第2話 ファミリータイズ

宇宙船スピカ船内 慣性飛行中

「スーチー、今月の売り上げはどうだい」

船長のフウカが経理担当のスーチーに尋ねた。

「今月の売り上げ360ギャラ」

「360ギャラ?」

フウカが聞き返す。

「360ギャラ」

何度聞いてもスーチーの答えは同じだった。

「くうー・・政府の随意契約とか取れないもんかねえ」

「そうよね、定期的に仕事があると明日が見えてくるわよね」

「そう、輝ける明日が」

営業担当のライムの目が輝いた。

「あたしお金無くってさ、ジムに通えなくなったから腹筋とか地道なトレーニン

グをしているのよねえ」

ライムが皆に腹筋で割れた腹を見せながら言った。

「おおおっ」

「ライムちゃん凄い」

「わたしなんて6キロ痩せようとして・・・」

「痩せようとして?」

「3キロ増えた・・・死にたい」

スーチーのメガネの向こうに光るものが。

見かねたフウカが席を立ちスーチーを慰める。

「だ、大丈夫だよ。スーチー。きっとそんなお前を好きだという男が現れるよ」

「ほんと?」

「ああ、君のコロコロ太った所が好きだ、大好きだ。結婚しよう」

フウカが声色を変えて言う。

「あい」

スーチーは顔を赤らめ返事をした。踊り出す二人。

「ちょっと待って。フウカ」

「私は、私はどんな感じなの?」

「・・・ああ、君の鍛えて割れた腹筋が好きだ、大好きだ。結婚しよう」

「喜んで」

踊り出す二人。

「ふう・・・」

それぞれの席に戻る。

「あれっ、ちょっと待った。私はどうなるんだ」

「ええ?フウカはその巨乳で男を惑わして、よろしくやるんじゃないの」

ライムが投げやりに言う。

「なんだっ、その言い草は?」

「大体、腹筋好きなんてどんだけマニアックなのよ。そんな男聞いたこともないわよ」

「太った女子を好きな男の人がいるなら紹介してほしいです」

スーチーがパソコンのキーを叩きながら言った。

ライムの前の無線に呼び出し音が入る。

「はい、お電話ありがとうございます。結構、日光、仕事も素早いいい女。ローズ商会のライムでーす」

「はい、料金の方はご相談させていただきますが…はい、お荷物のお届けですね。はい、承っております。えーとグランドスペース№8から地球のお母様にですね。少々お待ちください」

「スーチー・・・料金はいくらになる?」

「360ギャラです」

「了解、お待たせしました。通常料金500ギャラのところ、春のフレッシュキャンペーンを適用いたしまして、更に初回お客様価格で360ギャラにさせていただきます。ただ地球入国費用は実費負担でお願いしますね。」

