第6話
「ぎゃぁーっ!」
耳を覆いたくなる凄まじい叫び声の後、家が揺れるほどの衝撃と共に、グシャリ、という何かが潰れるような嫌な音がした。
「あ……あ……」
言葉にならない。麻衣の足は無意識のうちに階段まで進んでいた。恐る恐る階下を見ると、莉子が倒れていた。そして、その首は有り得ない方向へねじ曲がっている。一目見て、息をしていないのは明らかだった。麻衣は、ゆっくりと振り返った。そこにはお雛様の胴体が横たわり、その横には首が落ちていた。
「こんな……ことって――」
麻衣はもう、何も考えられなかった。自分の親に連絡することも、莉子の親に知らせることも思い浮かばなかった。ただ無意識に、その人形を拾いあげようとしていた。
「手の中に収まるほどの人形に、こんな力があるなんて……」
そう呟き、胴体に次いで頭を拾いかけた時、お雛様の目がカッと見開き、その口元がニヤリと綻んだ。そして、ゆっくりと口を開いた。唄うように語るように、ゆっくりと――。
「おまえとあの子は……いつまでも一緒なんだろ?」
「え……」
「我と離れた今……あの子を見守ることができるのは……おまえだけだねぇ……」
「あ……なに……いや……」
「これまでもずっと一緒……これからも……きっと一緒」
その声は、笑っていた。
「い……いやーっ!」
麻衣は恐怖のあまり、手にしていたお雛様の胴体を落としてしまった。
「あ……」
その衝撃で、着物から覗く手足はバラバラになっていた。
「おやおや……」
首が近付いてくる。
不気味に笑う顔が近付いてくる。
「や……やめて……私、違う……この家の子じゃない……違うっ!」
一歩、また一歩と後ずさる麻衣の耳に、またしてもお囃子が聞こえてくる。そして、唄うような語るような声もまた、聞こえてきた。
女児と戯るその稚児に
我の使命を託すれば
我の命が尽きようと
女児の命が果てようと
その稚児共に永久に
女児を守りし盾となる
女児に災いあらんとすれば
我身代わりとなり受けて
我に災いあらんとすれば
女児身代わりとなり受ける
女児我共に果てるとき
戯る稚児も御供なる
我は女児
女児は我なり
「それ……それって、私……?」
「一緒、一緒……ずーっと一緒……羨ましいのう」
何歩目かの後ろへ引いた麻衣の足が、何かに当たった。
「のう、皆のもの……そうは思わんかえ?」
嫌な予感がして振り向いた。
誰も居ない。
恐る恐る視線をゆっくりと下へと動かす。
「……ひっ!」
するとそこには、窓の外からこちらを覗いていた数々の人形が麻衣を取り囲むようにして並び、その距離を少しずつ縮めている。
「あ……いや……」
雛人形たちが、じりじりと麻衣を階段へと追い込む。
「どうか我の代わりに……あちらで女児を守っておくれ」
「な……あちらって、そんな……来ないで……来ないでーっ!」
言いながら後ろへ下がった瞬間、麻衣の体が中に浮いた。
お雛様の声が聞こえる。
唄うように語るように、ゆっくりとした声が――
「さて……次はどの女児にお仕えしようかねぇ……クックッ……」
(完)
お雛様 淋漓堂 @linrido
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