無法地帯となった横浜は高い壁によって外界から封鎖され、
現在では4つの国のマフィアによって共同統治されている。
中国、ロシア、イタリア、日本のマフィアのドンはそれぞれ、
ジョーカーと呼ばれる若きスペシャリストを手札に持っている。
功夫の達人の傅玉林、
全身を機械化したユーリャ、
火砲のエキスパート、ギャビー、
神速の剣客、山茶花。
人間離れした戦闘センスを持つ4人が謎の少女と遭遇して、
事態は加速度的に展開され、バトルは激しさを増していく。
少女はなぜ追われるのか、少女を追う刺客は何者なのか。
やがて見えてくるのは、凄惨な人体改造の実験模様──。
バトル描写の鮮やかさとキャラクターの個性の強さが魅力的。
スピーディに展開される物語は、アニメ映画で見てみたかった。
半面、もたつかせないためだろうが、心理描写は薄味に感じた。
カットバック的に多方面を映すあたりも非常にあっさりだった。
ジョーカーひとりひとりをもっと掘り下げて知りたかったな、
というわがままな感想(特に傅と羅老師が何か好きだ)。
文庫サイズでは仕方ない字数だろうけれど、少し物足りない。
イラスト付きでガッツリ読みたいと思いました。面白かったです。
テーブルの上に山と積まれた札束を崩し、真っ赤になった大男が手持ちのカードを放ってみせる。
「掛け金の吊り上げに最後まで付いてきたのは褒めてやろう。だが残念だったな。俺の役は山賊狩人3枚、機人銃火気が2枚の『充ち満ちる無頼漢(フルハウス・クリムゾン)』だ。勝負はあったなぁ!」
勝利を確信して獰猛な表情を見せる大男を前にしても、対面に座る青年はゆるりとした顔を崩さなかった。
「なるほど、いいカードだな。じゃあ、次はこちらから」
青年はテーブルに並べた5枚の手札の、一番上をめくった。
カードに描かれていたのは年端もいかない可愛い少女。
青年の余裕の笑みに少し身構えていた大男は、カードを見て一笑に付す。
「はっ! 保護対象(カレンなショウジョ)かい。そのカードで作れる役なんざ高が知れてる。残念だったな、蛮勇匹夫さんよ」
あからさまな蔑み。それでもなお、青年の表情は崩れない。
続けてめくり上げていく。
次に現れたのは風流巧手(ザ・ジョーカー)。
「ああん? ジョーカーだと?」
3枚目、姫心電神(ザ・ジョーカー)、4枚目、硝煙舞踏(ザ・ジョーカー)。
大男の目が大きく見開かれ、周りで息を詰めていたギャラリーが期待と興奮でざわめきだした。
感情渦巻く直中で、力強く相手を見返す青年の手が、最後のカードを繰り返す。
5枚目……鮮明一閃(ザ・ジョーカー)
「悪いな、ビックマン。こっちは『デスペラード・フェアリーテイル』だ」
「なん……だとぉおおおお!」
正に、絶対勝利の役。
テーブルを中心にして、圧縮された感情が爆発。大歓声が沸き上がった。
「次は、僕の番ですか」
未だ興奮冷めやらぬ場。その中でもひやりと通る冷たい声。背筋を悪寒が這い上がる感触に、皆の声も静まっていく。
そう、最後まで付いてきたのはもう一人居た。
年齢不詳で素性も知れぬ、怪しい男。趨勢が定まったはずのテーブルで、一人ニヤニヤと笑っていた男が、自分の手札を一枚だけめくって見せた。
描かれていたのは、誰も見たことの無い顔。
『アン・ノウン』
不可思議なカードに呼応して、カレンなショウジョがふるふる震えた。
そして誰もが理解した。
この勝負は始まったばかりなのだと――