第31話


「今日の昼、ヴォルフ=ヴォル・パーニッシュとかいう狼の獣人によくわからないまま襲われたんだけどこれはどういうことか説明してもらえますかね!」

 ソラは闘技場に着くなりレイナとセレンに問いかけた。少しキレ気味で。

 今夜は月が一段と明るく、レイナ達は明かりの魔法を使ってはいないようだ。

「あー、遅かったみたいだねー」

 セレンがハハハと苦笑いを浮かべる。

「セレンさん、納得のいく説明を!」

「まあ落ち着けソラ、そう勇むな。アタシからも謝るよ、ごめん」

 レイナは、今日は槍を持っている。病み上がりの稽古でレイナの槍を受けるなんて骨が折れそうだ、とソラは思った。もちろん比喩的な意味で。

「げえ、なんかお前に謝られると気持ち悪いな」

「……人が気を使ってやったら、よしソラ、歯ァー食いしばれ!」

 レイナは拳を作り、骨をぽきごきと鳴らす。

「レイナちゃん、人間のソラくんがなんの準備もなしにレイナちゃんのパンチもらったら多分顔面吹き飛ぶよ? さて、そんなことよりも説明だったね」

「そんなこと? お前いま、そんなことっつたか?」

「てか、そもそもパーニッシュって誰なんですか」

「パーニッシュは僕やレイナちゃんと同じ、特別執行部のメンバーだよ」

「特別、執行部……」

「そう、白雪ちゃんを使ったのならもう知ってるとは思ってたけど、そっか、特別執行部は秘匿性の高い組織、白雪ちゃんでもメンバーを調べるのは難しいか」

(知らねぇよ、なんだよ特別執行部って)

 が、ハッタリかましている訳なので、そんなことはおくにも出さない。

(……某、そんなこと頼まれた覚えなどないのだが、フム、やはりソラ殿はハッタリをかましておるな)

 が、闇に隠れて聞いていた白雪にはバレバレだった。

「それで、ソラくんは白雪ちゃんからどれくらい教えてもらったのかな?」

(どのくらいも何も、ハッタリだから何もしらねーよ)

 などと思ったが、やっぱりハッタリがばれるのもアレなので、ソラは知恵を絞る。

「いや、俺もアレ中途半端にしか教えてもらってないんで最初から全部教えてもらえるとありがたいんですが……」

(……ソラ殿、それでは勘の鋭いセレン殿に気が付かれまするよ……)

「ふむ、言われてみればそうだね、ごめん、最初からすべて話すよ」

(およ?)

 が、意外にも、セレンはすんなりとソラの言葉を受け入れた。

(セーフ! 危うく大失敗を犯すところだったぜ)

「じゃあ、まずは特別執行部から話そうか、そもそも特別執行部っていうのは二年前に設立されたもので、一般の生徒にはその存在を知られていないね。これは本来白雪ちゃん達が調べようとしていたことにもなるのかな? まあ、その役割は学園の表ではできないようなことを引き受けているね」

「それって、たとえばどんなことです?」

「うん、基本的にはダリキシア学園長のお使いになるね、そうとう危険度の高いクエストって言ったら分かりやすいかな?」

「そうだな、具体的には、詳細が分かっていない新しいエリアの探索任務とか、危険な魔導書の処理――原本じゃなくてレプリカなんだけど――とか。ああ、そういえば小型・中型がゴキブリみたいにいるような溪谷で60メートルの大型のドラゴンの討伐任務をさせられた時はさすがに壊滅するかと思ったな」

 レイナが昔を懐かしむように思い出を語る。

「ドラゴンって、俺は見てないけどこの間のサイエルの森の時でも出たんだろ? 確か聞いた話によると、レイナとセレンさんだけじゃなくアスレイン先生とレオ先生、あともう一人のエルフの先生の五人で勝てなかったんだろ?」

「あんときはセレンのバカが魔力切れしてた上に、そのエルフの先生が余計な事したせいでみんな下手に動けなくなるし、アタシと互角に殺りあえるダークエルフがいたんだよ。だからアタシたちはドラゴンを狩り殺せなかっただけだ」

