ジャンル小説はよくもわるくも伝統芸能化してしまう。
たとえば屋上で出会いがあったり事件が起きたりするという「お約束」がその一つの例だが、残念ながら「屋上は今日も閉鎖されている」。
そんな本作は、ヒロインである最上の「ハーレムを作ろう!」という一言になぜか唯々諾々としたがって奔走する主人公の西下の姿を描いたものだ。
この話でもっとも唐突なのはこの枕なのだが、それ以降は、ハーレムを形成するために一人ひとりの女子生徒たちと真摯に人間関係を構築していく様が非常に丁寧に描かれる。
言うなれば、つまり、ラブコメであることを演じるための努力に余念がないのが本作である。
思えば王道のラブコメは、ヒロインの好意に絶対に気づかない鈍感主人公を中心に構成される内容だったのかもしれないが、いまやキャラクターたちすらもそういうお約束から疎外されてしまったのかと思うと味わい深い。
とはいえ、ハーレムを作り出す努力をしているうちに仲間も増え、本当にハーレムが出来つつあることに気づくというその読書体験それ自体が、実は絶品なのである。
(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)
「ハーレムを作ろう!」
この作品は、そんな一言から始まるラブコメだ。
しかし従来の学園モノと大きく違うのは、どこまでも現実的で、打算的で、それでいて楽しいのだ。
屋上なんて開いてないし、生徒会にそこまでの権力はない。風紀委員会なんてものも存在しない。
そんなどこまでも現実的な学校生活の中、主人公である西下は頭を使い、地道にハーレムを作ろうと動いていく。
そして何より楽しいのが、時々挟まれる小ネタだ。タイトルこそ出てこないが、説明される漫画や小説はどれも、現実世界であるものばかりだ。知っていると「あ、それな!」と思えるマニアックな楽しみ方ができる。
学園ラブコメの新たな一面を、これからも楽しみたい。
ハーレム、男の夢といっても良いそれは様々な作品で様々な手段を持って構築されてきた。モテすぎる主人公がなし崩し的に作ることもあるし、口説き落とした女の子達を侍らせたものもあった。古今東西様々なハーレムがあった……
しかし、この作品のハーレムを構築する手段は、策謀だ。一見、ハーレムとは無縁のそれらを持って主人公西下刻也は同じく策略家最上綾ともにハーレムを目指す。
策略、そう策略だ。人を騙し、透かし、あるいは操るそれらはこの作品においては全く不愉快ではない。むしろ、次はどうするのか、この行動の裏にはどんな意図が隠れているのか、そんな事を楽しむことさえできる。正しく作者の妙、見事としか言いようのない構成の上手さがこの作品にはある。
もし、ただのハーレムに飽きたのなら暖かな策謀に溺れてみるのもいいだろう。