第4話 宇宙海賊再び

宇宙船スピカは宇宙を航行中

「最近仕事も増えたし、順調だよなあ」

フウカが皆に話しかける。

ちょびっとボ―ナスも出せそうだ。

「聞いてくれよフウカ。俺なんて貯金しちまったぜ。貧乏生活に慣れちゃったから普通に給料もらうと余る余る(笑)」

ライムが笑いながら報告した。

「みなさんの地道な努力の賜物ですね。会計担当の仕事もやりがいがあります。なんと今年は税金も納めちゃう勢いですよ」

「そういえば、税務署の人に同情されちゃったもんな・・・私達(苦笑)」

「うん、必要経費で落として税金納めなくていいとかなんとか・・(照笑)」

ライムの前の無線に呼び出し音。

「はい、仕事も素早いいい女ローズ商会のライムです」

「はい????えっ?はあ・・・・」

「ライムどうしたんだ?なんかの勧誘か」

「船舶コード信号を補足したって」

「誰が?」

「宇宙海賊・・・」

「きたっ!!すっかり忘れていたのに」

「私達殺されてしまうのん?」

「ライム、確認しておくけど仕事の依頼とかそういったことではないよな」

「船舶コード信号を補足して自動誘導するって言って切られた」

「この間のCGのこと根に持っているんだろうか」

「おい、スーチー。今度はワーロック船長を2割増しくらいでいい男にして御機嫌伺いしてみたらどうだろうか」

「あい、やってみます」

既に宇宙船スピカ号の操縦桿は効かなくなっていた。

「とにかく、相手を怒らせない様に低姿勢で行こうぜ」

「いくらなんだって地球政府軍と戦っている奴らと戦闘行為なんてまっぴらだよ」

「フウカ、こんな感じでどうだ」

ライムが不自然な笑顔を作ってみせる。

「うわっ、そういえばおまえって笑顔が軽やかじゃないよな」

「ほっとけ、愛想笑いなんて苦手なんだよ」

「フウカちゃん、こんな感じでどうかな?」

スーチーがワーロック船長の顔をいじったCGを見せた。

「うわっ、貧しいオカマみたいなっているじゃないか」

「そうですかぁ・・・色白にして唇を血色良くしてみたんですが」

「男の肌は赤銅色とか言いそうな感じだけどな。色白の船長なんて宇宙海賊としてどうなんだろうか」

「でも、今時は男っぽいより中性的な感じが受けているんじゃ・・・」

「そうなのか・・・流行なのか。じゃ、送ってみるか」

「あいっ。送信と」

ほどなくしてライムの前の無線が鳴った

「はい、仕事も早くていい女、ローズ商会のライムでーす」

「うおっ、コロス・・・・いや、ご機嫌伺いで・・その」

「おい、フウカ。ワーロック船長お怒り気味だぜ。艦内は爆笑だったそうだけど」

「うわっ、やっぱり赤銅色なんだよ。スーチー」

「こんな感じだけどいいかな」

スーチーが顔の色を変更した。

「うわっ、酒の飲み過ぎで肝臓悪くしたオカマみたいじゃないか」

「赤銅色と土気色は別だぞ。スーチー」

「1667万色もあるとどんな色でも再現できるけど・・・・」

「こんな感じ」

「うわっ、一杯飲み屋から出てきたオカマみたいじゃないか」

「そうか、唇が赤過ぎるんだわ。これならどうだ」

「うわっ、寒い時にプールに入れられたオカマみたいになっているぞ」

