうと、北斗の家に行ったものの、玄関に鍵がかかっていて中に入ることができず、北斗が鍵をかけていったことを思い出し、その後は全てのことがどうでもよくなり、こうして町中を彷徨っているのである。
歩ている間、何も考えないようにしていた。そうでもしないと北斗から引き継いだグリーンジャックの機能が嫌でも思い浮かんできて、気が狂いそうになったからだ。
そうしている内に、目の前が真っ暗になっていった。
目を開けて、初めに見たのは板張りの天井で、意識がはっきりしていく内に、自分が寝ている状態であることがわかった。
「気が付いたようだね」
声のする方に顔を向けると、駄菓子屋のおばちゃんが座っていた。
「どうしてここに居るのかって、大雨の中道端に倒れていたのを巡回中だった高橋さんが見つけて、うちまで運んできたんだよ。高橋さんには、あたしが面倒をみるって言って帰ってもらったよ。倒れたのが、うちの近くで良かったね」
自身に起こったことを聞いた真は、礼を言う代わりに、頭だけ動かした。まだ、人と話す気力が無かったのだ。
「あんたの親御さんに連絡しようかと思ったけど、あたしはその手の機械が苦手だから、できるようならしておきな」
布団の脇に置いているスマホを指さした。
「服は別の部屋で乾かしているよ。あんたが着ているのは孫の服だよ。お腹は空いていないかい? 今だけサービスするよ。それとも飲み物がいいかい?」
おばちゃんの優しい呼び掛けに対しても、首を振ることしかできなかった。
「なんだか知らないけど、相当辛いことがあったみたいだね。良ければあたしに話してくれって言っても、そんな様子じゃ無理っぽいから別にいいよ。辛いことなんて、無理に話すもんじゃないからね。あたしも色々あったから分かるんだよ」
真は、その言葉には反応しなかった。
「これはあたしの独り言だと思って聞いておくれ。おじいさんが死んだんだよ」
あまりに意外な話に、真は少しだけ顔を上げた。
「おや、少しは気になったみたいだね」
おばちゃんは、今まで見せたことがないほどの慈愛の籠った笑顔を見せた。
「おじいさんが死んだことで、一時は物凄くふさぎ込んでね。この店をやめようかと思ったくらいさ。葬式に来た息子から、一緒に住もうって言われて、もう潮時なんじゃないかって本気で考えたよ」
真は、黙って話を聞いていた。
「色々考えてみたけど、ここでやめたら一生後悔するんじゃないかって思って、元気でいる間は続けていこうって決めたのさ。あんたとの約束もあったしね」
なんのことかと思い首を傾げた。
「忘れちまったかい? 確か引っ越す時に十年後、また来るって、あんたがあたしに約束したんだよ」
真は、記憶を探り、自分がこの町を離れる当日に、五人が揃う最後の日ということで、お別れ会の後、駄菓子屋に集まって、おばちゃんに十年後、また絶対に来ると言ったことを思い出した。
五人との忘れていた記憶を思い出したことで、四人を失い、もうあの五人が揃うことが絶対に有りえないのだと改めて思うと、また涙が出てきてしまった。
「ごめんよ。辛いことを思い出させちゃったかね」
目を閉じた真は、首を振ることで、おばちゃんは悪くないと意思表示した。
「こうやって店を続け来てほんとに良かったと思っているよ。大きくなったあんたが約束通りちゃんと来てくれたからね」
「ありがとうございます」
おばちゃんの優しい言葉に、やっと声を出すことができた。
「なあに、礼を言うのはこっちの方だよ。何があったのかは知らないけど、後悔の無いようにね」
そう言って、慈愛の籠った微笑みを見せた。
「あの、おばあさん」
「なんだい?」
「今夜、ここに泊めてもらってもいいですか?」
「好きにおし」
その日はおばちゃんの手厚いもてなしを受けた。ここまで人に甘えていいものかと思いながらも、誰かに寄り添わずにはいられなかったので、素直に行為を受けることにした。
夜になり、空き部屋の一室を寝床に使わせてもらえることになった。
布団に入ると、これまでの疲れが出たのか、すぐに寝ることができた。
翌朝、おばちゃんにたくさん礼を言って駄菓子屋を後にした真は、駅に向かい、構内に入る前に駐在所に寄った。
「真ちゃん、もういいのかい?」
真の姿を見た高橋が、笑顔を見せながら声をかけてきた。
「はい、もう大丈夫です。昨日はありがとうございました」
頭を下げて、心から礼を言った。
「なあに仕事の内だよ。今から帰るのかい?」
「はい、この後来る電車で帰ろうと思っています」