「話を戻すよ。特別執行部ってのは、まあ僕やレイナちゃん、あとパーニッシュとも戦ったよね? だったらわかると思うけど、特別執行部に入れられるのは、レイナちゃんやパーニッシュのように戦闘力が強かったり、特殊な魔法が使えたり、僕みたいな変な能力があったりと常識破りな人が多い」

「なんだ、自覚はあったのか」

「レイナちゃんちょっと黙っててね。ダリキシア学園長は『何か』に備えてる、僕らはその駒ってわけ、パーニッシュなんかは納得してるみたいだけど、僕とレイナちゃんはそれをよしとはしなかった、けれど、今の僕らじゃダリキシア学園長には勝てない、だから、地道にレベルアップしながら寝首をかくチャンスを待っているって訳」

(こ、こ、この人、反逆考えてた――ッ!)

 ソラは自分の顔が引きつっていないか内心心配していた。

「それで、ソルミレン先生のことだけど、実はあの人も特殊能力の持ち主でね」

「え、本当ですか!?」

「うん、『超聴覚』とでもいうのかな、あの人はキロ単位で遠くの音を聞くことができるんだ。あ、今は心配しなくてもいいからね、闘技場には防音の魔法を掛けてあるから」

「まー、味方に出来れば心強いんだけどよ、ほら、あの人は学園にかなり恩義があるだろう?」

「でも、どっちの味方もしないって言質は取った」

「で、だ。ソラくん、君に聞きたいことがある」

「おい、セレン。やめろ」

「やめないよ。ただでさえレイナちゃんの普段の行いのせいで信頼できる仲間ができないんだから。それに、ソラ君ならレイナちゃんが懐いているし、戦力も申し分ない。単純な戦闘力がレイナちゃんとほとんど同じパーニッシュを、破力を知らないうちに倒せるなんて、僕から言わせてもらうと恐怖でしかないよ」

(倒したっていうか、見逃してもらったって感じです、はい。というか、破力って何)

 ソラはそう思ったが、やっぱり口には出さない。

「で、ソラくん。僕が言いたいことわかるよね?」

「勧誘、ですね」

「そう。あと白雪ちゃん、君もだ」

「え、白雪いるのか?」

「……」

 白雪は解せぬといった顔で闇から身を現した。

「……某は忍者にある、何故お主たちには某の気配が分かるのか?」

「ま、特別執行部っていうのは本当に実力だけは上がるからね。でも安心して、相当意識しないと分からないから」

「そもそも分かられたらダメなのじゃが……」

「さて、せっかく騙されてこんな話をしたんだ、ソラくん、白雪ちゃん、いい返事を期待してるよ?」

(げえ、やっぱばれてたか)


「だが、それは特別執行部に牙をむくということだというのを忘れるな」


「ヴォルフ=ヴォル・パーニッシュ、ヴィム=ファイブ・レイナに決闘申請」

 と、つい最近聞いた声がしたかと思うと、レイナに向かって何かがものすごい速さで飛んできた。

「チッ」

 被弾する直前に気が付いたレイナは、ギリギリの所で横に跳んで事なきを得た。

「アタシはまだ返事を出してねぇんだが?」

「どうせ受けることになる、ならば、返事など無用だ」

 ぼさぼさの黒い髪と狼の耳、鋭く目付きの悪い目、パーニッシュだ。先ほどの攻撃も、パーニッシュが跳び蹴りをしたものだろう。

 ただ、ソラと対峙した時と違って、その腕に鋼でできているグローブ――指の付け根の所には四つのトゲがついていて、とても凶悪だ――を付けているそして、ソラと対峙した時よりも目付きが鋭い。

「『ゴルディス・バルドロ・シルド』」

 パーニッシュを中心として、四方二十メートルが突如現れた光の壁によって遮られてしまった。もちろんその中にはレイナが入っていた。

「光の四方結界? ハッ、おいティラ、こんなもんでアタシを封じ込めたとでも思っているのか?」

 すると、元々パーニッシュが跳んできた方向から、ふわふわと浮いている人がこちらに来た。背中に透明な羽がみえるが、羽ばたいているようには見えない。

(浮遊魔法? いや、あの羽は、妖精か?)

