魔眼の忍者は地球と自分の未来を憂う

入栖

魔眼の忍者は個性豊かな仲間達と出会う

1話

現代文や古典といった教科を午後に、それも昼飯の後に行うことに関して、俺はいつだって疑問だった。

 そもそもその時間帯と言うのは、食事の後と言う非常に眠くなってしまう時間帯である。だと言うのにつまらない子守唄を聞かせることで、授業に対するやる気は減り、集中力は散漫になり、眠気を増長させてしまうことだろう。


 つまり何が言いたいのかと言えば、こんな時間に古典をする事が悪いのだ。


「と、犯人は供述しており……」

「おい、聞いていたのか?」

 俺の正当性あふれる話を聞いていたのか聞いていないのか、柿原(かきばら)はスマホから目線を離さずにそう言った。

「もちろん、聞いていたさ。自分のせいなのに他に罪をなすりつけようとしていたのをね。無理があるよ」

 無論、俺もそう思う。

 はぁ、と俺がため息をつくと、柿原は苦笑いをしながらスマホをブレザーの内ポケットにしまった。


「まぁ僕はその言い分は嫌いじゃないからフォローは入れたいよ。だけど寝ているのが教師にバレてしまったんだから、どういう理由であっても駄目駄目さ。逆に湊みなとが寝ていたのがバレなければ別に問題は無かっただろう。だけど世の中は……」

「結果が全て、だろ?」

「そうだね、湊も僕の事が分かってきたようじゃないか」


 そりゃあ中学3年間、さらには高校でも同じクラス。しかも事あるごとに話しかけてくれば誰だってお前の言いそうな事なぞ分かる。

「まぁ今日の湊は運が悪かったよ、そうと言わざるを得ない。君は指名されるまでバレていなかったしね」

「古典は指名がほぼランダムだからな……そのせいだな」


 古典の先生の指名はその月日や時間を使って、不思議な計算がおこなわれたのち指名をする。そのため7月29日だからといって7番や29番が当たるわけではない。今日は(9-2)×7-(7+2+9)の計算をしたそうだ。アホか。

「そう言えば知ってるかい? 古典の先生はフォルトゥーナなんだってよ?」

「フォルトゥーナ? ……何だそれ、つか誰がそんな事を言っていたんだ」

「フォルトゥーナはローマ神話における運命の女神だよ、ちなみにフォルトゥーナ云々(うんぬん)は先生本人が言っていたさ」


(自分の事を自分で運命の女神言うのはどうかと思うが……)


「だから寝ている湊が当てられたのは運命だったんだよっと。まあ古典はもういいや。それで湊はこれからどうするの? 僕はそろそろ部活へ行くけど」

 そう言って彼は教卓の上の方を見つめる。俺もつられてそちらを見ると、そこにあった時計は既に放課後になってから20分以上経過していることを教えてくれた。

「超能力研究会か?」

「ああ、もう少しで何か掴めそうな気がするんだ。もうすぐ僕が超能力を使うことができるようになるから、見ていてよ。そうすれば湊も超能力を信じてくれるだろう?」


 超能力を使う。それは現代日本においてとても非現実的な事だった。そんなものあるわけがない、なんて普通の人はそう言うだろう。だけど『そんな馬鹿な事出来るわけないだろう』だなんて俺は口が裂けても言えなかった。

「できたら、な」

「いずれ僕は超能力で自由に物を浮遊させてみせるからね、っとじゃぁ僕は行くね」

「ああ」


 彼が意気揚々と教室から出ていく姿を見送ると、自分の荷物をまとめ岐路につく。

 授業が終わったばかりだと言うのに、グラウンドには沢山の人がいた。テニスラケット、バット、サッカーボール。それぞれの得物を手にして、彼らはグラウンドを駆け回る。俺はそんな人たちを一瞥し、北門へ向かって歩き出した。

「危ない!」


 それは女性の声だった。東だろうか、俺は顔をそちらに向けると目の前にはベージュの球が僕に向かって飛んできているではないか。

「うぉっ!」

 思わず手を出し、その球を掴み取る。よく取れたなと感心しながらそのボールを力を込めて握った。それは柔らかくて弾力があって、感触だけで言えば非常に気持ちのいいものだった。

 握ってみて分かった事だが、それはソフトテニスで使われる球のようだ。柔らかいその球はもしキャッチに失敗して顔に当たった所で、たいした怪我もなかっただろう。目に当たれば話は別だろうが。


「あ、あの、ごめんなさい! 大丈夫でしたか?」

「大丈夫です」

 駆けよって来たテニス部の女子に球を渡すと、彼女はもう一度謝り深く礼をしてテニスコートに戻っていく。俺はテニスコートに戻っていくその女性を見て、一つの疑問が浮かんだ。

「あれ、テニスコートって結構高い柵に囲まれてなかったか?」

 彼女は壁打ちでもしていたのだろうか。まぁ、考えて解が出た所で、だからなんだとなりそうだったので考えるのはやめた。


 それからは中学の時に同じクラスだった奴に出会った以外は何事もない、いたって普通の岐路だった。だけど家に入ってすぐに俺は普通ではないなにか違和感を感じた。

 それは靴である。いつもなら妹の靴がだらしなく置かれている筈ではあったが、今日は見当たらない。テレビの音も聞こえないし、人の気配がない。

 しかしよくよく考えてみれば、昨日から妹は夏休みに入っているはずなので、もしかしたらどこかに出かけてしまったのかもしれない。どうせ親は今居ないのだから、帰りが遅くなったところで文句は言われないだろう。

 靴箱に靴をつっこむと手を洗いリビングへ行く。そしてキッチンに入り冷蔵庫から飲み物を取り出そうとして、俺は冷蔵庫に封筒が張ってある事に気が付いた。

「俺宛?」

 その封筒を開けて中から出来て来たキャッシュカードと手紙を見て一人、納得する。


「どおりで妹は居ない訳だ」

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