第3話 エビがに採れた

フウカ達を乗せた宇宙船スピカは宇宙施設グランドスペースで休憩しようと航行中。

ライムの前の無線に呼び出し音が入る。

「はい、お電話ありがとうございます。結構、日光、仕事も素早いいい女。ローズ商会のライムでーす」

「はい、業務は宇宙船の修理からお届け物、宇宙船内の清掃となんでもお引き受けしております」

「えーと、地球でエビガニ採りのお手伝いですか…少々お待ちください」

「ねえ、エビガニってなに?」

「エビでカニなの・・?」

「地球の沼や川にいる生き物よ。今では希少種になったんじゃなかったかな」スーチーが説明する。

「そうか、スーチーは地球出身だからね。エビガニ採ったことあるの?」

「私も図鑑でしか見たことないわ。ライムちゃん」

「どうする。フウカ。この仕事引き受けていい?」

「エビガニねえ・・・仕事を選んじゃいられないか。ライム引き受けて」

「ほいよ。はい、お待たせしました。ではご依頼の仕事をお引き受けいたします。また、地球入国に要する費用は実費で、エビガニの採取に時間がかかるようでしたら、一日100ギャラを必要経費としていただきます。つきましては手付金として500ギャラをローズ商会までお振り込みをお願いします」

「おいおい、ずいぶん強気な取引だな。大丈夫か。相手が逃げたりしないのか」

「気弱な男性みたいだったので甘い声で押してみました」

「甘い声って・・・まっ、いいか。契約成立だね」

「グランドスペースで昼飯食べたら出発するよ」

「おう」「おう」

「あっ、出た出た。今、データベースから画像を見つけたので二人に送りますね」

「はいよ・・・ふーん、これがエビガニかあ。アメリカザリガニの俗称・・・地球に生息。300年前は日本国の沼や川にも見受けられた」

「ふーん・・・今じゃ絶滅危惧種なのかもね」

グランドスペース№3地球から比較的近いため観光スポット的な場所で、地球から一番近い宇宙が売りになっている。

宇宙定食の暖簾をくぐって店に入る。

「エビフライ・・・」

「ん?スーチーどうした」

「ここではエビフライが有名なのです。」

「エビフライ・・・今度の仕事のエビガニとよく似ているわね」

そう言ったライムのことを睨む店主。

「だめだよ。そんなこと言っちゃ、ここはクルマエビで有名なお店なんだから」

「エビガニとクルマエビとどう違うんだよ」

「えっと、それはえーと・・・(汗)」

「お客さん、営業妨害なら帰ってくんねえかい」

店主の顔が気色ばんでいる。

「いや、その海老フライ定食3人前で頼みます」

「へい、毎度」

エビフライ3本とスープ・ライスが運ばれてきた。

「うほっ、エビフライってうめーじゃねえか」

店主が顔をあげてニヤリと笑った。

「さすが有名なことはあるね」

「お客さん、家は地球から直輸入してんだ。そこいらの養殖物と比べてもらっちゃ困るぜ」

「ふーん、直輸入ねえ」

「今回の話も、こんな関係なのかな」

ライムがエビフライをほおばりながら聞いてきた。

「うーん、まだ。エビガニの採取としてか聞いていないからなあ」

「お客さん、さっきからエビガニ、エビガニって言っているけどなんなんだい」

「ちょっとした仕事でね。地球に調査に行くんだよ」

「へえ、そんな仕事をしているんだ」

「いや、なんでも屋なんで来る者は拒まずなんだよ」

「うーん、俺はエビのこと勉強したけど、エビガニは今お客さんが食べているような高級食材じゃないぜ」

「そうなんですか、取れたてをおいしい所を頂けると思っていたのに残念です」

スーチーは本当にがっかりした様子だった。

「食べられないわけではないけど、うちじゃ使わないなあ」

「ご主人、私達実はエビってものの実物を見たことがないんだ。もし、あった

ら見せてもらえないだろうか」

フウカが店主に手を合わせる。

「まあ、見せて減るようなものじゃなし・・・こいつだよ」

店主がクルマエビを掴んで目の前で見せてくれた。