 ソラは自分が持っている知識で、そう結論づけた。

「んふー、レイナなら一分あればソレを壊せるだろうね、けどね、何のためにパーニッシュが結界の中に居ると思うの? もちろん僕も精一杯の邪魔をするし、セレン司書にも邪魔はさせないよ?」

 ティラの言葉が引き金だったのか、更に二人現れる。超大柄な男と、小柄な男だ。

 超大柄な男は全身を覆う鎧を着てはいるが、武器らしきものは何も持っていない。対象に小柄な男は身の丈ほどある――多分一メートルくらい? とソラは思った――大斧に寄り掛かっている。

「メリデゥーくんにディ・パルスモンさんか、いやあ、僕ごときに二人もいらないんじゃないかなー」

「フン、謀りおって。お主の無言魔法は魔眼級に厄介じゃからのう、本当ならニーナもお前に当てたかったところじゃ」

「当てたかった、っていうことは一応ここには来ているんだね?」

「う、さ、さすが鋭いんだな、でも、ニ、ニーナの邪魔はさせないんだな!」

 超大柄の男、メリドゥーがそういうと、呪文を唱えた。

「『メルデ・メル・シュトミシュル・パルディモス・シュトラス』。対象を決定、設定完了、なんだな」

「さて。これで消耗戦になったな、お主とワシら、せめて楽しもうじゃないか!」

 パルスモンが大斧を振り上げセレンに斬りかかる。

「セレンさん!」

 ソラはセレンの所に行こうとするが、胴部分を蹴られて体勢を崩し、意図しない所に移動する。

(あれ、これデジャブ?)

 そう思った瞬間には、さっきまでソラが踏み出そうとしていた地面が爆発していた。

「なッ!?」

 なにかあるとは思っていたものの、まさか地面が爆発するなんて想定外だ。ソラは、いつもの呪文を唱える。

「『ヴォンドルガ』」

 素早く体勢を整えて、術者の姿を探す。

「ソラ殿、あの者じゃ!」

 白雪が指さす方向、分厚く大きな本を広げ、スカート、手袋、長髪、一部見えている肌以外の全てを黒で埋め尽くしている女子生徒が、こちらにゆっくりと歩いてきていた。

「キャサルディー・ニーナ、よろしく」

「いきなり魔法ぶっ放してくるような奴とはよろしくできないな、アンタもパーニッシュなんかと同じ、特別執行部の者か?」

 毅然とした態度で返す。しかし、内心ではもう何が何だか分からなくなっていた。

(とりあえず、レイナはいまの所無事そうだし、セレンさんも押されてはいるけどまだ何とかなりそう。問題はこの女だが、魔術系か戦士系かまだ分からない所だな、みたところ、本しか持っていないけど、あの本が鈍器と言われても納得がいく大きさだし)

「そう。いきなり好戦的な態度を出したことをまず謝るわ。ごめんなさい、でも、私達もあなたが相応しい者なのか確認しないといけないの。だから、あなたも全力でかかってきてね」

 ニーナがそう言い終わると、火炎球が三つニーナの上空に出現した。

「詠唱なし!?」

 火炎球は、ニーナがソラに指を向けると、猛スピードでソラ達に襲い掛かってきた。

「うお!」

 魔法で身体強化しているソラと、元から素早い白雪は、不意を突かれながらもなんとか避けることができた。左右に分かれたソラと白雪は、事前に打ち合わせでもしていたようにニーナに向かって走る。

「避けたんだ。衝撃的」

 更にニーナは、八つの火炎球を出現させそれぞれ四つをソラと白雪に、しかも三つと一つに分けて時間差で攻撃を仕掛ける。

(避けきれない、なら!)

