第30話
『ソラ(くん)(さん)、退院おめでとう!』
パンパン! パチパチパチ。
クラッカーと拍手で自室にて出迎えられたのは、2ヶ月の長いあいだ医務室に閉じこもっていたソラだ。彼は2ヶ月前、エルフの里に学園の使者として向かったのだが、そこで不可解な出来事に巻き込まれて頭蓋骨を砕かれてしまったという経緯があった。
しかしそれも、今となっては昔の話であり、今はこうして彼と深く関わりを持っている者たちが怪我の完治を喜んでくれている。
「お前ら……おう! やっと帰ってこられたぜ!」
ソラは突然のサプライズで感動し、少し泣きそうになるのを堪えて仲間たちに笑顔を見せる。
「ソラさん、お帰りなさい!」
使い終わったクラッカーを投げ捨て、一目散にソラに飛びついたのはエレンである。
「うお、エレン」
「わたし、ソラさんがいない間も一人でトレーニングしてましたよ」
「うん、えらいな」
ソラは飛びついてきたエレンの頭を帽子越しに撫でる。
「えへへ」
「それに、エレンにはかなりお世話になったしな」
「ソラくん、私達は?」
ちょっと拗ねたような口調で言ったのは、金髪の髪の獣人族、ルナだ。
「もちろん、ルナにもイリアにもお世話になりっぱなしだった」
ルナとエレン、イリアの3人は、この2ヶ月間ずっと3日に一度ずつ交代でソラの病室に顔を出していた。
「みんなには感謝してもしきれないくらいだよ」
「そ、そんな、私は、エレンちゃんとルナさんと交代で看病しただけで、そんな感謝されるようなことは…………あうう」
ソラの心からの言葉に、イリアはソラを直視できなくなった。
「……ねえイリアちゃん、イリアちゃんってさ、回復魔法の達人なんでしょ?」
ふいに、エレンがイリアに問いかける。
「た、達人だなんてとんでもないよ! ただ、ちょっとだけ他の人より適性が高かっただけ」
「わたしは魔法のことはよくわかんなくて、今更なはなしだけどさ、イリアちゃんがソラさんに回復魔法を掛けたら2ヶ月も掛からなかったんじゃない?」
「確かに、それができたら2日くらいでソラくんは完治しただろうね」
セレンが話に入ってくる。
「でもね、エレンちゃん、回復魔法を掛けすぎると耐性ができるんだよ」
「耐性?」
「うん、簡単に説明すると、回復魔法を掛けすぎると、体が魔法に慣れてしまうんだ。だからだんだんと魔法が効きにくい体になるんだよ。もっともこれは回復魔法だけじゃなくて、自分の体に作用する魔法全てに言えるんだけど、かなり顕著に表れるのは回復魔法だね」
「ということがあるから、将来のことを考えると下手に何度も回復魔法かけるより自然治癒させた方がいいと判断したんだ」
「レイナちゃん、最後に全部持っていったね」
「まあな」
「まあいいけどね。さて、これでわかってくれたかな?」
「はい。魔法、難しいですね」
「というかさ、その、エレンちゃんはそろそろ、ね?」
「なんですかルナ姉ちゃん? 言いたいことはハッキリ言わないと伝わりませんよ?」
「いやあ、ソラくんからも言ってやってよ」
「俺? いや、俺は別に気にしてないけど」
ルナのもどかしそうな表情と、ソラに話しを振ったこと、さらにイリアが羨ましそうに自分を見ているところで、やっとエレンにもルナが何を言いたいのかわかった。
「ああ、ルナ姉ちゃんもイリアちゃんも抱き付いていいよ?」
「ふぇ!」「あ、あああ」
不意打ちにも似た突然の一言は、ルナとイリアを驚かせるには十分なものだった。
「クッハハハハ! そうか、エレン、お前はそんな答えを出したのか! 傑作だ! 最ッ高だよ、クハハ」
レイナは何がツボにはまったのか、腹抱えて笑い出す始末。
「レイナ、一応ここ俺の部屋である以前に教員塔にあるから、静かにしろよ」
「ハハハ、あー、笑った。あんな、この部屋は教員塔にある以前にアタシらの秘密基地だ、防音対策くらいしてて当然だと思わないか?」
「してるのか、防音対策」
「ああ、もうすぐ完成する予定だ」
「まだしてねーじゃねーか!」