「それだったら、もうすぐ来るよ。気が向いたらまた来な」
「そうします」
もうこの町に来ることは二度と無いと思いながら口にした言葉だった。
ホームに入ると、高橋の言う通り、電車がすぐに来たので、財布の中にあるICカードで、改札を抜けて乗った。
空いている席に座ると、うつむいたままじっとしていた。そうしている間に、電車は最初のトンネルに入った。
気付くと、また電車に乗っていた。
その電車には、覚えがあった。初めて幻想宇宙へ来た時に乗っていたもので、ご丁寧に席の位置までも同じときていて、右斜めの席にはセロが乗っていた。
「セロなの?」
確認するように尋ねた。
「そうだよ」
「ここは幻想宇宙」
「そうだ」
「どうして、わたしを呼んだの?」
「君に真実を告げようと思ったんだ」
「真実?」
「この宇宙が出来たわけだよ」
「どうして、わたしだけに?」
「ここまで生き残った君にだけに与えられた権利といったところかな」
「そういうことは、初めて会った時に全員に言うべきじゃないの」
「荒唐無稽過ぎる話しだから、初対面では信じてもらえないだろうと思ったんだ」
「どんな話」
「一握りの超天才達が、奇跡を自由に操ろうと考えたんだ。その力を使えば、誰もが理想とする平和な世界を築くことができるだろうとね。そうして様々な苦心と試行錯誤の末に、本当に奇跡を操る技術を確立し、誰もが自由自在に奇跡を操れるようになって、次元や宇宙に地球といったあらゆるものを創造していったんだ」
「地球も含めて全部、奇跡で造られたっていうの?」
「三次元も銀河も地球も小さな奇跡の積み重ねによって生み出されたものなんだ」
「あなた達、神様?」
「その例えで言うなら、悪魔の方が正しいかもしれない。結果的にダークマーダラーを生み出してしまったのだから」
「ダークマーダラーは、あなた達が生み出したものなの?!」
予想外の言葉に真は、思わず声を張り上げてしまった。
「奇跡の力を使う内に、そうした物事の常というべきか、力を使って支配や征服といった歪んだ考えを持つ者達が出始め、奇跡を使える者同士による争いが起こり、長い戦いの中、敵対者達が我々を完全に滅ぼす最終手段として具現化されたのが、ダークマーダラーなんだ」
「それじゃあ、あの化け物は奇跡の力で生み出されたっていうの?」
「そういうことになる。そして奴等の誕生は破滅の始まりとなった。生み出した敵対者を真っ先に滅ぼし、彼等の力を吸収したことで完全に暴走し、世界の全てを破壊し尽くす最凶最悪の存在になってしまい、我々も抵抗を試みたがどうにもならず、幾つもの宇宙が破壊されていく中、より強い奇跡で対抗するべく、奇攻機の建造と乗り手である選ばれし者達を選抜したんだ」
「その選ばれし者達が、わたし達だったんだよね」
「ああ、だが、ここまで来て生き残ったのは、君一人になってしまった」
「そうよ! みんな、みんな死んでしまったわ!」
「だが、その犠牲による成果はあった。現にダークマーダラーは次の戦いで滅ぼせるし、我々の世界も予測された破滅の日が延長されている。これも選ばれし者達の奇跡の力によるものだろう」
「わたしの友達が死ぬことが、奇跡だっていうの?!」
「奇跡は無からは起きない。仕組みについても話しておこう。奇跡を操る力は自分の命を削ることで可能になるんだ。小さい奇跡なら僅か、大きければ大量の命を必要とするんだ。つまり自分自身の命と引き換えに奇跡を操れるというわけだ」
「友達が死んだのも奇跡の代償だって言いたいわけ!」
「その通りだ」
「みんなを、みんなを返してよ!」
「そう言われても仕方ないし、その気持ちはわたしにもわかる」
「何がわかるっていうの!」
「わたしもダークマーダラーとの戦いで、友を失ったからだ」
「え?」
「そして死ぬ間際に、宇宙を絶対に守ると誓った。だから、君達の案内役を自ら買って出た。 どんなことを言われようとも、約束を果たそうと思ったんだ」
「それで、今度はわたしにも死ねってこと?! 宇宙を救う代わりに死んで、それでみんなのところに行けとでも言うの!」
真は、涙ぐんだ顔を隠すように、両手で顔を覆いながらセロを激しく非難した。
「結果的には君達に辛い思いをさせてしまった。これでは敵対者となんら変わらないな。それと君一人に宇宙の命運を背負わすなんて、酷いことをしいるのも重々承知している。だから、どうするかは君自身が決めてくれ。逃げたいのならそうしても構わない。君の奇跡の力を使ってもいいだろ」
「いいの?」
「それもまた最後まで生き残った者の特権だよ」
