宇宙船スピカ~航海日誌~

@kawasakiz900rs

第1話 宇宙の便利屋さん

起源2311年 人類は宇宙空間にまでその活動拠点を広げ、星間交通も発達し ていた。宇宙空間での故障やトラブルを解決する仕事も新たなビジネスとして 確立しつつあった。

私達三人はOLを辞めて流行の宇宙空間サービス会社を立ち上げた。

私、フウカこの船の船長。紫の髪の娘が営業のライム。そして経理を担当してい るのが緑のおかっぱのスーチー。私たちは同じ会社に勤めていたのだが、上司に 執拗なセクハラを受けていたことから決起し、セクハラ上司に直談判したところ 更にパワハラに出てきたため、三人同時三方向からパンチを食らわせてやったの だ。

「もっと体を鍛えておくべきだったな」もっとも武闘派のライムがつぶやいた。

「なんで、ライムちゃんはスポーツジムに通っていたじゃない」

「いや、格闘技をやっていたら、あの野郎を再起不能にできたのにと思ってさ」

「馬鹿言ってんじゃないわよ。会社側がセクハラのこと隠ぺいするために、円満

退社ということになったんでしょ。だいたいライムは殴るときにメリケンサッ

ク使っていたでしょ」

「威力倍増しようと思ってさ」

「カッとなってやったっていう言い訳ができなくなるでしょ。道具使うと」

「セロテープ台・・・」

「スーチー、セロテープ台がどうしたって?」

「近くにあったものならギリギリセーフでしょ。セロテープ台の中身ってコンクリだから硬いのよね」

「そんな物で殴ったらのヤバイでしょうが!!」

「馬鹿話は終了。ライム、今日の仕事は?」

「座標127で故障している宇宙船の修理」

「座標127ね。了解。で、宇宙船の形式は何」

「えーと、形式はZX-14R1011」

「最新式じゃないか。そんなんでも故障するんだな」

「うちのボロなんて30年前の船だから、あちこち故障してしょうがないのにな」

「さあ商売、商売、飛ばすよ」

宇宙座標を入力してスタートスイッチを押す。自動航行装置作動します。

機械音声が作動確認の音声を流す。

一仕事終えてエコモードで航行中。

「フウカちゃん、部品屋さんから連絡あったよ。先月分の代金入れないと取引

停止するって」

「取引停止はきついな。今日の売上の半分を振り込んどいてくれ」

「半分?全部入れればいいんじゃねぇの?」

「ライムちゃん、今日お給料日なの・・・全部払っちゃうと」

「ここの所、いつも財布が空だから忘れていたぜ」

「じゃ、お給料振り込んどきますねっと」

「360ギャラ・・・(笑)」

「360ギャラ・・・(笑)」(日本円にして36,000円くらい)

ライムとスーチーが給料明細のデータを見て声を出して笑い出した。

「馬鹿笑いはやめろ・・・泣きたくなるじゃないか」

「仕方ないだろ、弱小企業の私達に割のいい仕事なんて回ってこないんだよ」

「あーあ、愚痴を言ってもしょうがないか」

「そうよ、ライムちゃんもフウカちゃんも何か食べて忘れましょう」

「ラーメン食べたい」

「ラーメンかあ・・・11番のグランドスペースが近いな。行ってみるか」

グランドスペースは宇宙空間に設けられた大型宇宙施設で高速道路のサービス

エリアみたいなものだった。

「あっ、わたしラーメン全部のせで」

「わたしも」

「えっと、私もそれでお願いします」

「へい、おまちを」

ラーメンを食べながらライムが店主に愚痴を言っている。

「でさ、聞いてよ。この間、仕事で宇宙船の側溝の掃除やってたらさ。この娘が頭から

落ちちゃってさ。大変だったのよ」

「やっと終わったら、臭いから早く帰れって・・・うううう」

スーチーが思い出し泣きを始めた。

「お姉ちゃん。辛いことも多いけど負けるんじゃないよ。これおじさんからの励

ましのチャーシューだ」

「あじがどう・・・」

ライムの目が光った。

「私達が帰るときに、あんな女だけは嫁に貰いたくないなって・・すんすん」

「うう・・・お姉ちゃんにも励ましのチャーシューだ」

「ありがとう」

「ライム、いいかげんにしろよ。あの後おまえは依頼主のことブン殴っただろ が」

フウカがライムの耳元で囁く。

「フウカだってうまいこと言ってチャーシューもらえばいいじゃないの」

「そんな浅ましい真似ができるか!!」

「いいか、ライム、スーチー。銭の花はな・・・」

「銭の花は血のように赤いんだ・・・」(花登先生万歳)