「ほう、なかなか綺麗なんだな。エビって」

「綺麗ですねぇ」

「そしてうまいよな」

フウカ達は店で勘定を済ませるとスピカに戻った。

「あんな感じのが池とか川とかをピョピョーって泳いでいる訳か」

「図鑑ではどんな動きをしているのかまでは分からんからなあ」

「依頼主は先に地球にいるようだし、こっちも出発するよ。久々の大きめな仕事だし抜かるんじゃないよ。みんな」

「おおー」「おおー」

「ねえ、フウカ・・・この仕事長引かせて日銭を稼ぐっていうのはどうだい」

「一日100ギャラの日当を稼ごうって言うのかい?」

「ライムちゃん。いつものキャッチフレーズを忘れたんですか」

「結構、日光、仕事も素早いいい女・・・・か」

「仕事も素早いいい女ですよ」

「わかったよ。ズルはしないよ。信用に響くからな」

「そうだよ。ライム。コツコツと積み上げてきたものが一瞬で崩れるぞ」

「しかし、養殖しても高く売れそうもないのに、依頼主は1000ギャラもよく出

す気になったね」

「お金持ちなんじゃないですか。そしてエビ好き」

「私の甘い声にイチコロなんだよ。そしてエビ好き」

「うーん、エビ好きかあ」

スピカは地球に到着。フウカ達は検疫を受けて一定時間の待機後、電磁タクシーで約束の現場に向かった。

「こんにちはローズ商会の者です」

フウカはそれらしき人物に声をかけた。

「お待ちしていました。私が依頼人のヤマカワエビゾウです」

依頼人の男はニッカリと笑った。ランニングに麦わら帽子でズボンをたくし上げ、網を片手に奮闘していたようだった。

「私がローズ商会のフウカ、こっちがライムでこれがスーチー」

「よろしくねん」「よろしくお願いします」

「私は地球環境保護委員会の人間で生態系の調査を行っています」

「ほう、それでエビガニの採取が必要になったということですね」

「はい、研究個体は多いほどよいので、採取制限数の100匹を目安にしています」

「私達も引き受けておいて何なんですが、エビガニというのは図鑑でしか見たことがなくて、おまけに採取したことがないのでお役にたてるかどうか分からないのですが」

「大丈夫ですよ。私も素人に毛が生えた程度ですから」

「あちらのテントに採取道具と作業着が置いてありますので準備をお願いします」

「はい」

「ヤマカワー!!」

「エビゾー!!」

池の向こう側でエビガニの採取をしていた仲間達がエビゾウを呼んでいた。

「あ、あそこにいるのも委員会の仲間です。今呼んできますね」

そういうとエビゾウは池の中にザブザブと入って行った。

「エビゾー、なんで女の人がいるんだ?」

「ヤマカワ、かっ、彼女とか呼んだりしてるのか・・・」

「エビゾー、ちゃらちゃらと遊び半分なんて許さんぞ!!」

「違いますよ。彼女達はなんでも屋で助っ人として呼んだんですよ。だいたい我々三人でエビガニ100匹捕まえるなんて無謀ですよ」

「あの、巨乳の女の人の名前はなんていうんだ?」

「はっ?えっと・・・フウカさんです。しかしここから100m以上ありますよ。良

くわかりますね」

「男の眼はな。いい女を見つけるために付いているんだ」

一番年かさなヤマギシが言った。

「あのショートカットの娘の名前はなんていうんだ?」

「えーと、ライムさんですね」

「うーん、あの娘にスリーパーホールドかけられてぇ」

訳のわからない発言をしたのがエビゾーと同い年のヤマダだった。

「ヤマダ、思ったことを口にするのはやめろ。だからキモいとか言われるんだぞ」

「おっ、おまえみたいに緊張しないで女子と話せる奴なんかに俺の気持ちがわかるかってんだ」

ヤマダは半泣きで口を尖がらせて抗議した。向こう側でヤマギシも頷いている。

「いいですか。これは合コンとは違うんですからね。純粋なジョブですから。こないだみたいに合コンで女の子に嫌われたからって、暴れたり騒いだりするのは無しにしてくださいよ」