「はい、では11時にグランドスペース№8にうかがわさせていただきます」

「リピーターになってくれるように頑張らなくちゃだな」

フウカはグランドスペース№8の座標を打ち込んだ。

「それじゃ行くよ」

「おう」

「おう」

グランドスペース№8に到着。依頼主から荷物を預かる。

「それではお荷物をお預かりいたします」

「それと、ご存じと思いますが、地球への入国は時間がかかりますことをご了承ください」

「地球は保護区に指定されているから、外宇宙からの侵入は検査が厳しいんですよね」

「そのとおりです。船舶に付着した宇宙病原菌やら乗組員の除菌やらで・・・」

荷物を受け取り地球に向けて出発する。

「久々の地球ですね。フウカちゃん」

スーチーは地球に降り立つことがうれしそうだった。

「スーチーは地球生まれなんだっけ」

「はい、懐かしいです」

「あたしとフウカはグランドスペース生まれだからね。地球人と言われるのに違和感があるよ」

「そうだねえ、でもグランドスペースから毎日地球を眺めていたから、まるっきり知らないわけでもないけどね」

「そういえば依頼主の人は母の日のプレゼントだって言っていたわね」

ライムが話し出す。

「お母ちゃんにも会っていないなあ・・・」

「電話で連絡くらいしているんだろ」

「うん、たまに」

「わたしもお母さんにしばらく会っていないです」

「こんな仕事をしていると定休日ってものが無いからね」

「フウカちゃんはどうなの」

「私はOL始めてから実家に帰った記憶が無いなあ」

「あたしは帰る度にオヤジと喧嘩ばっかりしていたな」

「ライムちゃんはなんで喧嘩していたの」

「あたしのオヤジがいちいち口うるさくてよぉ。6時に家に帰らないと殴るん

だよ。OLが6時に帰るなんて無理だろ」

「口じゃなくて・・・手が出ちゃうんだ。お父さん口下手なんだね」

「で、取っ組み合の喧嘩よ」

「オヤジさんだって手加減してくれるんだろ」

「ああ、いつもチョークスリーパーで落とされてた」

「娘にチョークスリーパーかける父親っているかね・・・」

「そんなんじゃ、ライムのお母さんが大変だったんじゃないか」

「オヤジは母ちゃんには手を出さなかったなあ・・・」

「うはぁ、愛しちゃっているんですね。お母さんのこと」

「そういえば、一度だけオヤジが酔って帰ってきて母ちゃんに突っかかって行ったことがあったなあ」

「えええ?!・・・」

「お前の親父さんいつか写真見せてもらったことあるけど筋肉ムキムキだったじゃないか」

「そう、格闘技好きで、柔道、空手、合気道、ボクシング・・・なんでもやっていたな」

「あたしはまだ小さかったからよく憶えていないんだけど、あの大きなオヤジが、母ちゃんの目の前でクルッと一回転したっけなあ。そんで腕を決められたオヤジの肩からグキャっていう鈍い音がしたっけ」

「うわぁ・・・」「うわぁ・・・」

「ライムが男だったら大変なことになっていたかもしれないな」

「んっ、あたし兄貴がいるんだけど、真面目で勉強もできる奴だったけど、オヤジがそれを嫌ってなあ」

「兄貴がまだ小さい頃にオヤジが泳ぎを教えてやるって言って、近くの池に放り込んで死にかけたって言っていた」

「で、サバイバルのために母ちゃんから何か技を教わっていたみたいだ」

「ワイルドなご家族だねぇ」

「別に仲が悪いわけじゃないぜ。家は殴られたら殴り返すのOKだったし」

「・・・・」

「・・・・」

地球に入国します。入国手続きブログラムを設定してください。当船は地球入国ブログラムにより自動操船されます。緊急時以外にこのプログラムを解除することは、地球入国法第3条に違反します。違反した場合は同法の規定により処罰される場合があります・・・機械音声が入国に際しての規定を読み上げている。

24時間経過後フウカ達は入国を許された。

「おお、自然の重力は久しぶりだね。グランドスペースでも重力装置が働いているとはいえ、やっぱり自然はいいねえ」

港を出るとフウカ達の前に電磁カーが停車した。

「どうぞお乗りください。料金はカードによる後払いになります」

「これか、最近話題の地球の自転を利用した無公害の乗り物って」

メカ好きのフウカが電磁カーを舐めまわすように見ている。

「電磁カーだけあって浮いているんですね」

「道路に電磁レールが這わせてあるからね。後は住所を打ち込めばそのまま目的地までいけるのさ」

フウカがなぜか自慢げに言った。

「この仕事が終わったらちょいと休んで行こうか。スーチー、お前は実家に帰るといいよ。きっと家族が喜ぶぞ」

「えっ、でもフウカちゃんとライムちゃんが」

「あたしたちのことは気にすんなよ。地球来るのにいろいろ手間がかかるようになっちまったんだし。あたしたちは今度の休みのときに里帰りするさ」

「あじがどう・・・」

スーチーが泣き出した。

「ほら、いい女は鼻水出して泣いたりしないもんだぞ」

「これからお客さんの家に行くんだから」

「うん、わがっだ・・・」

電磁カーは快適に移動する。まるで雲のじゅうたんのようだった。(乗ったことはないが)