「っ!」
目を開けてみると、そこは町から乗った電車の中だった。
「逃げてもいいよね。ここまでやったんだから、もういいよね。みんな許してくれるよね。わたしなんかに宇宙救えるわけないもの」
誰にも聞こえないように小さく呟いた後、大きな失望感を抱えたまま町を後にした。
自分の家に戻った真は、部屋に篭り切りだった。四人の大切な友人を失ったという現実と向き合うことができなかったのである。
両親には、旅行の疲れから体調が優れないと言うと、二人供、夏休みの最中だからということもあって、深く追求しなかった。また、地元の友達の遊びの誘いにも同じ理由で断っていた。
そうした鬱屈した日々を過ごしていた為に、外界の変化には全く気付かなかった。
「真、市民体育館へ行くわよ」
数回のノックの後に入ってきた母親が言った。
「どうしたの、お母さん。何かあったの?」
「どうしたのじゃないわよ。外見なさい。凄い天気だから。なんか原因不明の大型の嵐が近付いているってことで避難勧告が出されたのよ。他の国でも異常気象が起こっているみたいだし。どうなちゃうのかしらね~地球滅びるんじゃないかしら」
母親は、軽い調子で言った。
「お父さんは?」
「会社から戻るって言っていたわ。ほら、早く荷物まとめちゃいなさい」
そう言うと、部屋から出て行った。
確信が持てなかったので、近くにあるスマホを手に取って調べてみると、母親の言っていた通り、世界各国で原因不明の異常気象が起こっているとネットで話題になっていた。
「ダークマーダラーだ。ほんとに世界が滅びるんだ・・・・・・・」
この世界において自分だけが知っている事実を口にした後、滅亡への恐怖から全身が震えだし、何もできなくなってしまった。
「わたし一人でなんて無理だよ。勝てるわけないよ。・・・・・・そうだ。この力を使えばどうにかなるかも」
セロの言葉を思い出して、右手を見ると、召喚される時のように微かに光っていて、なんでもできるような気になってきたので、気持ちに任せるまま光る右手を胸に当てようとした。
「ダメだ。一人で逃げたって、みんなが居ない世界なんて嫌だ!」
自身の考えを振り払うように、頭を振りながら叫んだ。
「そうだ。時間を戻せばいいんだ。そうすれば、またみんなに会えるじゃない。この方法で行こう。そして、今度こそみんなで生き残ろう」
光る右手を再度、自身に近づけた。
その瞬間、脳裏に同じように右手を胸に当てて、時間逆光を行う四人の姿がフラッシュバックのように見えていき、それが終わると全身の力が抜け、茫然となった。
「そうか。みんな、わたしと同じことをして、この時を繰り返して来たんだ。だから、何か知っているような感じだったんだ。それに辛い思いをしてきたのは、わたし一人じゃなかったんだ・・・・・・・。みんなも同じ気持ちだったんだね」
言い終えた真は、閉じた右手に左手を添え、胸に持ってくると、祈るような姿勢を取って、しばらくの間じっとしていた。
そうしている内に、真の中の絶望かつ逃避的だった考えが薄らいでいった。
「そうだね。これで終わりにしないと、わたしで終わりにしないといけないんだ。もうあんな思いは繰り返しちゃいけないんだ・・・・・・・・・・・」
胸の中で、新たな決意が固まっていく中、ベッドから降りて、ベランダに出ると、自分がここに居ることを知らせるように、右手を空に向けたものの、なにも起きなかった。
「町に行かないとダメなんだ」
言い終えるなり、必要なものを取ると、部屋から勢いよく飛び出した。
「真、どこへ行くの?!」
「世界を救ってくる!」
家を出ると、さっきまでは気付かなかったが、空は暗雲で覆われ、嫌な感じの生暖かい風が吹いていて、嵐の前触れを予感させる天候だった。そんな中、大急ぎで駅へ向かい、町へ行く電車に乗った。
電車が発進して、町へ向かう中、雨が降り出し、風が強まっていくなど、天気が荒れ始め、破滅がすぐそこまで迫っているように感じられた。
「悪天候の影響により、この電車はこの駅で運転を見合わせます」
町まで後一駅というところでの運転見合わせのアナウンスが流れた。
「こんなところで・・・・・もうっ!」
電車から降りて、駅の外に出た真はタクシーを探し、運よく一台の空車を見つけ、町の駅へ行くように頼むと、天気の悪さに一度は断られたものの、必死の頼みに根負けしたのか、渋々ながら乗せてくれた。
町へ近づくに連れ、天気はさらに悪化して、後部座席の窓からでは外が見えないほどの大雨になり、どうか間に合うようにと心から祈ることしかできなかった。