「おいソラ、ここはお前の部屋である以前に教員塔にあるんだぜ? 大きな声出すなよ、アタシらがいるってバレたらどうすんだ?」
「なにこれ、すげームカつく。まあエレン、みんなもああいうし、そろそろ離れてくれるかな?」
「はーい」
素直にエレンはソラから離れ、ルナとイリアがいるところに並ぶ。
「それにしても、ソルミレンさん遅いな」
セレンがボソリと呟く。
「え、先輩もくるんですか!?」
「わ、ソラくん、露骨に嫌な声出さないで!」
セレンが少々慌てているが、
「聞こえてるわよ」
声が聞こえると同時に、ドアが開かれた。
「おっす後輩、先輩をそんな邪険に扱うなよな、悲しくて衝動的にお前のこと蹴ってやるぞ」
「先輩、先輩が言うとシャレになんない気がするんで止めてください、てかなんで先輩まで?」
「あ? 後輩の復帰祝いに先輩が来たらダメって決まりでもあんの? それに、私は呼ばれてやってきたんだぜ?」
「呼ばれて……?」
セレンの方を見ると、肯定するように頷いた。
「うん、僕が呼んだ」
「そういうことだ、オラ、客人に対する態度じゃないぞ」
「先輩こそ、客人とは思えない態度ですね」
「ハン、そうだろう」
「何故そこで誇らしげな顔するんですか、もう」
「あ、そうそう、この後はどうすんの? まさか、私を呼び出しておいて何もなしじゃないわよね?」
「食堂にて、ちょっとしたパーティーをする予定です」
「おお、セレン、流石だな。で、魚もあるのか?」
「もちろんです」
「うっし、ちょっと私は先に食堂に行ってくる!」
「先輩、俺の回帰祝いなんですよ!」
「ちょ、ソラくん! お姉ちゃん!」
「イリアちゃん、私達も行こう」
「うん」
ソルミレンに続き、ソラ、ルナ、エレン、イリアと次々と部屋を出て行く。
「みんな行っちゃったけど、レイナちゃんは行かないの?」
「セレンてめー、どういうことだ」
レイナが声を落としてセレンに問う。
「何が、かな、レイナちゃん」
「この集まり、ただソラの回帰祝いだけじゃねーだろ、どうして学園側の人間をよんだ」
「イヤだなー、味方は多いほうがいい、それだけだよ。それに、ソルミレンさんの固有スキルは学園側にあっちゃかなりの不利益だ」
「どうすんだよ、中途半端に引きずり込んでもスパイになるだけだぞ」
「今までソラくんとかかわった人は大抵彼の味方になるよ。まあ、いざとなれば妹のルナちゃんを人質にでもとれるし」
「ケッ、好かねーな、その考え」
「まあこれは僕が勝手にやってることだし、レイナちゃんは何も考えず楽しめばいいと思うよ」
「そうさせてもらうぜ」
レイナも、ドアノブに手を掛ける。
「でもなあセレン、お前が何考えてんのかしらねーけど、アイツらに邪魔されねーようにな」
「うん。気を付けるよ」
レイナが部屋から出て行った。
「白雪ちゃん、いるかな?」
呼びかけに答えるように、セレンの目の前に闇が生じた。
「お呼びでござるか、セレン殿」
「特別執行部の動きはどうなっているかな?」
「……現在、目立った動きをしているものはござらん」
「そう、わかった。引き続き、監視をお願いね」
「……承知」
言い終わらぬうちに白雪の周りに闇が生じ、その姿を包み込む。完全に体を覆ったところで闇は役目を果たしたとばかりに薄れていった。こそに白雪の姿はもうなかった。
「さて、僕も食堂に行こうかな」
セレンも、ドアノブに手を掛けた。
「あ、これおいしい、これもおいしいわよソラくん!」
「分かりましたから、せめて口の中の物を飲み込んでから喋ってください」
「そうだよお姉ちゃん、行儀悪いよ」
食堂では、少し早いお昼を食べている集団がいた。
「こんなときぐらい白雪ちゃんも出てきたらいいのにね」
「そうだね、でも白雪ちゃんって学園の生徒じゃないんじゃ……」
集団の中で目を引くのは、学園で名高いレイナとセレン、そして豪快な食べっぷりのソルミレン事務長だろう。
「それにしてもセレン、お前よくお昼前なのに食堂使わせてもらえたな」
「まあね、持つべきものはコネクションだよ、レイナちゃん」
「お前も悪い奴だな」
「そこまで悪いことはしてないけどね」