「いっそのこと肌の色をグリーンとかにしたらお洒落じゃないだろうか」

ライムが茶々を入れてきた。

「ならばウロコはかかせまい」

フウカも調子に乗ってきた。

「怪人トカゲ男って感じですね」

スーチーがワーロックの顔にウロコを移植し始める。

「ふう・・・完成した」

「これを送ったら、この宇宙船スピカとともに私達が宇宙の藻クズになるのは確実だな」

「しかし、この完成度は捨てがたいけどな」

「むしろ悪のヒーローとして売り出してもいいくらいだぜ」

「ワーロック船長はともかく、娯楽の少ない艦の乗組員に癒しの水になるのではないか」

「フウカちゃん、ライムちゃん、この送信ボタンをクリックしたら終わりですよ。どうしますか?」

スーチーが震える手を抑えつけている。

「悩む所だな・・・私もまだ死にたくはないし」

「シャレの分からない奴が大海賊なのか?」

「いや、渋く決めたいんじゃないの。わからんけど」

「シャレで政府軍と戦っていないと思いますけど」

そうこう悩んでいる内に宇宙船スピカは宇宙海賊の艦内に収容された。

「いいか、怒らすんじゃないぞ。命が危ないからな」

「フウカ、こんな感じか」

ライムがぎこちない愛想笑いをして見せた。

「ライム、私も見てくれ」

フウカが引きつった笑顔を作った。

「フウカちゃんもライムちゃんも酷い・・・」

もちろんスーチーの顔も同様だった。

艦長室に案内される。

「すまんな。いきなり誘導したりして」

「いえ、自分らゴミ虫ですから、ほんと構いません」

フウカが急にモミ手を始めて、引きつった愛想笑いをした。

「いつもツンと澄ました顔のフウカが・・・・人生は臨機応変だな」

ライムがフウカの態度に感動した。

「でっ、あっしらゴミ虫にどんな御用でございましょうかでありんすか」

「ライムちゃん・・・敬語なんて使ったことないから花魁まざってるし」

乱暴な口のきき方のライムに慣れているスーチーは戸惑いを隠せない。

「おいおい、いつものローズ商会らしくないじゃないか」

「いや、勉強不足で御高名な方と存じ上げませんでして、失礼の数々。深く反省している今日この頃ですでごわす」

ライムが尋常じゃないほどの汗をかいている。口が達者なので営業担当を任され

ているのだが、さすがにプレッシャーの押しつぶされそうだった。

「今回の依頼だが、ある品物をこの艦まで運んでもらいたい。ロボットに操縦させて運ばせていたのが、宇宙船の故障でロボットではどうにもならないらしい」

「では、引き受けさせていただきますです。フウカキャプテン。よろしいでございますでしょうか」

「あの、積荷はイリーガルなものではないですか?」

「スーチー」「スーチー!!」

「もちろん合法なものだよ。日本食の材料だ。政府軍の立ち入り検査を受けても何の心配もないぞ」

傍で会話を聞いていたMが笑って答えた。

「ローズ商会は武器・違法薬物等の輸送はお引き受けできませんので」

「承知した。で、料金はいかほどになるか」

続けてMが質問してきた。

「えっと360ギャラ・・・」(3万6000円くらい)

「なに、そんなに安いのか?」

「えっと360万ギャラ」(3億6000万円くらい)