なんとか町の駅に着いて、お金を払う際に運転手にしっかりと礼を言った後、高台を目指して走った。大雨によって全身ズブ濡れにされ、暴風によって行く手を阻まれ、山に入ると泥のぬかるみに足を取られて何度も転ばされても、絶対に足を止めようとはしなかった。
そうして高台に着くと、激しく息切れする中、暗雲広がる空に対して、光る紋章を翳した。自分がこの暗雲をはらしてみせるという強い思いを込めて。
そうすると、奇攻機の格納庫に居て、ブルロボとセロの間に立っていた。
「真、ここに来たということは、戦ってくれるんだね」
「ねえ、この戦いで本当に終わるんだよね?」
「ああ、これで終わりだ」
「あなたの世界は後どれくらいもつの?」
「もって、後十五、六分といったところだ」
「わかった。わたし戦う。そして全部終わらせる!」
力強い声で宣言した後、これまでの自分と決別するように、おさげのリボンを解き、眼鏡を外したラフなスタイルになると、紋章を翳して、自身の機体に乗り、それを見届けたセロが右手を振ると幻想宇宙に来ていた。
正面を見ると無数のダークマーダラーが、幻想宇宙を食い荒らしていて、虚無の幅は、前の戦いの数十倍に広がっていて、宇宙の大半が黒く何も無い空間に染まっていた。
「いくよ!」
その光景を前にしても、真はまったく臆することなく、ブルロボに呼びかけると同時に両手から太いビームを発射して、横一直線に前方の敵を薙ぎ払っていった。
「みんな、力を貸して!」
そう言うと、ブルロボの右手にエースレッドの剣、左手にグリーンジャックのライフル、両足にキングイエローの籠手、背中にホワイトクイーンの主翼パーツが付いたフル装備状態になり、バーニアを全開噴射させ、機体を最大加速させて、敵群の真っ正面に向かって行った。
敵との距離が縮まったところで、羽パーツを分離して、群れに突っ込ませて先端から発射したビームで、中央の敵を撃破して、突破口を開くと、そこに向かって右足を突き出したキック体勢で突入していく中、つま先から発生した青色の光に機体全体が包まれ、青い流星となって、周辺の敵を次々に撃破し、通り過ぎた後に何列もの爆球を発生させた。
左右の敵群が、魚群のような陣形で攻めてくると、正面に引き付けるように高速でバックしながら、前面の敵はブルロボのビームで、右側から向かってくるのは剣を回転させた右手で切り裂き、左側の敵はライフルを連射して撃破した。
その攻撃よって敵群の陣形が崩れ始めると、熊のようなダークマーダラーが現れて、巨大な爪の生えた手を振ってきたが、剣にエネルギーを込めて発生させた光の刃で、右腕を斬った後、本体をぶっ斬って倒した。
そうして、一旦敵群れから離れたところで、羽パーツを左右一列に展開させ、さらにグリーンジャックのミサイルポッドを召喚して肩と足に装備すると、自機のビームと供に一斉発射して、大量の敵を撃破したのだった。
残ったダークマーダラーは、集合すると頭に四本の角を生やし、四つの赤い目を持つ筋肉隆々の人間そっくりな上半身に、小島のような土台の周囲に八本の龍のような頭を生やした下半身からなる巨大かつ邪悪な姿となった。
その大きさは、頭だけでブルロボと同じくらいあった。
「それが最後の姿なのね」
真は、羽パーツを分離させて敵へ飛ばし、先制攻撃を行った。
最終ダークマーダラーは、八つの龍頭から幅広のレーザーを発射して、自身に届く前に全て破壊した。
「これなら、どう?」
両手から最大クラスの極太ビームを放ったが、龍頭が口を開けて発生させ、前面に張り巡らせたバリア網によって、無効化されてしまった。
「直接攻撃するしかないか」
バーニアを全開にして接近し、龍頭から発射されるレーザーと噛み付き攻撃を機体を巧みに操って全て回避して通り抜けると、上半身が両腕で殴りかかってきたが、それも肩や肘パーツなど外装の破損程度で済むギリギリの間合いで避け、辿り着いた頭部に右足のミドルキックを直撃させたが、ダメージを与えるどころか、右足はあっさりともぎれて、虚空へ飛んでいってしまった。
「それなら!」
至近距離で、ビームとライフルとミサイルの同時攻撃を行った。
最終マーダラーは、その攻撃にまったく動じることもなく、全身に小さな割れ目を発生させ、切り口から真っ赤な目のようなものを出現させると、さっきのお返しとばかりに、その目全てから真っ赤なレーザーを一斉発射した。
すぐさまブルロボにバリアを張り巡らせることで、コックピットへの直撃は免れたものの、左足は間に合わず破壊されてしまった。