食堂の時間外利用、コック長とのコネクションがなければできないことだ。
「さて、みんな。食べながらでいいから僕の話を聞いてくれないか」
みんながリラックスして食べ話しているのを見計らって、セレンは立ち上がり注目を集める。
「どうしたんだよセレン、あ、これはやらんぞ」
ソルミレンは食べかけの魚が入っている皿を遠ざける。
「ソルミレンさん、お願いですから僕の言うことに真剣に答えてください」
「あ?」
「あなたは学園に、ダリキシア学園長に何を提供しているんですか?」
――瞬間、ソルミレンの目がマジになった。
「あらセレン、ずいぶん深いところ突っ込むわね。言っておくけど私たちは学園に恩義があるのよ、そこのところ理解しているのかしら」
ソルミレン、そしてルナは元は身寄りのない放浪者だった。それを拾って今日まで育ててくれたのは学園であり、ダリキシア学園長だ。
「アンタらの立場も、学園長の立場も知ってるから、どちらかに肩入れはしないけどさ、でもだからって学園を裏切るようなまねはしないわよ」
「お姉ちゃん…………」
「ルナ、アンタは私じゃないから、アンタの好きにしなさい」
ソルミレンは箸をおいた。
「ご馳走様」
「もう、行くんですか?」
「ん、まあね、空気がアレってるし、急ぎだけど胃に詰め込めたから。そんじゃ」
ソルミレンは席を立ち、食堂を後にした。去り際にこちらを見ないで腕を振るあたり適当な感じが出ていた。
「おいセレン、籠絡失敗か?」
「うん、そうみたいだ。でも、どちらにも肩入れしないって言質を取ったのは大きいかな」
「レイナ、お前たちはさっきから何の話をしているんだ」
一連の会話を理解できない勢を代表してソラが代表してソラが二人の間に割って入る。
「うん、まあ、ソラくんにはあんまり関係ない話しかな?」
「セレン、聞かれたのはアタシなんだが」
「あ、ごめん」
「セレンさん、ちょっといいですか?」
「うん? なにかな、ソラくん?」
「アナタは、一体何をしようとしているんですか?」
「何って、なんのことかな?」
「その笑顔で誤魔化せるのは女の子だけです。男の俺には効きませんよ、俺、動けない時でも白雪に頼んで色々な事を調べてもらってました」
「――そう、なら話が早い」
セレンは立ち上がる。
「今夜、いつもの闘技場にきてよ、そこでいま話せること全部話すからさ。良いよね、レイナちゃん」
「ああ、ソラがもう知ってしまっているなら、それしかないだろうな」
ふたりともいつになく真剣な目をしていた。
(あれ、ちょっとハッタリかけただけなんだけどな、これは大事の予感)
「しかしそうか、白雪ならアタシらの事を調べられるのか」
「うん、盲点だったね。さて、僕は今夜の準備とかしたいからもう行くけど、レイナちゃんはどうする?」
「はあ、気乗りはしないけどこれはアタシ達の問題だもんな、一緒に行くぜ。それに、お前の耳に入れておきたいこともあるし」
「そう? 珍しいこともあったものだ」
レイナは、腕一本くらいはありそうな大きい骨付き肉を一つ取って席を立つ。
「お前らはゆっくりしてろよ、くれぐれも、今夜ソラと一緒についてこようなんて思うなよ」
レイナはルナ、エレン、イリアをその眼光で睨みつけた。
「――ヒィ!」
その眼光にルナとエレンは背筋が振るえて、イリアに至っては小さく悲鳴を上げてしまった。
「レイナちゃん、子供たちが怖がってるよ」
「おっと、いけねえ。無意識だな」
「ほら、行くよレイナちゃん」
「ああ」
レイナとセレンは歩きさっていった。
「ふぇ、レイナさんのあんな怖い顔はじめてみた。まだ心臓がどきどきいってます」
「こ、怖かったの」
エレンとイリアはお互いに抱き着きあっている。女の子同士って、抱き着くのってよくやるよなとソラはぼんやり思った。
「ああ、流石に俺もゾクッとしたよ。普段の適当な雰囲気のせいで忘れそうになるけど、レイナは相当強い。視線だけで威圧される」
「そうだ、ソラくん、結局あの二人は何をやってるの?」
「うん? さあ、わかんない」