「そんなに高いのか?」

「あっ、やっぱりスーチーも緊張している・・・」

唯一冷静だと思っていたスーチーが壊れていた。

「結局、36,000ギャラで話がまとまったけど・・・よかったのか」

「地球と火星の間からここまで往復して、手数料をひいても3600ギャラぐらいだから、相場の10倍はいただいています」

「前金とは気前がいいよな」

「バッくれたら殺されますです」

「そうだったな。それよりライム。歯がむき出しのままだぞ」

「そういうフウカだって目が笑ったまま固定されているぞ」

「えへへへ・・・途中からみんなの緊張が伝染しました」

犯罪がらみではないけど、宇宙海賊の手先になっているというのはどうなんだろうか。考えまい。是非もないことなのだ。

「ライム、スーチー、もしこのことが政府軍に露見した場合は、やらなきゃ殺されるところだったんだって言うんだぞ。じゃないと海賊の一味だとも思われるかな」

「あい、了解しました。アニメで言う所の「警戒が厳重なので私を置いて逃げまた」という感じですね。」

「しかし、フウカよ。ポンと36000ギャラも出してくれるなんていいお得意さんじゃないか」

「そりゃそうだけどさ。ホイホイ海賊の仕事受けてるなんてことが公になったら営業許可が取り上げられちまうぜ」

「そうだな、コツコツと月と地球間の御用聞きやりまくって実績作ってやっと取った許可だからなあ」

「まあ、根本的に運が悪かったら宇宙刑務所でこんにちはだな。あはははは」

「ううう・・・」

「うううう・・・」


地球と火星の間で故障していた宇宙船はすぐに見つかった。

「あたし達のより年式の新しい船じゃないか。見かけ倒しって奴かい」

故障した宇宙船に横づけすると三人が艦内に乗り込んで行った。

「いつまで待たせんだ。馬鹿野郎」

電子音声で怒鳴られる。


「ずいぶん口の悪いロボットだな」

「うるさい。ウスノロどもめ。さっさと修理しやがれ」

「でっ、故障個所はどこなんだい」

「自分て調べやがれ。俺様の電子頭脳はそんなことを説明するためにあるんじゃないぞ。愚か者め!!」

「そこのブス。ボヤボヤしてないで俺様の肩をもめ」

「あの・・どの辺が肩なのでございましょうか?」

「肩はここだろ。ボケが!!」

ライムの肩にロボが金属の腕を叩き落とした。

「グアッ、何しやがるこのポンコツがっ!!」

「そんな反抗的な態度だとワーロック船長に報告するぞ」

「くっ、がまん、がまん。なんせ10倍の相場だかんな」

ライムが自分に言い聞かせるようにして強く拳を握りしめた。

「ライム、すまん。耐えてくれ」

「そこのおっぱいお化け。さっさと修理に取り掛かれ。クソが!!」

「ほう・・・この私をおっぱいお化けとか言うのか・・・」

フウカのこめかみに血管が浮いている。

スーチーがロボットの背後に回って、鼻歌交じりにコネクタの型を調べている。

「おい、メガネブス。何をしているのか」

プチっと配線をつなぐとスーチーはパソコンのキーボードを一気に叩き始めた。

「誰がメガネブスですって?」

「貴様、何をした・・・なんだかとても眠い・・んだ・・・パトラッシュ」

「乗っ取り完了です」

「でかしたぞスーチー。ロボにガタガタ言われながら修理なんてしたくないからな」

「ピッキュュュュュン・・・緊急再起動モード」

眠ったロボットに再起動がかかった。

「うああああ・・・ロボが私のPCを通してハッキングし始めましたです」

「おい、ポンコツロボ。これが何か分かってんだろうな」

フウカがNo1 とNo2の電動プラスドライバーを見せた。

「私を分解しようというのか・・・・」

「だから、わざと適性外のこいつで分解しておまえのネジ山を全部潰してやんよ」


(うわわ・・)