最終マーダラーは、追い打ちをかけるように右ストレートパンチを打ってきて、バリアと激しく干渉し合うも、数秒とかからずバリアを打ち破って、ブルロボの左腕を破壊すると同時に後方へ吹っ飛ばした。
「このくらい!」
背中のバーニアを吹かすことで、機体をどうにか制御して、姿勢を立て直すと剣にエネルギーを込めて発生させた光の刃を真一文字に振り下ろした。
その攻撃に対して最終マーダラーは、龍頭四つにバリアを張らせて防御している間に、自身の右手を剣のように鋭い形に変形させ、ブルロボめがけて、おもいっきり突き立てた。
真は、機体を左側にズラすことで、本体への直撃は免れたものの、右腕は肩ごと切断され、両手両足の無い満身創痍の状態にされてしまった。
「まだまだ~!」
ブルロボの絶望的状態にもかかわらず、戦意を失うことなく、機体の姿勢を立て直すなり、ビームを連射した。
最終マーダラーは、バリアすら張ることなく、レーザーの一斉発射を敢行した。
ブルロボは、敵の攻撃に合わせてバリアを張ったものの、損傷によって出力が低下しているのか、あっさり破られ、幾つものレーザーの直撃を受ける度に、肉を削ぎ落とされるように損傷を重ね、攻撃が止んだ時には、顔は半分無くなり、下半身は完全に破壊され、コックピットがある胸部装甲が全て剥がされたことで、真が丸見えの状態になった。
「まだ・・・・・負けていない」
真は、体を起こし、自身の眼で直視した敵をきつく睨みながら、操縦桿を握って動かしたものの、ブルロボは一切反応しなかった。
「お願い、動いて! ここで動いてくれないと、わたし終わっちゃう! このまま負けるなんていやだ! だから、お願い! 動いて!」
必死に呼び掛けながら、左右の操縦桿を力任せに動かし、ペダルを乱暴に踏んでも、息絶えたように目の光を失っているブルロボが反応することはなかった。
そうやって真が、悪あがきをしている間に最終マーダラーは、ブルロボの眼前に迫り、トドメを刺そうと鋭く尖らせた右手を振り上げた。
「そうだ。この奇跡の力を使えば勝てるかも。お願い、わたしにあいつを倒す奇跡をちょうだい!」
心からの祈りを込めて、紋章の刻まれた右手を自身の胸に当てて、強く願った。
しかし、何も起こらず、最終マーダラーの右腕は、無情にもブルロボと真めがけて振り下ろされていった。
「ダメなの、本当にここで終わりなの? ・・・・・・・・みんな、ごめんね」
真は、心を絶望に満たされながら目を瞑った。
次の瞬間、大きな激突音を耳にして、自分は本当に終わったのだ確信した。
だが、実際にはなんの痛みも感じず、おかしいと思って、目を開けてみると、正面には知っている後ろ姿があった。
「・・・・・・・・・・・エースレッド?」
前方に見える後ろ姿は、初めの戦いで撃破されたはずのエースレッドそっくりで、両手に持った剣によって、敵の攻撃を防いでいるのだった。
「 みなみ君・・・・・・なの?」
夢でも見ているみたいな半信半疑な気持ちで、パイロットの名前を口にした。
「そうだよ。俺だよ!」
「けど、どうして・・・・・・・・・」
真は、信じられない気持ちでいっぱいになり、自分が今どんな状況に置かれているのかも忘れて、問いかけてしまった。
「へへ~ヒーローは遅れて登場するもんだろ」
攻撃を弾き返して、振り返った姿は、エースレッドそのものであり、声の主もみなみその人だった。
「何が遅れて登場するだよ。次の攻撃来ているじゃないか!」
敵のレーザーが迫る中、二機の前方に現れた黄色の機体が、両拳を打ち鳴らすことで発生させたエネルギーフィールドによって、攻撃を無効化した。
「油断するなよ。俺が居ないとほんとダメだな。まったく世話が焼けるぜ」
そのロボットから出される声も知っている声だった。
「悪い、悪い。カッコ良く決められたんで油断しちまった」
そのやり取りは、永遠に聞くことはできないと思っていたものであった。
「キングイエロー、武君なの?」
「そうだぜ。真」
返事をしながら振り返ったロボットは、キングイエローで、乗っているのは当然のことながら武だった。
「まったく、相変わらずバカなやりとりしているわね」
また知っている声を耳にしたと思った直後、前方に向かって、ついさっき破壊されるのを見た羽パーツが飛んで行って、迫りくる八つの内の四つの龍頭を攻撃した。
「きいろちゃん?」
龍頭を押し返すと同時に戻っていく羽パーツに目を向けると、そこにはホワイトクイーンが居た。