既に前金で500ギャラ支払っているので、こちらの都合でキャンセルになったらシャレにならない。エビゾウはちょっと困っていた。

「じゃあ、ローズ商会の人たちに紹介しますので、あちらの岸まで行きましょう」

「緊張するなあ」ヤマギシが言う。

「でへへへへ」照れるヤマダ。

「・・・・・」ローズ商会の人に迷惑かけられないな。困るエビゾウ。

テントで作業服に着替えたフウカ達が岸で待っていた。

「おま、すげぇかわいいぞ」

「ほ、本当ですね」

ヤマギシ達がヒソヒソ話をしている。

「こちらがヤマギシ。今回のエビガニ採取チームのリーダーです」

「こちらがヤマダ。私と同じ研究員です」

「わざわざ遠いところをありがとうございます」

ヤマギシが恭しく挨拶をした。

「よろしくお願いします。ヤマダダイスケ。28歳独身です。好きな食べ物は

エビフライです・・・」

直立不動の姿勢でヤマダが顔を真っ赤にして言った。

「バカ、ヤマダ・・・」

「ライム 永遠の17歳 独身です。好きなプロレス技はドラゴンスクリューです」

ノリの良いライムがすかさず言ってくれたため変な空気にならなくて済んだ。

「ふう、で、私たちは何をやればいいのかな」

「では、私から説明します。皆さんもご存じのとおり、現在の地球は環境復興のため、色々なことが制限されています。宇宙からの来訪には24時間の検疫体制、また、決められた地域での活動以外は重罪になります。そして環境汚染の要因になる産業などは、ほとんどがグランドスペースに移築しました。このことから・・・」