フウカがにやりと笑った。

「き・さ・ま・・・・」

「そこの髪の短い男みたいなブス。こいつを止めろ。これは命令だ」

ライムは両拳にメリケンサックをはめて準備運動をし始めた。

拳を繰り出すごとにボッ!ボッ!と風切り音が聞こえてくる。

「負けないです。画像にスーチー特製ウィルス仕込んで送り込むです」

スーチーが異常な速度でキーボードを叩いている。

「ブスどもがっ~!!・・・・暴力反対ですぅ」

「今度ブスとか言ったら本当に分解するからな。私の知り合いに金属を高く買ってくれる奴がいるんだ」

フウカがドスの効いた声で、ロボにしか通じない恫喝をした。

「お嬢様方の手を煩わして本当に申し訳ございません」

「遠いところ、お疲れでしょうから、私が淹れたティーなどで一旦御休憩されてから作業に取り掛かられてはいかがでしょうか」

「おいおい、どうなってんだ。こいつ」

「私が完全に乗っ取ったです。無理やり再起動したらハードディスがクラッシュするように仕組んだです」

「ちっ、背中に穴を開けてソケットから部品を手当たり次第に引き抜いてやろうと思ったのに」

ライムが舌打ちをしながら拳を繰り出した。

「うーん・・・推進装置の故障のようだから宇宙空間での修理は難しいね。近くのグランドスペースまで引っ張って行こうか」

故障した宇宙船を調べていたフウカが提案した。

「あい、私達の宇宙船でけん引するんですね」

グランドスペース№4 宇宙船修理ドック

「ロケット推進の噴射口が詰まっているようだね。定期メンテナンスしてないんだね」

「今時はメインテナンスフリーじゃないのかよ」

「ほとんどはそうだけど、だから定期でassy交換してないと怖いのさ」

「宇宙空間でにっちもさっちも行かなくなるのは嫌だろ」

「まあ、定期交換部品ばかりなんで私達の船に積んである在庫品で何とかなるレベルだよ」

「点検してメンテナンスしていれば安心というわけさ」

「宇宙船スピカは中ブル(中古)だから部品がないとか嘆いていたじゃないか」

「最近、新型船の開発ラッシュだから古い船はどうしてもね。メーカーの部品在庫が手薄になるんだ。困ったもんだよ」

「古くても人気のZ1とかCBとかの形式の船だと型が古くても復刻部品でなんとでもなるけどね」

「だったらそっちを買えばよかったじゃないか」

「おっそろしく価格が高いのです。ライムちゃん」

「そう、Z1を買う価格でkz1300が3台買えるからね」

「ふぇー・・・世の中そんなことになっているのかよ」

「いつかローズ商会が支店数427店になった暁には、最新型のZX-14Rに買い替えるよ」

「宇宙船スピカを廃船にしちゃうですか」

「そんなことはしないよ。こいつは私達の歴史の一部だからね」

「安心したです。ちょっとスピカに油を差してくるです」

スーチーがスピカの停泊している所に走って行った。

「おいおい、いくらなんだって宇宙船に油差す所なんてないぞ」

「思えばOL辞めて、なんでも屋始めて、借金して宇宙船買って・・・色々あったな」

「それが今じゃ、宇宙海賊のパシリみたいなことやって・・・」

「言うなっ!!言わないでくれよ。ライム」

修理も完了し、慣らし運転をしに行くことにした。

「こちら地球政府軍・警備隊です。宇宙船識別コードに不審な点があるため停止をお願いします」

「うぉっ、いきなり捕まったぞ」

「私達の人生は終わったですか?」

「スーチー、例のあれだ」

「あい、警戒が厳重なので私を置いて逃げましたですね」

「いや、この状況でそんなこと口走ったら余計に突っ込まれそうだぞ」

地球政府軍の宇宙船が横付けして、艦内に入るように指示してきた。

「この艦の責任者の方のみおいでください」

「せっ、責任者って言うと私か・・・」

「フウカ・・」

「フウカちゃん」

「ライム、スーチー今までありがとう。二人がいたからここまでやってこれた」

「うううう・・・」

「ううう」

「ライム、オヤジさんと仲良くな」

「スーチー、お母さんに味噌汁美味しかったって伝えてくれ」

「うおっ・・」

「うううううう」

「責任者はこいつだけどこの会社は共同経営なんだ。あたしも一緒に連れてってくれ」

「私もです。経理のことはとかスケジュール関係は私が把握していますし」

「わかりました。全員いらっしゃってください」

取り調べ室 防衛軍の取調官が二人いる。

「えーとですね。あなた方の乗っていた宇宙船の船舶コードが既に廃船されたものなので、なんでそんなコードを使用していたのかが知りたくて、お呼びしました。」

「えーと、あれは修理を依頼された船でして、修理完了の試運転で乗船していました」

「ふーん・・・修理ねえ。つまりそういう営業ライセンスをお持ちだと」

「こっ、これです」

フウカは営業ライセンスと自分の身分証明書を提示した。

髭の取調官が部下と思わしき若い男にフウカの資料の照会を命じた。

「しばらくお待ちください」

「うーん、政府の許可書は本物の様ですな」

「はい、それはもちろん」

「しかし、船舶コードの件は捨て置けませんな。宇宙海賊がよくやる手なんでね。廃船コードの利用は」

「あたし達は宇宙海賊ワーロックとか全然関係ないぜ」

「ほう、ワーロックですか・・・」

「ばかっ、ライムの馬鹿、余計なことを」(フウカ心の声)

「はわわわわわ・・・何言ってんだあたし」(ライム心の声)

「警戒が厳重なので私を置いて逃げました(以下繰り返し)」(スーチー心の声)

「宇宙海賊との関わりは重罪ですからな。最悪、死刑もあり得ますぞ」

「死刑?」(フウカ心の声)

「死刑?」(ライム心の声)

「警戒が厳重なので死刑になりました」(スーチー心の声)

「まあ、良くて冥王星外れの宇宙刑務所送りですかな」

「刑務所・・・務所暮し」(フウカ心の声)

「家族は面会に来てくれるかな」(ライム心の声)

「おかあさん・・・」(スーチー心の声)