「よくがんばったわね。真」
語りかけるきいろの声に以前の狂気は一切感じられず、真の知っている明るく快活なものだった。
そこへ向かってくる残り四つの頭に向かって、弾丸とミサイルが飛んでいって、直撃させることで追い払った。
「命中率百パーセント、計算通りだな」
「北斗君、北斗君なの?!」
真は、感情に身を任せるまま叫んだ。
「そう、僕だよ」
グリーンジャックに乗っている北斗は、クールながらどこか温和な感じのする声になっていた。
「みんな、どうして、ここに居るの? だって、みんなは・・・みんなは・・・」
その先を言うのは怖かったので、声に出すことはできなかった。
「真の持つ奇跡の力が俺達を呼んだんだ」
みなみが、全員を代表するように説明した。
「奇跡の力、ちゃんと効果があったんだ・・・・」
真は、涙を流しながら、強く握った右手に左手を重ねた。
「だから、こういうこともできるんだぜ」
四機が、ブルロボに集まって右手を添えると、機体全体が光に包まれ、次の瞬間には傷一つ無い状態に完全再生したのだった。
「すごい、こんなことまでできるんだ」
「さて、ミラクル☆5が揃ったところで、あいつを倒そうぜ」
初陣以来、久々に勢揃いした五機は、最終マーダラーと正面から対峙した。
「僕の作戦は」
「合体だ!」
みなみは、北斗の言葉を遮るように叫んだ。
「何言ってんだ。お前?」
「相変わらずバカね」
「非効率過ぎるぞ」
三人は、やれやれと頭を振った。
「んだよ。こういう時は合体して、それこそほんとに力を合わせて戦うもんだろうが! お前達はロマンが無さ過ぎなんだよ!」
みなみは、自身の信条を力説した。
「あはははは!」
四人が言い争う中、真は一人大笑いした。
「なんだよ。笑うことはないだろ」
「いいね。合体しようよ!」
真の口から出たのは、合体を了承するという意外な言葉だった。
「おいおい、この馬鹿の言うことに合わせるのか?」
「真、それ本気?」
「君らしくないな」
「いいじゃない、せっかく五人揃ったんだもの、合体しよう。そしてわたし達ミラクル☆5の絆の強さをあいつにぶつけてやろうよ!」
真は、力強い声で、四人に呼び掛けた。
「真も、こう言っていることだし合体だ! 奇跡の力を持っている俺達なら絶対にできるぜ! なにせ、俺達ミラクル☆5だからな!」
「その通りかもな」
「たまには、こういうのもいいかもね」
「計算以外のことをするのも有りか」
「みんな、いくよ!」
「おう!」
真の号令に合わせて、四人が返事をした後、ブルロボが球体状のバリアを張って合体の間の防御壁を構築した。
最終マーダラーは、そのバリアを破ろうとレーザーを発射したが、全て無効化され、パンチで破ろうとしたものの、拳が触れた途端に弾き返されてしまった。
バリア内では、四機がブルロボを中心に飛び交い、キングイエローが左右に分離して変形してブルロボの両足に、ホワイトクイーンが背中へ、グリーンジャックも分離して両腕になり、最後にエースレッドが胸に合体していった。
その間、ブルロボのコックピットでは、真を中心に左側に武ときいろ、右側に北斗とみなみの順番でパイロットシートが連結され、五人を一つの空間で勢揃いさせ、操作方法なども自然と頭の中に入っていった。
合体完了と供に、解かれたバリアから姿を現したのは、大きさも太さも存在感も五機の奇攻機の何倍に増した威風堂々たる出で立ちの巨大ロボットだった。
「五体合体! グレートミラクル!」
合体が完了したところで、みなみ一人が叫んだ。
「なんだよ。それ?」
「なにって、この合体ロボットの名前に決まっているだろ」
「あんた、ほんとアニメバカね」
「ダサいな」
「わたしは、これでいいと思う」
またしても真だけが、賛成した。
「真、ほんとに変わったな」
隣に居る北斗は、呆れているような喜んでいるような複雑な表情を浮かべていた。
「色々あったから」
五人が会話している中、グレートミラクルと最終マーダラーは真っ正面から対峙し、体格差はブルロボに比べて僅かにしか縮まっていなかったが、機体から放たれる存在感ではまったく引けを取っていなかった。
最終マーダラーは、先制攻撃とばかりに、グレートミラクルに向かって、龍頭全てからレーザーを発射した。
グレートミラクルは、避けようともせず、単機の時よりも何倍も太くなった左腕を上げ、ブルロボとは異なる金色のバリアを前面に展開して、レーザーを完全に無効化してみせた。
「それじゃ、俺様から攻撃させてもらうぜ! 武、お前のパーツ借りるぞ~!」