「え、でもソラくんさっき……」
「アレはハッタリ、いくら白雪が俺の言うことを聞いてくれるとしても、そういうプライベートなことを白雪を使って知るのは、ほら、なんか違うじゃん?」
「うん、そうだね。はあ、よかった」
「まあ、俺も弁えるところは弁えるよ。さて、飯も食ったし、俺もそろそろ行こうかな」
「え、ソラさんどこに行くんですか?」
「しばらくほとんど寝たきりだったからさ、体を動かそうかと思って。誰か付いてくる?」
「はい!」
勢いよく手を上げたのは、やっぱりエレン、と
「えー!」
イリアだった。いや、よく見てみるとイリアの手はエレンが掴んでいる。つまりエレンが自分とイリアの手を上げていたのだ。
「私は、じゃあここの片づけをしておくね」
「悪いな、ルナ」
「気にしないで。この子達ずっとソラくんが戻ってくるのを待ってたんだから。わ、私もだけど……」
「そうか、嬉しいよ」
「――ッ! え、なんで、普通は『なんだって?』って聞き返すでしょ? そして私が『何でもない』っていう場面じゃないの!?」
「いや、俺、耳が悪い訳でもないし」
「も、もう! これ全部片付けるね!」
「ルナ姉ちゃん、照れてる、可愛い」
「う、うるさい! 早く行きなさい」
ルナに追い出されるようにソラ達は食堂を出て行った。
ソラ達は、軽くランニングでもしようということになり、汗をかいてもいい服装に着替えるために、一度ソラの部屋に戻ってきた。というのも、ソラが医務室から動けなかった時に、レイナとエレンはこの部屋で寝ていて、今もなお、服や装備品が部屋に残っている。それに、イリアは普通科の授業で体を動かす教科を取っておらず、運動できそうな服は持ってないという。ならばとエレンが「わたしの服を貸すよ!」ということになって、三人そろってソラの部屋に戻ってきた。
(と、いっても、エレンはいままでの感覚でまだ羞恥心がないのは分かっているが、さすがにイリアもそうって訳はないだろうな)
ソラは思案する。
「俺はそこらへんで待ってるからさ、二人は先に部屋で着替えておいでよ」
「「はーい」」
(あ、普通に子供だ)
二人ともさっさと入っていくが、イリアはちょっとだけ開かれたドアの隙間からソラを見上げる。
「あ、あの、ソラさん」
「ん、どうした?」
「あ、あの、覗かないで、ください……ね?」
そしてパタンとドアは閉められた。
「…………え?」
ソラは二人が出てくるまでそこら辺を散歩しようと歩き始めた。
元々、女の子は着替えが遅いものだと知っていたし、二人いたからおしゃべりに時間がくうかもしれず、それにもう着替え終わったとおもってドアを開けたら実はまだでしたなんて事態は回避したい。そこで、多少遅れてもいいから時間つぶしをしようと思ったのだ。
普段は足が向かうことが無い校舎の裏側は、六月の終わりという一つの季節の移り変わりを周囲に教えていた。
「ここら辺は日当たりがよくて気持ちいいな」
芝生には日光がさんさんと照り続きいい具合に温かそうだ。今度、暇な時に昼寝でもしようかなとソラは思った。
「ソラ殿、危ない!」
「うお?」
ソラは聞いたことある声と共に、背中を強い力で押された。
ドゴン!
その直後に聞こえたのは地面が抉れる強い音、ソラはやっとこの瞬間頭が切り替わった。
「『ヴォンドルガ』!」
ソラの魔力が一定量無くなり、それに見合う現象がソラの体に起こる。ソラは普通の時間の流れより早く、後ろを振り返り、襲撃者の顔を見る。
獣人だった、ぼさぼさの黒い髪と狼の耳、鋭く目付きの悪い目、武器らしきものは持っていなく、蹴りで地面を抉ったらしい。そのことからソラは、この獣人が格闘家科ではないかとあたりを付けた。
「ほう、忍者は俺の蹴りを見切ったか。よくやるな」
ほんの一瞬の唇の動き、おそらくそう言ったのだろう。狼の獣人は、回し蹴りをソラに繰り出した。
「なめるな、これでも呪文で強化しているんだ!」
ソラは体を反転して、両腕をクロスさせて受けの構えを取った。
「そもそも受けようと思うのが間違いだよ、お前」
バチーン!