 ソラは迫ってくる火炎球にタイミングを合わせて、腰からナイフ『月下魔滅』を抜き出し、斬り付けた。知る人が見たら居合切りを連想しただろう。

 向かってくる火炎球の内、二つを打ち消して体をひねる。そうして少しだけ避けた所に火炎球が通過する。

(避けた? いや、それよりその前、私の見間違いじゃなければ、火炎球が打ち消されたように見えたけど、不確定的)

 ニーナは事実確認よりも、戦いに集中する。

 ひっかけの最後のひとつを避けたソラの方へ、更に火炎球を六つ放つ。

「某を無視とはいい度胸にあるな!」

 いつの間にか接近していた白雪がクナイで斬りかかろうとする。

「『ディオ・ソシルド』」

 が、呪文によってニーナと白雪の間に魔法の壁が生じた。白雪は壁に阻まれて、クナイをニーナに当てることができなかった。

「……小賢しい」

 白雪は一度闇を作りだし、その中に潜みこむ。白雪が闇の中に完全に入ると、闇は収縮し、消えて無くなった。

「テレポート?」

「後ろにござるよ!」

「俺もいること忘れてんじゃねーだろうなあ!」

 ソラと白雪の同時刃物攻撃、ニーナの顔に一瞬だけ曇りがみえた。

「バカ! 離れろ!」

「え?」



 少し前、レイナはパーニッシュと限定空間でタイマンしていた。

「おりゃ! うりゃ! せい! くそ、ちまちま逃げやがって、避けるな! 男ならアタシの全力受け止めてみろ!」

 レイナは槍で連撃をかますが、パーニッシュは素早く、微細な動きですべての攻撃をかわしている。

「テメェの一撃は当たると痛いんだ――よッ!」

 パーニッシュはレイナの一瞬の隙を見逃さず、突き出された槍をグローブで逸らしつつ懐に入る。

「もらった!」

 レイナの槍をどけての、あいた懐に拳を叩きこむ。

「あげねーよ!」

 パーニッシュの拳はレイナの胸を捉えるはずだった、しかし、レイナは自分から後ろに仰け反ることで、ギリギリの所でパーニッシュの拳を避けることができたのだ。

 レイナはそがれた槍を地面に突き立て、つっかえ棒の代わりにすることで倒れるのを防ぐ、そのまま槍を利用して、パーニッシュの腕を足で掴む荒技をこなし、サブミッションのごとく捻りを加えた。

「折れろ!」

「グッ」

 グキリ、という嫌な音がパーニッシュの腕から聞こえた。

「ティラ! 援護はまだか!」

 パーニッシュは振り返る、が、そこにはティラの姿はどこにも居なく、代わりに、別の人影が立っていた。

 そいつは腰まである金髪を風になびかせて、長銃を一丁携えている。整った顔なのだが、その顔にはなんというか、表情が現れておらず、一抹の怖さまで感じるレベルである。

(あいつ、もしかして……くそ、ティラの奴、いち早く気が付いて逃げやがったな!)

 パーニッシュは関節技を決めるのに夢中で、状況の変化に気付いていないレイナに怒鳴りかける。

「おい、レイナ! アレを見ろ!」

「アアン? そんな小細工通用するか、バーカ!」

「チッ、いいから見てみろ、俺は卑怯なことはしない!」

「ん、まあお前の性格はそうだよなあ、って、嘘だろ? どうしてあいつがいるんだよ、テメェなんでもっと早く教えなかった!」

「教えただろう!」

 レイナは関節技を解く。

「見ろよあの目、表情にはでてないけどアレ怒ってる時の目だぞ」

「ああ、アイツのことだから普通に俺らにも普通に撃ってきそうだぞ」

 グキグキ、とパーニッシュは腕を揉んで、関節を元の位置に戻した。

「てか、今はソラと白雪がいるんだぞ! アイツの銃に狙われたら死ぬじゃねーか!」

「あ、それはまずい、黎明に怒られそうだ」

 金髪の人影は、長銃を構える。狙う先は――ソラ達だ。

 ソラと白雪は、ちょうどニーナを追い詰めた所なのか、三人一ヶ所に固まっている。

「バカ! 離れろ!」

 レイナは叫んだ。腹の底から、その甲斐あってか、ソラはこちらに振り返る。けど、そこまでだった。長銃から弾丸は放たれてしまった。弾丸は、特殊な加工をしているのか、それとも魔法が掛かっているのか、通常の弾ではなく、紫電の軌跡を引いていた。