みなみが言うと、両足の一部のパーツが分離して、両拳と合体してボクシングのグローブ状になると、右腕を殴るように前方に突き出すと同時にジェット噴射の要領で本体から飛び出し、左腕も同じ要領で飛ばしていった。
最終マーダラーは、龍頭にバリアを展開させて、防御しようとしたが、飛んで行った両腕はバリアと干渉するも数秒で突き破り、本体の周りを飛び回りながら仰け反らせたり屈ませたりと、何十回もの殴打を繰り返して、本体に戻っていった。
「次は俺だ!」
両腕と足パーツが元に戻ると、バーニアを噴射してグレートミラクルを敵に接近させ、レーザー攻撃をバリアで防ぎながら距離を詰めていき、それに合わせて迫ってくる龍頭の噛み付き攻撃は、機体を急上昇させることで全てかわし、上半身よりも高い位置まで達すると、両足を突き出した状態で、高速回転しながら突っ込んでいった。
そうすると、つま先から発生した金色の光が機体全体を覆い、キングイエローの時の何十倍も巨大な金色のドリルと化した。
最終マーダラーは、両手を前面に出して、押し止めようとしたが、ドリルの威力を前に歯が立たず、両手を砕かれ、腹部への直撃を喰らった上に、上半身と下半身を分断させられた。
「今度は、あたしね」
本体から分離した主翼パーツを両手で持って、顔の前で接合面を繋ぎ合わせ、巨大なブーメランにすると、右手で持って勢いよく飛ばして、龍頭の全ての首を切り離すと同時に、二つに分離し、ライフルに変形した羽パーツの先端から太いビームを発射して、頭を全て破壊していった。
「残りは、僕に任せろ!」
北斗が言うと、グレートミラクルの胸、肩、翼、足パーツが合わさって、一つの巨大な大砲になり、各グリップを両手で持ち、右目に当てたスコープで照準を合わせ、トリガーを牽いて砲口から出した極太のビームで、下半身を完全消滅させた。
上半身だけになった最終マーダラーは、弱ることもなく体の向きを変えるなり、グレートミラクルに猛然と迫ってくると、押し潰すそうとするように、大きく広げた両手を左右から一気に近づけていった。
グレートミラクルは、その場から動かず、両腕を水平に上げ、バリアを張ることもなく、大きく広げた両手だけで攻撃を受け止めると、敵は首を伸ばし、大きく口を開けて、内部に生やした無数の牙で、喰らおうとしてきた。
その攻撃に対しても、グレートミラクルは両肩はそのままに体だけを回転させたサマーソルトキックでもって顎を蹴り上げ、その攻撃によって両手の力が緩んだ隙に急接近して、両腕を突き出したダブルストレートパンチを打って殴り飛ばしたのだった。
「真!」
四人が、一斉に呼び掛けた。
「わかっている」
真が、操縦桿を動かすとグレートミラクルが腰から出した剣を両手で持って頭上に掲げるのに合わせて、本体から分離した主翼パーツが剣の鍔と合体すると、機体の身長を超えた金色の大剣となり、その光り輝く切っ先を敵に向けた。
それを見た最終マーダラーは、対抗するように両手を合わせ、剣状にすると向かってきた。
グレートミラクルは、真っ正面から迎え撃ち、敵との体格差をものともせず、幻想宇宙と虚無の間を縦横無尽に移動しながら互角以上の激闘を繰り広げ、黄金と漆黒の刃がぶつかる度に、ビックバンを軽く凌駕するほどの凄まじい衝撃と閃光が生じたが、どちらにも傷一つ付かなかった。
そうして、何度目かの刃のぶつけ合いの後、つばぜり合い状態になるも、グレートミラクルのパワーが押し勝ち、最終マーダラーを後方に押し出した。
「そろそろ、決めようぜ」
みなみの呼びかけに、真が頷き、グレートミラクルが剣を頭上に掲げると、刃から金色の光が溢れ出し、天を貫かんばかりの黄金の光の刃が構築され、勢いよく縦一直線に振り下ろし、最終マーダラーを一文字に斬った。
「みんな、いい?」
真の問いかけに、四人全員が頷いた。
「じゃあ、やるよ!」
グレートミラクルに剣を右斜め下に構えた姿勢を取らせ、敵に特攻をかける中、機体全体が刃と同じく金色に輝いていった。
最終マーダラーは、苦し紛れに一発のレーザーを放つと、その一発は顔面に命中して、マスクを破壊し、口元を露出させるも失速することなく、五人の気合いを代弁するかのように、グレートミラクルは口を大きく開けながら、剣を右斜めに振り上げ、すり抜けながら袈裟懸けに斬った。
二度の斬撃を身に受けた最終マーダラーは、切り口からこれまでの敵以上に大きな閃光を発した後、大爆発して跡形もなく消滅したのだった。
「終わった」