「おおおおっ」

店内のお客さんから一斉に拍手が沸き起こる。

「どんな小さな仕事でも一生懸命頑張ります。宇宙に羽ばたく徒花三人娘ロー

ズ商会です。よろしくお願いします」

フウカは宣伝も忘れなかった。


宇宙船スピカの船内


「ライム、次の仕事に行くよ。座標は?」

「ないの」

「ナイノ?」

「依頼がないの」

「白紙」

「予定が真っ白」

ライムとスーチーがげらげらと笑い出した。

「うおおお、毎日最低2個は仕事が入っていたのに・・」

ライムの前の無線に呼び出し音が入る。

「はい、お電話ありがとうございます。結構、日光、仕事も素早いいい女。ロー

ズ商会のライムでーす」

「うえっ、こいつ発信元非通知でやんの」

「ライム、非通知解除プログラム走らせて」

「うおっ、非通知解除プログラムをはじいてる」

「なにもんだ?」

「はい、船の修理ですね。大得意ですよ。うちの船長メカマニアだから」

「えええっ?本当でしゅか」

「フウカ、スーチー・・・来た。大きい仕事・・・1000万ギャラだって」

「1000万だって?この船のローン払って半年遊んで暮らせるじゃないか」

「ライムちゃん。逃がしちゃだめです」

「で、船舶の座標を教えていただかないと、たどり着けないのですが」

「えっと、こちらの船舶番号ですかkz1300A4・・・・・ですが」

「そちらでこちらをサーチして誘導してくださるということですか」

「どうする。フウカ、スーチー」

「1000万の仕事だ。しかも私達みたいな弱小企業に連絡してきたんだ。イリ ーガ

ルな仕事なんだろ。是非もなし」

「よろしくお願いします」

ローズ商会の宇宙船スピカは操縦を謎の船に任せ闇の中を突き進んでいった。



「うえっ、予想通りだよ」

目の前の巨大宇宙船はレーダー遮断塗装され、横腹に大きな骸骨が描かれていた。

「海賊船なんてワクワクしますね」

「スーチーは呑気だな」

「修理完了と同時に私たちが宇宙の藻クズにされるかもしれないんだよ」

「ええっー、そんなの困りますぅ」

「そんときゃ、私の格闘技でなんとかするわ」

「宇宙海賊がOL上がりの格闘技になんとかされちゃうものかね」

「そのようなことはしない。宇宙海賊の仁義はわきまえている」

「うおっ、盗聴かい。いやらしいね」

「おまえらが軍に報告しないとも限らんのでな」

「じゃ、聞くけど。こんな大きな船に機関士やメンテ作業員がいないというのは解せないんだけど」

「それをやれる者がギックリ腰でな」

「・・・・ギックリねえ」

「ここまで来てゴネても仕方がないか」

宇宙船スピカは海賊船の格納庫に入って行った。

「おお、旧式とはいえ大型船は違うね。格納庫に隔壁があって、すぐに酸素房になっているじゃないか」

「しかし、古いな。子供の頃にアキハバラ星の交通博物館で見た船そのものじゃないか」

「古くても大丈夫なんですか。フウカちゃん」

「うん、メンテもしっかりしているし。最新式の安物よりよっぽと安全だよ」

動く廊下で自動案内されて行くと船長室の前で止まった。

「私がこの船の船長のワーロックだ」

「ハーロック?」

「ワーロックだ」

船長と名乗る男は黒いマントをまとい、長髪、隻眼、長身、精悍な面構えをした絵に描いたような宇宙海賊だった。

「詳しいことは機関士のエムに聞いてくれ」

機関室に案内される。

「ねえ、見た、見た、あの船長。いい男だったわね。でもね私達の胸ばかり見てたわよ。いやらしいわね。むっつりよ。むっつり」

「ライムちゃんはやらしいことばかり言って変態です」

「あんた、気付かなかったのフウカの胸とあたし達の胸を見比べて、ニヤッて笑っていたのよ」

「えええっ、胸差別が行われていたのですか」

「そう、男は所詮獣だから。女の身体にしか興味がないのよ。愛とかいうのは方便でやりたいだけなのよ」

「やりたいだけなんて言い方変態です。ライムちゃんの変態」

「そんなことより。あのおっぱい星人を見なさい。冷静に見えても心の中では私達を馬鹿にしているのよ。この乳無ってね」

「誰がおっぱい星人だっ」

「そうだ、私はおっぱいになんか興味がないぞ」

艦内放送で船長が怒鳴った。