「え?」

 ソラには、全く別の所からくる攻撃に理解が及ばなかった。ただ、何とかしなくてはと思う気持ちが一応の防御だけは取らせていた。


「スパーク」


 銃弾は、三人の間数センチの隙間を通過した。ただ、弾丸と三人が最も近い距離になった時、弾丸から電気がはじけた。

「ッ!?」

「――ッ」

「アアアァ!」

 ソラは、前もって防御の体勢を取っていたので、まだ動けるが、白雪とニーナは不意打ちに気付かず、大ダメージを負ってしまった。

「白雪、大丈夫か!」

「……ク、かたじけのうござる」

「痛――、今の攻撃、まさかキーニャ!?」

 ニーナは攻撃が跳んできた方向を確認する。

「キーニャライムエリムシン、里のためにキサマらを――ッ!?」

 ダダダダダダダダダダッ!

 セリフの途中だが、キーニャは長銃をぶっ放した。

 銃弾を全身に浴びながらも、キーニャに突っ込んでくるのは、斧を構えてくるのはディ・パルスモンとセレンから呼ばれた男だ。斧で銃弾をガードしているが、全部は防ぎ切れていない、しかし、ディ・パルスモンはまったくダメージを受けた様子もなくキーニャに走り寄り、斧で斬りかかった。

「チッ」

 キーニャはエルフ特有の素早い動きでこれを回避、ディ・パルスモンとの距離を取る。

「避けたか。相変らずすばしっこい奴じゃ……よお、帰ってくるとは思っておったが、このタイミングとはのぉ、キーニャライムエリムシン!」

「――ディ・パルスモンですか。悪いですけどあなたに構っている暇はありません」

 キーニャは、腰に手を伸ばす。長銃に注目がいって今まで気が付かなかったが、キーニャの腰ベルトには拳銃や手榴弾、良くわからない杭のようなものもある。キーニャはその杭をベルトから三本引き抜き、ディ・パルスモンに投げつける。

「邪魔じゃ」

 杭は斧で軽くはじかれて、防がれてしまった。無残にも杭はディ・パルスモンの周囲に散らかった。

「まさか、こんなものでワシを防げると思っておるのか?」

「ええ、十分です。『捕獲杭』、起動」

 ディ・パルスモンの周囲に散らばった杭は、キーニャの意思を読み取り、起動した。

 『捕獲杭』、これは本来、強力なモンスターがいる黒の塔のモンスターを捕獲したり、また、黒の塔で孤立した時に、救助がくるまで自分を隔離したりと、外部との接触を遮断する道具である。

 ディ・パルスモンの周囲にあった三本の『捕獲杭』は、線を出し結びつき、三角形を形成する。そこに、キーニャはもう一本、ディ・パルスモンの上空に『捕獲杭』を投げつける。新たに投げ入れられた『捕獲杭』は三角柱の檻を作りだした。

「ディ・パルスモン、あなたとメリドゥーのコンボはとても強力、だから、まともに相手にしないわ、しばらくそこで大人しくしていて」

「クソ、なんじゃこれは!」

「黒の塔で生き残るための必需品。なんでも力で解決しようとする小人には分からないわ」

 キーニャは長銃を構え直し、再び宣言する。

「キーニャライムエリムシン、里のためにキサマらを尋問します」



 キーニャライムエリムシンは、特別執行部の最後のメンバーだ。元は、姉のミハードライムエリムシンと一緒にエルフの里から同盟の証として学園に通っていたが、その成績の優秀さを国が買い、黒の塔の調査団として学校から出ていた。