振り返って、静かになった幻想宇宙を見て、 勝利を確信した真は、全身の力が抜けたように、シートにもたれた。
目を開けてみると、そこは電車の中で、右斜め前の席にはセロが、隣の席には四人が座っていて、晴れやかな笑顔を向けていた。
「どうなったの? わたし達勝ったの?」
「ああ、俺達の大勝利だ」
「何が俺達だよ。がんばったのは真だろ」
「ほんとにそうね」
「計算を遥かに上回る行動力だ」
「ううん、みんなが居てくれたからだよ」
真が言い終わると、電車が停止した。
「行くか」
みなみが、席を立ちながら言った。
「どこへ行くの? みんな一緒に帰れるんじゃないの?」
「俺達は、奇跡の勝利を真に掴ませる為に来たんだ。だから、ここでお別れだ」
「嫌だよ。また、みんなと離れるなんて、わたしだって奇跡の力を使ったんだから、死んでもおかしくないよ」
「ブルロボを再生させる時に、俺達の残っている奇跡の力をお前に渡したんだ。だから、お前だけは帰れるんだ」
「そんな・・・・・・。 これからもずっと五人一緒にいようよ! わたし達ミラクル☆5じゃない!」
その言葉に対して、四人は返事をせず、笑顔のまま首を横に振るだけだった。
「真、大活躍だったな。お前なら俺以上のヒーローになれるぜ」
初めに席を立ったみなみが、真の頭をくしゃくしゃと撫でながら言葉をかけた。
「わたし、女の子だからヒーローじゃなくて、ヒロインだよ」
真の言葉を受けたみなみは、笑顔のまま電車から降りて行った。
「もう、俺が守る必要も無いな。ここまでがんばれるようになるなんて驚きだぜ」
武が、席を立って、真の肩に手を置きながら声をかけた。
「わたしだって、いつまでもか弱い女の子じゃないんだよ」
その言葉を受けて、武は笑って電車から降りて行った。
「あたし以上にいい女になったね。真ならもっと素敵な
席を立ったきいろは、真の両手をしっかり握りながら言った。
「うん、きいろちゃんがびっくりするくらいに素敵な
きいろは、笑顔で手を振りながら電車から降りていった。
「真」
席を立った北斗が、名前を呼んだ。
「北斗君!」
真は、堪えきれず、席を立つなり、北斗におもいっきり抱き着いた。
「やっぱり、行っちゃうんだね」
北斗の胸を涙で濡らしながら言った。
「ああ、けど、こうしてまた真に会えたことが、僕にとっての一番の奇跡だよ」
真をしっかりと抱きしめながら想いを口にした。
「北斗君」
二人は、強く抱き合った。
その後、体を離した北斗は振り向き様に微笑んで、電車から降りた。
「わたしも行く」
席から立ったセロが、真に言った。
「あなたも降りるんだね」
「そうだ」
「これからどうすうるの?」
「ダークマーダラーに消滅させられた幻想宇宙の再生を行う。どれだけ時間がかかるのかわからないけど、必ず再生させてみせるよ」
「がんばって」
「ありがとう。宇宙を救ってくれて。ありがとう。わたしを解放してくれて」
言い終わって、帽子とコート脱ぐと、そこに立っていたのは、麦わら帽子を被り、おさげ髪に眼鏡をかけた真だった。
「じゃあね」
真が、無言で頷くと、もう一人の真は、電車から降り、そのタイミングに合わせて、電車が走り出し、反対の席に駆け込んで、窓から外を見ると、そこは青空が広がる駅のホームで、真を祝福するように笑顔で見送っている五人が居て、その後ろには白い服を着た大勢の見知らぬ人々が、心から感謝するような笑顔を浮かべて立っていた。
そして、その奥には全ての戦いが終ったことを象徴するように静かに佇むグレートミラクルの姿があった。
「みんな、さようなら」
気付くと高台に立っていて、さっきまで大荒れの天気が嘘のように暗雲がはれ、空には青空が広がっていた。その後は駄菓子屋によって、おばちゃんの口添えの元に北斗の両親へ事情を話して、残してきた荷物を受け取り、帰ることになった。
電車が来ると、見送りに来たおばちゃんに手を振って電車に乗った。
空いている席に座ってホームを見たが、そこには居るであろう人影は無く、また泣きそうになったところで、右手を見てみると、そこには選ばれし者の証である星の紋章が残っていた。
右手を開いた状態で、胸に当てると、感極まって涙が溢れ出てしまい、そのタイミングに合わせるように電車が発車した。
真は、五人の絆を胸に、町から去っていった。
終わり。
ミラクル☆5 いも男爵 @biguzamu
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