「すみません。ヤマギシさん。手短にお願いします」

「んっ、そうか。我々委員会は地球環境を300年前の状態に戻そうと結成されたもので・・・」

「つまり、ですね。環境復興活動がどれ程の成果を上げているか報告する必要があるので、今回この池からエビガニを採取するのが目的です」

「ローズ商会さんにはこの池からエビガニを採取していただきます」

「この網でエビガニを取ればいいんだね」

そういうとライムがザブザプと池に入って行った。

「ぬかるんでいる所もありますから注意してくださいよ」

「うおっ!!」

言っているそばからライムが尻もちをついた。

「ライムちゃん大丈夫?」

「うへぇー、これっ泥って言うんだっけ・・・なんだか凄いな」

「私達グランドスペース育ちには泥とか縁がないからなあ」

「それぞれバケツと網は持ったな?ローズ商会の凄いところ見せてやろうぜ」

「おおっ」「おおっ」

「エビゾウ、ありがとう。何だか俺やる気が湧いてきたよ。こんな池でエビガニ採って来いなんてどんな罰ゲームかと思ってたけど・・・俺、がんばるよ」

ヤマダが泣き出した。

「いや、喜んでもらえるならうれしいよ」

ライムが段々とコツを掴んできたようで、エビガニを追い込み素早い動きで網に取り始めた。

スーチーは網を闇雲に振るうだけで、ちっとも取れず肩で息をし始めた。

「うううう・・・採れない・・・ 採れないと皆に迷惑かけてしまいます」

泣きながら網を振るうスーチー。しかし、それをあざ笑うかのようにエビガニが

逃げていく。


「いたたたたっ・・・」

短気なライムがエビガニの巣穴に手を突っ込んで、自分の指を挟ませながら釣り上げていた。

「ライム、遊んでんじゃないよ。ちゃんとやりな」

「だって、フウカよお、もうノルマ達成したぜ。あたし。一人当たり20匹だろ」

「嘘言うな!!このエビガニはそんな簡単に捕まらんだろうが」

「嘘じゃないって、コツを覚えれば簡単だよ」

そう言ってライムがバケツを見せた。佃煮にできそうなくらい入っている・・・・

「おわっ、すげえなライム。ローズ商会の面目躍如だな」

「ううううう・・・」

スーチーが頭から泥だらけの水浸しの状態で立っていた。

「どうしたスーチー泥だらけじゃないか」

「大きいの捕まえた・・・」

手にはエビガニの王様マッカチンを持っていた。

「大手柄だな。スーチー。上がって顔を洗ってきなよ」

エビゾウがフウカ達の様子をうかがいに来た。

「どんな感じですか1匹でも採れましたか?」

「えーと、ライムが20匹、私が3匹、スーチーが1匹だけど特大の奴」

「えっ?えええええぇぇぇ!!私達が3日間やって30匹なんですよ」

「お役にたててうれしいです」

「もしかしたらエビ採り専門の方たちなんですか?」

「いや、ただのなんでも屋です。なんでも屋の看板を掲げているんで、なんでも成果を上げてかないと信用落ちるんで」

「そうですか。じゃあ今日はちょっと早いけど終わりにしましょう」

太陽が山の上からやや西に傾いている。

「えっ、もう少しやれば100匹できますよ。明日になると経費が余分にかかり

ますよ。いいんですか?」

「大丈夫ですよ。明日朝からやれば昼前には終わるでしょうし」

皆、池から上がった。

虫の声、遠くに蝉の声が聞こえる。

「グランドスペースとは大違いだな。あそこは自然の音っていうのを放送していたからなあ」

フウカが子供の頃の話を始めた。

「ええっ?この小さいのがこの音の元なのかよ」

エビゾウがコオロギを一匹捕まえてフウカ達に見せた。

「2100年くらいに地球がひどく汚染されて、グランドスペースの建設に合わ

せて自然保護活動が本格化して、200年かけて1900年代くらいに戻しまし

た。もっとも私達がやっているのは自然に任せていることがほとんどですけどね」

「ふーん、パソコンのライブラリでしか見たことないものがいっぱい生きているんだな」

「今日採取したエビガニは一部を除いて、データを取ったらまた自然に返します」

「本当ならこのエビガニを水鳥が食べたりします。しかし水鳥の繁殖がうまくいっていなくて大変です。このままエビガニを放置していると増え過ぎで全滅したりしてね」

「自然の仕組みって奴だねえ」

フウカが感心してみせる。

「フウカちゃんお待たせしました」

泥汚れを落としたスーチーが帰ってきた。

「ヤマダさんがタオルを用意してくれたんで助かりました。ありがとうございま

した」

「お礼・・・・いえいえ」

「エビゾウ、聞いたか女子が俺にお礼を言ってくれたぞ。女子がだぞ」

「普通だよ。ヤマダ」

「おっ、おまーなんかになぁ・・・おまーなんかになぁ・・・」

ヤマダの肩を叩くヤマギシ。

「では、明日の朝9時にまた来ます。今日はお疲れ様でした」

エビゾウ達と別れスーチーの実家に向かう。

電磁タクシー車内

「今回の仕事は楽勝だったなあ」

「そう?、ライムちゃんが頑張ってくれたから形になったけど、もし成果が5匹

とかだったら、気まずい空気になったんじゃないかな」