 しかし、エルフの里襲撃に、村長の死の話をきいたキーニャは、裏に特別執行部が絡んでいると読み、独断で黒の塔から学園へと戻ってきたのだ。

 いつぞやレオが、ソラとエレンに話して、ソラに人格破綻者と称された人物である。



「――りゃあ!」

「セイ!」

 レイナの槍と、パーニッシュの拳が魔法の壁に叩き込まれる。しかし、魔法の壁はびくともしない。

「くそ、硬てぇ、もう面倒だ、うまくできるか分からんが破力使う」

「んな、バカ、やめろ! お前まだ完全にコントロールできねぇだろう!」

「関係ねぇ、吹き――」

 レイナは槍を構える。

「飛べぇ――――ッ!!」

 グシャアアアン! レイナが下した一撃は、魔法の壁をいともたやすく砕ききった。

「ふう、なんとかなったな」

 レイナはご満悦のように笑顔を見せる。

「むちゃくちゃだ、まあお前らしいと言えばそうかもしれんが」

「おうキーニャ! テメェいきなりうちの身内に攻撃して、どうゆうこった?」

 レイナは長銃を構えているキーニャに野次を飛ばす。

「身内? たしかに、私達は同じ組織に属しているけど、あなたが味方と認識しているのはセレンぐらいだと思っていたわ」

「ちげーよ、アタシが言っているのはそこの二人のことだ」

 レイナはどう動いていいのか分からないソラと、その近くでぐったりしている白雪を示した。

「――敵じゃなかったのね、ゴメンナサイ、私の勘違いだわ。でもどうせあなたに近い人だからどの道こうしていてでしょうけど」

「どうゆうことだ」


「エルフの里、襲撃のことじゃないかな?」


 ひょっこりレイナ達の後ろから顔をのぞかせたのは、セレンだ。

「な、セレン! お前、メリデゥーとディ・パルスモンはどうした!?」

「ディ・パルスモンさんはキーニャにやられて、メリドゥーくんは気絶させた。攻撃が聞かなくったって、気絶させる方法はいくらでも思いつくよ」

 セレンはニヤッとした笑みをパーニッシュに見せる。

「チッ、ホントにお前だけは敵に回したくないぜ」

「僕もだよ」

「戯れはそこまでです。あなた達に選択をあげます、大人しく事の真相を私に話すか、痛い目を見て私に話すかのどちらかです」

 キーニャは長銃をレイナ達に向ける。

「確認だが、お前はエルフの里襲撃の真実が知りたい、そうだな?」

「ええ、そうです」

「なら、何故アタシたちを攻撃するんだ? 訳が分からないぜ」

「訳? どうせ今回もあなた達が何かした結果がこれなんでしょう? なら、あなた達が悪いじゃないですか?」

「なるほどね、つまりお前は、エルフの里襲撃は特別執行部の活動だと思っている訳だ」

「――違うとでも言いたげな口調ですね」

「そう、違うさ。特別執行部でエルフの里襲撃に関わったのはアタシとセレンだけ、しかも関わったと言っても学園の指示を無視して関わったんだ、この意味が分かるよな?」

「――続けてください」

「話は二ヶ月ほど前に遡る、二ヶ月前、事務員の仕事と言えばなんだかわかるか?」

「里への挨拶?」

「そう、同盟を結んでいる里への挨拶回りだ。そこでナイフを持っている奴、ソラって言うんだが、そいつ臨時の事務員なんだ、そいつが里に挨拶回りに向かった奴だ」

 キーニャは首を動かし、ソラの姿を確認する。

「本当ですか?」

「え、あ、はい、本当です。ソルミレン先輩の指示でエルフの里に行きました」

「それで? あなたは里で何を見たの?」

「おっと、そう急かすなキーニャ、まだ里に着く前にイベントがあるんだ」

「イベント?」

「アイセタールの群れだよ、群れを率いていたアイセイントも一匹いたな」

「ウソだ、アイセタールは森の深い所にしかいない」

「証人はちゃんといるぜ、その時同行していたエルフがいる、ニカって名前だったはず。一度里に戻った時に確認してみろ。それに、アイセタールの群れがいた理由もちゃんとある」