「おっぱいに興味がない男なんて・・・はっ!!」

「ひそひそひそ・・・」

「ええっ、船長さんとこの機関士のおじさんが?」

「そう、その時ぎっくり腰に・・・って言うと思ったのかぁ(激怒)」

腰をかばいつつ歩いていたエムの腰の様態が悪化したようだ。

「ここだ。腰さえ悪くなければ簡単な作業なんだが・・・」

「サービスマニュアルを見ながら、分からないところがあれば聞いてくれ」

「メカニカルな部分が多いけど、理屈がわかれば簡単だな。電子機器制御は楽だけど、ブラックボックスになっているからAssy交換になるしなあ」

「おまえさん、女のくせに手先が器用じゃないか」

「女のくせには余計だな。メカいじるのに女も男もないでしょ」

「どこで習った?」

「うちのボロを直している内に自然とね」

「ふーん。センスがあるんだな」

「お金がないだけさ」

修理は意外に簡単に終わった

「こんなギヤとシールを交換しただけで1000万ももらっていいのかい」

「構わんよ。金なら腐るほどある」

「ちょ、ちょっと待った。現金で支払いとかいうじゃないでしょうね」

「むろん、そのつもりだが」

「知らないのかい。2301年に宇宙連邦法が改正されて、現金での取引は禁止されているんだ。というか今はデータでやり取りされているんだよ」

「太陽系を外れると宇宙札は普通に使えるが」

「むーん、そうすると。そちらに対する報酬は黄金でいいだろうか」

「黄金は宇宙開発が始まって月に大量にあることがわかって、ほとんど価値がないんだよね。」

「そうだ、日本という国があった当時の武士道ブレードはどうだ」

「むーん・・これに1000万の価値があるのかねえ」

「まあ、大したことしてないし、黄金を船いっぱいにもらっても仕方がないしね」

「それじゃ、毎度ありがとうございました」

「最後に一つ。誤解を解かねばなるまい」

「誤解?」

「私は男好きではない」

「ブホッ、何言ってんだこのオヤジ」

「だって、船長さん女の胸に興味がないって・・」

「私は女の胸には興味はない。私は女の尻に興味があるのだ」

渋い決め顔で呟くようにワーロック船長が言った。

「森山周一郎のような声で何言うかと思ったら、尻好きカミングアウトですか」

「宇宙海賊ワーロックが○○などという噂が立ったら生きていけん」

「でも、女子は○○好きですよ」

「ひそひそ・・・ホラ、○○を誤魔化すために尻つながり・・」

「ああっ」

「そこっ、ひそひそ話しない!!」

「くそっ、天下の宇宙海賊であるこの私が○○疑惑をかけられるとは・・」

「それじゃ、失礼します。尻好き船長さん」

「まて、その通り名もゆるさん」

ワーロック船長は耳まで真っ赤。


「わりかし面白い船長でしたね」

「ちょっとからかったら本気になって怒っていたな。煽り耐性ないな」

「ちょっ、私もよく知らなかったんだけど宇宙海賊ワーロックって連邦軍を敵に回して闘うほどの大物じゃないか。配下が10万いるとか書いてあるぞ。大丈夫か私達。あんなのに喧嘩売ったみたいになって」

「あの・・・言いにくいんだけど」

「んっ、スーチーどうしたんだ」

「ワーロック船長の顔をコンピュータでいじって女の尻見て鼻の下を三倍に伸ばしたのを作って・・・」

「作って?」

「盗聴回線使って送りつけちゃった」

「うわあ・・・」

ライムの前の無線に呼び出し音が入る。

「はい、お電話ありがとうございます。結構、日光、仕事も素早いいい女。ローズ商会のライムでーす」

「はっ、コロス?コロスと申しますと。コロッケを酢で和えたあれのことですか」

「えっ、ええええーー」

「スーチーやらかしたわね」

「なあに、ライムちゃん」

「例のCGが宇宙海賊船の大スクリーンで映し出されたって」

「艦内大爆笑になって、惑星に追突しかけたって。えらい剣幕で怒っているんだけど」


「宇宙船スピカ・・・ワープを申請します。機体認識番号kz1300a4・・」

「月の裏側まで逃げるよ」

「了解」

「了解です」

宇宙船スピカとローズ商会の運命やいかに・・・漆黒の闇の中で星達が笑っていた。

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