「ああ、それはいえるね。今回の仕事はライム様様だよ」

「えっ、なに。ほめてくれるの?もっと賞賛してちょうだい」

「しかし、ライムにこんな才能があるとはねえ」

「格闘技とかならなあ」

「私もお料理の依頼があったらいいんですけどね」

「わたしはメカの修理とかだなあ。でも弱小企業は仕事の好き嫌い言っているとすぐ足元すくわれるから気を付けないとな」

フウカ達はスーチーの実家にいた。

「おじゃまします。私はフウカです」

「こんにちは、私はライムです」

「スーチーがお世話になっております。この娘が皆さんにご迷惑をおかけしていると思うとハラハラしますわ」

「いえいえ、ローズ商会の経理はスーチーさんの肩にかかっていますから」

「やりくり上手と呼んでください」

「うーん、じゃあお母さんが色々な所で宣伝しておくわ。何かチラシをちょうだいな」

「悪いですね。弱小企業なんで口コミなんかで販路を広げていくしかないんですよ。おい、ライム 宣伝ビラあっただろ」

「ああ、あるよ」

ライムが宣伝ビラをごっそり取り出した。

「あの、100枚くらいでいいですか?」

「あらあら、お母さん頑張らないとね。あははは」

スーチーの母が屈託なく笑った。

「明日の朝は早いんでしょ。今夜は家に泊っていきなさい。そうしなさい」

「じゃあ、今日はお母さんと二人でごちそうを作ります。ご接待します」

スーチーとその母はいそいそと料理の準備に取り掛かった。

「スーチーの所はオヤジさんはどうしたんだ?」

「あんまり言いたがらないけど、スーチーが子供の頃に離婚したらしい」

「ふーん、じゃ、食事時の会話はお父さんはNGワードだな」

「てーか、私達一応女だし、ここでぼんやりしているっていうのもなんだかな」

「一応とか言われるとなんだな。何かちょっとした手伝いでもするか。男手がないとほったらかしになっている所を手を入れたりさ」

「おっ、ライムいい案だね。なんでも屋のスキルが発動するよ」

「あのー、なんか修理とか困っていることとかありますか」

「えっと、お客さんなんだからゆっくりしていてよ。フウカちゃん」

「しかし・・・どうもぼんやりしているのは性に合わないんだ」

「うーんと・・・そうだポンタの散歩をお願いできるかしら」

「おおっ、ペットの散歩だね。了解、了解」

「じゃ、あたしは庭の剪定でもするよ」

「ライムちゃんも・・・ありがと」

「ローズ商会の人たちって動きが軽いわね」

「細かい仕事も手早く丁寧っていうのが売りなのよ。お母さん」

「スーチー、いいお友達ができて良かったね。お母さん心配していたんだよ。引っ込み思案でおどおどしていたおまえのことをさ」

「皆に迷惑かけているのは事実だけど、私は私なりに頑張っているのよ」

「よお、ポンタ・・・予想通り狸に似ている犬なんだな」

「今日の散歩のパートナーはフウカさんだよ」

ポンタは人懐こい犬らしくフウカに飛びかからんばかりだ。

「夕食の時間もあるから一時間くらいかねぇ」

フウカはポンタのリードを握ると家の門を出て行った。

ポンタはフウカに自分の町を案内するかのように歩いて行った。

「おいおい、あんまり引っ張るなよ。それに私はこの町には疎いんだから、変な所に連れて行くんじゃないよ」

土手を登って見晴らしの良い所に出た。夕日が沈みかかって空が紫色になっている。

「ほう、いい所じゃないか。ありがとうな」

川風が通り過ぎていく。ジョギングしている人たちがちらほらいる。

ポンタがちょっと自慢げに歩いているように見えた。

「何か袋ありますか。切った枝を集めたいんで」

庭の選定を終えたライムがスーチーの母に尋ねた。

「わあ、さっぱりしたわね。こまめに手を入れないと庭がだめになるからね」

「ライムちゃん、ありがとう」

「おっ、いい香りだね。」

「おふくろの味 ザ・味噌汁なのです」

「インスタントじゃない奴だね」

「出汁も良いのを使っていますよ」

スーチーがにっこり笑ってカツブシを見せた。

「なにそれ?」

「カツオという魚を加工したものです」

「へぇー」

「おい、ポンタ・・・家に帰ろう」

自分の散歩道を自慢していたポンタが振り向いた。

「わんっ」

ポンタは承諾の返事をすると元来た道を歩き始めた。

「いいねえ、青い空とかオレンジ色の太陽とか・・・グランドスペースでは人工

だからなあ。ここに住んでいる人たちはこれが当たり前なんだよな」

「いただきます」

「うほっ、うめえなあ」

「本当においしいです。これならスーチーが料理好きなのも分かります」

「あらあら、うれしいわ。たくさん食べてね」

「自然保護の関係で手に入りにくい食材が増えちゃってね。まあ、魚関係は解禁されたから、伝統のカツブシとかも復活したけどね」

「なんでこんなことになったんでしょうね」

「便利を追求していたら、自然の法則をやっつけちゃったのかもしれないわね」

「ちょっと不便なくらいでちょうどいいのにね」

翌朝、現地に集合したザリガニ捕獲隊は簡単な挨拶を済ますと、池にズブズブと入って行った。

「ライム、コツをつかんだとか言っていたけど、参考のために一つ手本を見せちゃくれなか」