「その理由とは」

「驚くなよ、ドラゴンだ。20メートル級のな」

「それこそウソ、サイエルの森にいるドラゴンは温厚な性格だ、争いなどほとんどしないし、したところで被害はあまりないはずだ」

「いいから話を聞け、アタシも未だに理解しがたい部分があるんだよ。いいか、そのドラゴンはおそらく新種か遺伝子改造されたモルモットだ、ドラゴンと一緒に出てきたダークエルフの女の言うことを聞いていたしな」

(レイナちゃんは気が付いてないみたいだけど、あのダークエルフの子、ハーフだろうな。肌の濃さがそんな感じだったし、まあ、今はあんまり関係ないけど)

 セレンは黙ってレイナの話を聞く。いつでもサポートできるように当時の状況を思い浮かべながら。

「ダークエルフ? レイナ、冗談も休み休み言って、ダークエルフがそんな都合よく出てくるはずがないわ」

「ンなこと言ったって、アタシは見たんだ。セレンもソルミレンやレオ、お前のねーちゃんだって見てるぞ。これも今度確認してみろ」

「ではそれは今度確認します。そしてもう一つ、レイナ、セレン、何故あなた達のような人がいながら村長が殺されたのですか!」

「アタシらはドラゴンの相手をしていたからな、実際に村長の所にいたのはソラとソルミレンの妹のルナって奴、そしてエルフのニカって奴だ」

 キーニャが再びソラへと意識を向ける。

「あ、えっと、アイセタールのトラブルに巻き込まれながらもレイナとセレンさんのおかげでなんとかエルフの里に到着できて、そこで俺とルナはニカの案内で学園代表として村長に挨拶に行ったんだけど、俺たちが村長の部屋に到着した時には、もう、村長が殺された直後で、村長は血塗れで倒れていて――」

「殺された直後? ということは、殺した奴はまだそこに残っていたのですか?」

「はい、確か、ハスキーの効いた渋い声で、長身でくすんだ藍の髪色、ザンバラに切られた髪型、目の下にクマがある男でした」

「……覚えた。そいつが村長を、お父様を殺した奴か」

 キーニャの瞳に、復讐の炎が灯った。

「今度は俺から話そう。特別執行部側としてはこの状況は誤解されているかと思ってな」

 パーニッシュも会話に入ってくる。

「誤解も何も、お前らいきなりアタシ達に襲ってきただろう」

 レイナが比較的軽い調子で言う。

「今から説明すると言ったぞ、同じことを言わせるな。……俺達特別執行部は、エルフの里襲撃における被害を『学園への間接攻撃』と捉えた。以前にも学園の事を探るように言われた忍者が出たりしてたからな」

 白雪は倒れたまま、動けないふりをしている。

「実際、ミハード先生は里に帰り、学園への同盟も怪しくなってきている。そこで執行部長の黎明が問題解決の糸口として、カザキリ・ソラを特別執行部に入れようと言ってな、黎明の眼は信じているが、ちゃんと特別執行部にふさわしい人間なのか黎明以外のみんなそう思っている訳だ。そこで、いまちょうどそこのカザキリ・ソラとレイナ達が密会しているので、これはいい機会だと思って襲撃したんだ。もちろん、手加減はしてた、カザキリ・ソラの実力を見る以上のことは思っていない。けど、そこにお前が現れて今のこの状況だ。理解できたか?」

「――つまり、今回は私の早とちりだったと?」

「そうだよ」「そうだ」「そうだね」

 レイナ、セレン、パーニッシュの特別執行部組はあっさり答える。

「わかった、確かめてみる」

 キーニャは長銃の銃口を下ろし、レイナたちに背を向ける。

「おい待てよキーニャ!」

「……何」

「――アレ、解いてから行ってくれ」

 パーニッシュは、拘束されているディ・パルスモンを指さした。

「……忘れてた」

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勇者の末裔 カザキリ・ソラの試練 九重九十九 @kokonoetudura

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