「こんにちはローズ商会です」

「あらあら、こんにちは。息子から連絡が来ているわ」

「宇宙の果てから飛んできてくださったんでしょ。上がってちょうだい」

「宇宙の果てって…」

「ちょうどケーキが焼きあがったとこなのよ」

「甘くてフワフワよ」

「甘くて」

「フワフワ」

「ちょ、ちょっとお邪魔していこうか」

「はい」

「はい」

「なんかとてもお上品でお母様って感じですぅ」

「そうだよな。うちの母ちゃんなんかケーキ焼いたことないぜ」

「うちの母親は何度言ってもカレー焦がしてたなあ」

居間に通されて、お茶とケーキをごちそうになる。

「うおっ、店で売ってるのよりうめぇー。どうなってんだこりゃ」

「あの、ライム・・・さん・・お下品ですわよ」

「あらあら、うれしいわぁ」

「本当においしいですぅ。レシピを教えてほしいくらいです」

「あら、あなたお料理なさるの。では、あとでレシピを教えて差し上げるわ」

「ありがとうございます」

すっかり打ち解けて談笑後

「そうなんですかあ、女手一つで息子さんを」

「主人が戦争で亡くなって当時は大変だったけどねえ」

「父親のいない分厳しく育てたら、中学生くらいからグレ初めてねえ」

「世間様に迷惑かけて、挙句にクソばばあでしょ」

「わたしも切れちゃって」

「ドラゴンスクリューを・・・・息子に」

お母様は表情も変えずにこやかに語った。

「おい、ライム、ドラゴンスクリューってなんだよ」

「あっ、プロレス技で脛の部分を持って身体全体を巻き込むようにして投げる技」

「なに者なんだこのお母様は・・・」

「あっ、大事なことを忘れていました。こちらが息子さんから頼まれた母の日のプレゼントです。受け取りのサインをお願いします」

「あらやだ。わたしったら。お仕事中なのにお話が弾んじゃって」

「いえ、こちらこそ、お茶とケーキとお話を堪能させていただきました」

「では、そろそろ。お暇します」

フウカ達が家を立ち去ろうとすると悲鳴が聞こえた。

「ぎぁゃゃゃゃゃゃゃ」

「うおっ、なんだ」

「お母様の声だわ」

「行ってみよう」

先ほどの居間に行くとお母様が黒い液体でずぶ濡れになったままソファに座っていた。

「どうしたんですか?」

「なにがあったのですか」

「プレゼントの箱を開けたら・・・急に」

「えっ?」「えっ?」「うえっ?」

「私たちは何も・・・・」

「ええ、分かっているわ」

「息子の手紙が入っていたから」

フウカは落ちていた手紙を拾った。

「うわぁ・・・」

それを覗き込む二人。

「うわぁ」

白いA4サイズの紙の真ん中に大きく

(笑)

とだけ書いてあった。

「ローズ商会さん」

黒い墨の付いたまま、にこやかにお母様が話しかける。

「はい・・なんでございましょうか」

「絶対怒っているって」

「ここは私達も怒るところだろうか?」

ライムとフウカが囁き合う。

「超特急で息子の所まで連れて行っていただくと何時間くらいかかかるでし

ょうか」

「えっと、超特急だとワープを使って30分くらいかと・・・ただ料金がお高めになるかと存じま

すが」

「構いません。いい歳こいて母親にこんなことする息子には鉄拳制裁しかありません」

「しかし・・・」

「フウカなんで断るの?いいお客さんじゃない」

「スーチーの里帰りがあるし」

「わかりました。往復ワープでお願いしますわ」

「ま、毎度ありがとうございます」

フウカ達はお母様とともに港に戻った。

地球から出るのに検疫はないため、すぐにワープ申請手続きを行い、地球圏外に出るとグランドスペース№8に直接ワープをした。

「こんにちは、ローズ商会です。お届けもので参りました」

扉が開く。

「うおっ、母さん。なにその顔?、どっははははは」

部屋の中でどなり声、悲鳴、家具が壊れる音がする。

「母ちゃん御免て…」

「ばか息子がぁー」

「みんな、しばらく休憩だよ」

「なんでこんなバカバカしい真似をしたんでしょうね。あの息子さん」

「んっー、バカバカしいことが楽しいことってあるだろ」

「そうよね。あのお母様、宇宙船の中でなんか嬉しそうだったしね」

「なんかいいよね」

「チャーハン」

「? チャーハンがどうかしたのスーチー」

「グランドスペース№8の名物は今田屋のチャーハンなのです」

「チャーハンの中の焼き豚が他とは違うんだっけ」

「そうなのです。秘伝のたれに漬け込んで焼いているのです」

「じゃ、親子の絆再確認の間、チャーハンでも食べに行ってきますか」



※グランドスペース

宇宙空間に浮かぶ居住スペース 商店もあり燃料補給も可能

特大サイズで四方150キロの物もある。また、スペース増加も

比較的簡単なので現在増殖中である。

公式には№1~№12まである。

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