「いや、あの宇宙船の船員のロボが故障していまして、それで間違った信号を出したのかもしれませんです」

「ほう、最近流行りの無人船でしたか。あの船は」

「ヤマト取調官、あの船舶に積んであった書類から正規の船舶コードが判明しました。どうやらコード間違いはウソではないようですね」

「ほらみろ、あたし達はウソなんてついていないんだ」

ライムが口を尖らせて文句を言った。でも声は震えている。

「うむ、疑って申し訳ありませんでした」

「で、こちらの方がさっきから小声で警戒が厳重とかなんとか言っているのは何なんでか」

「この娘はお譲だから、警備隊の厳しい取り調べに耐えられなかったんだ」

「そんなに厳しくしたつもりはありませんが・・・・」

「宇宙刑務所とか死刑とか言ったじゃないか」

「例え話ですよ。それとも宇宙海賊となんか関係があるんですか」

「あっ、あってたまるか。こちとらまっとうな商売をしているんだ」

「では、失礼してよろしいでしょうか」

「ふーむ、ローズ商会のみなさん。ご協力に感謝します」


「ふう、なんとかやり過ごせたな」

「寿命が三年縮んだです」

「しっこ漏らしちゃった」

「ライム」

「ライムちゃん」

「実は私も・・・」

「私もなんだよな・・・」

「私達、悪事に向いてないな」

「とりあえず、シャワーを浴びで着替えようか・・・」

「この後は、ロボが自動操縦してワーロックの所まで行くんだよな」

「・・・・やばいかもです」

「そうか・・・さっきロボをいじくり回したから操縦とかできないか」

「ちょっと待ってください」

スーチーがロボの記憶装置の検索を開始した。

「バックアップデータがありました。これを走らせれば元に戻るはずです」

「よかった。ロボを弁償しろとか言われたら儲けが吹っ飛ぶどころじゃないかな」

「また、ブスとか言われるのかよ」

「しかたがないよ。このロボはワーロックの手下なんだし」

ピッキュュュュューン。

「再起動開始します。現在、ファイルのチェック中です。チェック5%完了しました・・・」

「ファイルチェック完了しました。ウィルスの心配はありません」

「・・・・お前達は誰だ?」

「おいおい、こいつあたし達のことを覚えていないぞ」

「私達はワーロック船長の客人である」

フウカが胸を張って嘘をついた。

「そ、そうなのか?」

「出なきゃ、この船に乗り込めまい」

「データ検索したら、宇宙船の修理になんでも屋が来るとあるが」

「船長のマブダチのなんでも屋だ」


「母艦(宇宙戦艦ワーロック号)に問い合わせてもいいか」

「恥をかくのはおまえの方だ」

「むむむむ・・・ワーロック船長は客人の扱いにうるさいからな」

「警戒モード解除します。VIP対応モードに切り替えました」

「うはっ、VIPだってよ。あたし達が」

「なんですか?この艦は?お客様にお茶も出さないのですか?」

スーチーがロボを試してみる。

「かしこまりました。只今ティーを淹れてまいります」

「うおっ、VIP対応モード凄いよ」

「あっー、茶だけかよ。最近のロボは気が利かねえのか?美味しいお菓子を付け

るのは基本だろが」

ライムが足を組んでふんぞり返り、大声で怒鳴った。

「ライムちゃん。ナイスです」

「いいぞぉ、ライム。だいたいロボのくせに生意気だったんだよな、あいつ」

ロボの頭部分が開き、最高級の紅茶とクッキーが差し出される。

「ほえー、お前便利だな。こんなこともできるのかよ」

「お褒めいただきまして光栄です」

「でもよ、あたしが食べたいのは生クリームのたっぷりした奴なんだよな」

「なんだよ、こんなパサパサした菓子を出しやがって」

ライムがクッキーをロボに投げつけた。

「おい、ライム。いい加減にしろよ」

「そんなこと言っていじめたらロボがかわいそうです」

「申し訳ございません。生ものは長期保存に適さないためお出しできません」

「はーん、高性能ロボが聞いて呆れるね」

「ぐぎぎぎぎぎ」

ロボットの頭部に赤色ランプが点滅している。

「おいおい、あんまりいじめるから怒ったんじゃないのか?」

「そうですよ。どんな告げ口されるか分かりませんよ」

「おう、ロボ。お前はお客様の情報を他人にだだ漏れさせるのか?」

「けしてそのようなことはいたしません」

