第2話白紙の書物

 村長の家は、村の中心にある大きなお屋敷だ。他にも建物があるが、所有者が居ないためそれらも村長の持ち家に含まれる


 「村長いるか?」


 屋敷の中にはギーコギーコとロッキングチェアの音が鳴り響いている。


 「このワシに用があるのは、誰じゃ」


 声の主がこちらのほうにやってきた。


 「アルスか、お前さんはまた村から勝手に出たそうじゃな」

  「ああ、外にでてやりたいことがあるんだ」


 村長は知っていた上で見逃していたようだ。


 「村の外には野獣がいて非常に危険なんじゃ」

 「わざわざ村の外に出るたびに村長の許しをえるなんておかしいじゃないか」


 初めて反論をしてみた。村長は意外そうな顔をした。


 「アルスよ、お前さんは少し勘違いをしているようじゃ」

 「何をだ?」

 「しきたりの意味をじゃ。本当は、村を出て行く前の安全を確認する為じゃ」

 「それが嫌なんだよ。出て行く理由を言うことがな」


 村長にため息を吐かれた。


 「あのなアルスよ、ワシはお前さんのことが心配なんじゃ」


 「孫よりもアルスのことが心配なの、お じ い さ ま」


 クリスタは目つきを鋭くして村長の腕を右手を強く握り締めた。緊張が走る。


 「順番をつけるとしたらクリスタが一番だがのう」


 ホットして握られた手が離れていった。


 「それより、どうしてアルスのことが心配なの?」

 「それはな、昔アルスお前の父さんがよく村を出てやっかいごとを持ってくる事があったんじゃ。

お前も村をよく出て行こうとするじゃろ。

やっぱり血は争えんのう」


 少しカチンときた。あのドクターと同じ扱いを受けるなんて納得がいかない。


 「親父と俺は違う」


 「お爺さまもアルスもケンカしないの。やっぱり血は争えないのかな」


 クリスタは呆れてソファーに横になっていた。

 エンコード一族とA・レコード一族は実は先祖が同じくなのだ。


 「そうじゃな、いい年してケンカは恥ずかしいのう」

 「老いぼれがよくいうな」

 「ほう、まだ若いもんには負けられんのう。そろそろおまえさんに渡すものがある」


 村長が本棚から古めかしい本を取り出した。

 「アルスよ、せめて村を出て行こうとするのならばならせめて、この本を持っておれ」

 村長から少し古めかしい本を渡された。

 表紙には、firstlibraryと書いてあった。

 中身を見ようとして本を開いたが、中には何もかかれていない。ペラペラめくっても文字は見つけられなかった。


 「村長、何もかかれていないのだがボケたのか」


 そう言うと村長の顔に笑みが出てきた。


 「何もかかれていない、そうきたか。そいつはあくまで図書館。

 例えるのなら、建物があるだけで本なんてものは一切入れていない。

 たとえ白紙に見えても、紛れもなくおまえさんに必要な本じゃ」


 意味ありげに語られた。だが意味が分からない。


 「結局この本は何なんだ?」


 質問を再び投げつけた。


 「名前の通りこれは図書館じゃ。あることのみが記録される。正しき道への道標」


 「全く説明にもなっていないのだがボケたのか爺」


 「まあその内分かるはずじゃ。人生は経験を積まんといけない。いくら知識を持っていても決めるのは経験だ」


 結局俺の疑問が解決することは無かった


 「白紙の本だというのにそこまで言うからには、かなり凄い物なんだな」


 「そろそろワシは食料調達に戻る。クリスタよアルスの家まで送って行きなさい」

 「お爺さまわかりました。

アルス家まで送るよ」


 そうして俺達は村長の家を出た。

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