この音が、蹴りが当たった音だとソラが気付くのは、地面に顔をうずくめていた時であった。
(……う、嘘だろ?)
白雪がソラの背中を押してからこの間わずか一秒未満、ほんの一瞬の出来事だった。
「ソラ殿、大丈夫にあるか!」
白雪はソラの直前に現れ、クナイを構える。
「忍者、お前はいい筋をしているな。どうして黎明はこっちを選ばないんだ?」
「……お主が何の話をしておるのかは分からんが、非礼を詫びるなら今の内だぞ」
「おお、威勢がいいね。俺好みだ」
「テメェ、白雪に手を出すなよ」
ソラはゆっくりと起き上がる。
(くそ、思ったよりダメージが大きい。俺も体がなまっている分もあるが、蓄積分なしでここまでやるなんてアイツ、何者だ?)
「へえ、流石に一撃じゃ沈まないか。よし、いいだろう、まずは俺の名前を教えてやる。俺の名は、ヴォルフ=ヴォル・パーニッシュ。特別執行部所属で、こう言っちゃあなんだが、レイナのライバル的なやつさ」
「戦闘力レイナ並かよ、くそ、なんてこった!」
「……ソラ殿」
「あーあ、もう駄目だ、どうせ勝てねーよ、やるだけ無駄だ」
ソラはゴロンと芝生の上に倒れ込んだ。
「ほら、やるならさっさとやれよ」
「テメェ、なめてんのか? アア!」
「別に、あのレイナのライバルやってるんだ、どう足掻いても俺には勝てないよ。ほら、いっそトドメを刺してくれよ」
「お前、イライラするよ、最高にイライラするよ! ああ、わかったお前みたいな腑抜けは俺がきっちり殺しておいてやるよ!」
パーニッシュと名乗る少年はジャンプした。ジャンプと言っても人間のソレとは比べ物にならない獣人族のジャンプだ。パーニッシュは跳躍で十メートルほど跳んだ。
「砕けてチリすら残してやらねえ!」
足を寝ているソラの胸に狙いを定めてパーニッシュは落下する。いったいどういう原理なのか、パーニッシュの足先は赤く炎が出ていた。
「バカが、かかりやがったな!」
ソラは突発に起き上がると名を呼ぶ。
「白雪!」
「……承知!」
白雪はクナイを数本投げる。そしてソラは、いつかやったようにクナイを足場に宙を走る。行き先は勿論パーニッシュと名乗った少年へ、だ。
「きたねぇぞ!」
「知るか!」
ソラは己が武器、ナイフ『月下魔滅』を抜いた。
「うおおおおおおおおお!」
「だあああああああああ!」
二つの影が交差する。高度の関係で先にパーニッシュから、次にソラが地面に着地する。
「フン、面白い。この俺が傷付けられるだなんて、これなら黎明やレイナが気に掛けるのも頷ける」
そう言った直後、パーニッシュの頬に一線の血流が流れる
「…………う」
ソラの方が、ばたりと倒れた。
「そ、ソラ殿!」
「安心しろ、急所は外してある。そいつの方はな」
慌てふためく白雪を放置して、パーニッシュは校舎の裏口からどこかに行ってしまった。
「パーニッシュ、その怪我」
裏口のすぐ横にある昇降口に座って本を読んでいた女子生徒がパーニッシュに話しかける。ストレートの黒く長い髪の女子生徒だ
「あ? こんなもの怪我の部類じゃねーよ」
「違う、私が言っているのは、その足の方」
「……チッ」
パーニッシュの方は急所を外していた。しかし、ソラの方は足技を多用するパーニッシュにとっての急所、弱点の足を白雪のクナイを使ってしっかり傷つけていたのだ。
女子生徒は小さく溜息をついて、片腕をパーニッシュの足に向ける。
「レフィーヌ」
「余計なお世話だ」
「そう」
女子生徒は小さくそう言うと、立ち上がり、パーニッシュを置いて階段を上がり始めた。
「おい、ニーナ。あいつ、なかなかに見どころはあるぞ」
「……その意見、まだ肯定的になるわけにはいかない。私は私で確かめる」
ニーナと呼ばれた女子生徒はそのまま振り返らずに階段をのぼって行った。
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