フウカの頼みにライムが応える。

「いいか、よく見てなよ」

「おう」

「あい」

網を構えるライム。池の水面を凝視している。

「こうやって静かに構えていると、奴らが浮いてくるんだよ。そこを空かさず」

ライムの網が前後に動いた。網の中にザリガニが入っていた。

「凄い、凄いぞ、プロとしてやっていけそうな腕前だな」

「なんだか、素早過ぎて分からなかったです」

「要はあちこち追いかけ回すより、あいつらが油断した時に一気に攻める感じか」

ライムが照れながら説明した。

「静かに構える・・・」

「静かに構えました・・・」

油断したザリガニが水面に横腹を見せている。

「ふんっ、はっ!!」

「獲れたよ」

「獲れましたぁ」

フウカとスーチーはうれしそうにライムに報告をした。

「おう、簡単だろ」

そういうとライムはまるで精密な機械の様に網を前後に振ってザリガニを捕獲し続けていた。

「何者なんだ・・・・おまえは」

「ライムちゃんには敵いそうもありません」

お昼前には規定数の100匹に達していた。

「ありがとうございます。こんなに早く仕事が終わるなんて思ってもみませんでした」

エビゾウがフウカ達に感謝の弁を述べた。

「いえいえ、今回はライムの一人働きなんですよ」

「そうなんです。今日も一人で30匹も捕まえました」

「この短時間に30匹もですか」

「いや、地球の自然保護研究に微力ながら協力できて本望です。えへへへ」

ライムが頭を掻いた。

「ライムさん・・・・その・僕にスリーパーホールドを掛けてくださいませんか」

ヤマダが頭の上から抜けるような声で叫んだ。

「えっ、なんて・・・」

「ばか、ヤマダ控えろ・・・」

エビゾウがヤマダに言うか言わないかの間にヤマダはライムにスリーパーホールドで落とされていた。

「あれっ?」

「ライム、依頼者になに技掛けてんだよ」

フウカが顔を真っ赤にして怒った。

「いや、お客さんの要望だし、うちはサービス第一だろ」

悪びれもせずにライムが答えた。

「それでは私はあなたの得意技のドラゴンスクリューでもお願いしようか」

調子に乗ったヤマギシがライムに言った。

「あいよっ」

「ライム、いい加減にし・・・」

ヤマギシはもんどり返るようにさっきまでいた池に投げ込まれていた。

「あわわわわわわ」

スーチーはパニックなった。

「すいません、すいません。ライムちゃんはプロレスとか格闘技のこととなると人が変わって

しまうんです」

「わははははは、子供の頃を思い出しましたよ」

ヤマギシが泥まみれになりながら笑っていた。

「えーと、ローズ商会は決して乱暴なサービス業じゃなくてですね。あのですね」

フウカはお店の信用問題になると思って焦って言い訳を考えていた。

「ダメだ、何も思いつかない・・・・」

「変な評判が立ったらお店が潰れちゃう」

「あはははは、大丈夫ですよ」

「そっ、そうですか・・・この件はご内密に・・」

「では、最後に私にパイルドライバーをお願いします」

エビゾウが真顔で言った。

「普通のドリル・ア・ホール式?それともツームストーン式?」

「あっ、その技があったか・・・・くぅー」

「どうして気付かなかったんだ・・・」

ヤマダとヤマギシが悔しそうにしている。

「ツームストーン式でお願いします」

女子の太ももに挟まれるように頭を固定されると、そのまま池の泥に叩きつけられていった。

「ありがとうございました」

「また、御ひいきにしてください・・・・」

フウカとスーチーの顔は引きつっていた。

ライムは満足げ。

「おい、今度からプロレス技をアフターする店みたいになっちゃうぞ」

「あの人たち変態さんです」

「そうか、オヤジや格闘技の道場以外で技使うの初めてだったから、結構楽しかったぜ。わたし」

「しかし、最後にお客さんをやっつけちゃうってどうよ」

「待てよ、フウカ。わたしが勝手に技かけたわけじゃないぜ。お客さんにどうぞ是非にって言われたから嫌々やったんだよ。わたしだって本当は嫌なのに。ローズ商会の未来のことを考えてこの身を犠牲にしたっていうのに、その言い方はないだろう。すんすん」

ライムが泣き真似開始。

「いんや、お前は嬉々としてやっていた」

「そうよ、最後の技掛けるときに小さな声で死ねって言っていたの聞こえたわ」

「でへへへへ。ばれてた?」

「まあ、2日で1000ギャラ儲かったし良いじゃないか」

「スーチーのお母さんに何か美味しいものでも買って帰ろうぜ」

「うーん、結果オーライ。で、スーチーのお母さんて何が好物なの?」

「えーとですね。お漬物とかですね。高級漬物は美味しいですけどとても高いんです。私が家に帰るときは大抵それですね」

「よっしゃ、スーチー。店を教えてくれよ」

「あい」

もう、何のお店か分からなくなってきた「ローズ商会」

それでも彼女らは夢と希望を乗せて宇宙を行く。宇宙船スピカ号と共に。

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