「英雄の奇跡」より抜粋その3
セラム・ジオーネはこの時代を代表する軍人の一人だ。記録では生涯で六十四度の戦いを潜り抜けたという女傑である。だが彼女が今なお人々に愛され続けているのはただいくさに強いというだけではなく、のちの時代にまで影響する様々な発明品や偉業、彼女を支える周りの人間との係わりや関連する逸話、そして舞台にまでなっている彼女とヴィレム公子との悲恋譚。そういった話題性に事欠かない人生こそが彼女を後の世まで語り継がれる英雄にまで昇華させたものなのだろう。
かくいう私も彼女が織りなす物語の虜になった者の一人だ。一般的な彼女の印象は昔の貴族、舞台の主役、はたまた単純に英雄、そんなところだろうか。戦場での彼女の並外れた戦果に、その戦記に魅了された人も多いはずだ。しかし私が好きになった彼女の物語は少し違ったものだと思う。その切っ掛けとなる出来事は家の蔵の中で見つけた古びた手記だった。私の高祖父の名で書かれたその手記にはある女の子の事が度々書かれていた。時に高祖父を悩ませる上司として、時に国を守る将として、そして高祖父が惹かれた存在として。
その文から表れる像は強く、凛々しく、実に理知的。そして危うく、儚く、実に悲しい存在だった。私はその手記に何度も出てくる「セラム・ジオーネ」なる人物に俄然興味が湧いた。そうして関連するものを調べていくうちに本当のセラム・ジオーネ、等身大の彼女を世に知らしめねばならないと、使命感にも似た感情が芽生えた。
この書は私の歴史家としての処女作である。この本はまだ若く、不恰好だ。だがだからこそただ洗練され特別視されたセラム・ジオーネではなく、等身大の少女が描けるのではないかと私は自惚れるものである。
ルドヴィゴ・サリ著「英雄の奇跡」より抜粋
少女の形をしたナニカ~少女と戦乱の物語~ 長月あきの @seramu
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