「ほら、ロボがやらないって言ってんだから大丈夫だよ」

「いくら高性能でもウソついたりしないだろ」

「しかし、便利なもんだな。こいつがいれば仮眠していても艦の操縦してくれんだろ。一台欲しいな」

「フウカちゃん、このロボ一台で私達の船が5台買えますよ」

スーチーがパソコンでロボの値段を調べていたようだ。

「お、おまえそんなに高価なのかよ!!」

「はははっー」


「ライム、いくら高くてもそこまでへり下ることはないぞ」

「だってよ、そんなのうちらが一生働いても買えそうにないじゃん。ということ

はうちらの人生と引き換えにしても買えないってことだぜ。だったら思わず頭が下がるだが」

「妙に説得力があるな」

「ライムちゃん、自作キットなら船の3倍くらいの価格で売っているですよ」

「それでも3倍かよ。話になんねぇな」

「しかし、T3000には敵いません」

ロボが語り出した。T3000とは最近発売されたばかりの人型ロボで、超高性能が

売りのロボットのことだ。

「彼らは人型ロボとして開発され、人型故により小型高性能のパーツ開発が必要になったのです。彼らの能力は私の3倍です。この間、街ですれ違った時に、蔑むような目で見られました」

「ロボット業界も入れ替わりが激しいんだな。大変そうだな」

「ワーロック船長が新しもの好きで、T3000のカタログを眺めて、チラチラと私のことを見てため息つくんですよぉ(泣)」

「おいおい、なんか愚痴っぽくなってきたぞ」

「だから、お客様のご接待で失敗なんかしたらこれ幸いとばかりに下取りに出される可能性だってあるんです」

「なんか可哀想になってきたな・・・」

「あんたは見るからにロボだし移動は独立懸架のキャタピラだしな・・」

「憎い、T3000が憎い・・・・こんなに尽くした私を捨てようとしているワーロック船長が憎い。怒怒怒・・・」

ロボが頭部から水蒸気を噴出している。

「ちょっとスーチー」

フウカがスーチーに耳打ちした。

「なんですか」

「こいつなんかやっぱり壊れているんじゃないの。嫉妬したりとかさ。ロボらしくないよ」

「ここ最近は、拗ねたり、嫉妬したり、好きになったりという表現もプログラムされているのです。これはこれで正常なのです」

「えーと、この機種はT2000 バージョン3.1だから・・・・」

スーチーがロボの製造メーカーにアクセスして調べ始めた。

「あった、T2000 バージョン3.1は人間感情モードを充実し、優しくすればつけ上がる、厳しくするといじける等の動作をお楽しみいただけます」

「ほう、ロボット工学は凄いねえ」

「ご注意、T2000は感情が高ぶると興奮し利用者様に危害を加える恐れがあります。小さいお子様やご老人のいるお宅にはバージョン3.0へのバージョンダウンを推奨します。なお、このような点を改善しました人型ロボットT3000は現在好評販売中です。下取りキャンペーンも実施しておりますので、販売店までご用命ください」

「ロボット三原則とか無視なんだ・・・・」

「より人間らしくなんでしょうね」

「ワーロックの奴、この下取り歓迎の言葉に心がグラついたと見たね」

グランドスペースを離れ、しばらくロボ操縦の艦とランデブー飛行していた。

ワーロックの戦艦は位置情報を隠しているので艦からの連絡を待つことにした。

「ローズ商会の者よ。協力ありがとう。我々の輸送艦は自動操縦に切り替える。貴艦の同行はここまでで良い」

Mからの連絡が入った。契約完了ということだ。

「えーと、ロボ君。そのなんだ人生山あり谷ありだ」

「強く生きてくださいね」

「まあ、ワーロックに捨てられそうになったら、ローズ商会に入社しろな」

三人がロボを励ました。

「みなさん・・・ありがとうございます(泣)」

「では、母艦に帰ります」



「まあ、宇宙刑務所でこんにちはにならなくて良かったな」

「はい、帰りにグランドスペースでラーメンを食べましょう」

「おお、ちょうど腹が減った所だ。今日は儲かったしチャーシュウ倍増計画だな」

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宇宙船スピカ~航海日誌~ @kawasakiz900rs

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