百万回生きたにゃる

藤村灯

第1話

 100億年もしなない神がいました。

 1000の顔を持ち、100万回生きたのです。

 りっぱなトリックスターでした。

 名をニャルラトテップといいました。


 あるとき、ニャルは暗黒のファラオでした。

 ニャルはエジプトがきらいでした。

 人を惑わし、けものを従え、街を滅ぼした彼はしかし、神官たちと兵士たちに滅ぼされました。

「フゥハハ! 小ざかしい人間どもめ! 我はかならず貴様らに暗黒をもたらそうぞ!」


 あるとき、ニャルはアトゥでした。

 ニャルはアフリカがきらいでした。

 信者に自らの身体を傷つけさせ、生贄の血をすすった彼はしかし、探検隊と勇敢な部族の戦士たちに封じられました。

「やってくれたな! だが今度は必ずおまえたちに絶望をくれてやろう!」


 あるとき、ニャルはナイ神父でした。

 ニャルはアメリカがきらいでした。

 不安と不信の種をまき、教団をひきい、邪神の復活をうながした彼はしかし、警官隊と探索者たちに倒されました。

「無駄だ! わたしは何度でもよみがえり、世界を混沌でみたそうぞ!」


 あるとき、ニャルは孤独な作家のねこでした。

 ニャルは作家がきらいでした。

 ねこの身ではたいした事もできないので、眠る作家の胸元に居座り、作家に悪い夢をみせました。

「そう。」作家は悪夢を書き留めました。

 どこかうれしそうな作家に、ニャルは毎晩悪い夢を見させました。

「そう。」あきることなく悪夢を書き留めた作家のもとに、恐い話を書く友人や、若い弟子たちがたくさんの手紙を送ってきました。

 作家はもう孤独ではありませんでした。

「ふん、きさまにはもっとおぞましい悪夢をみせてやろう! 冥きユゴスにうごめくものたち。混沌のかみの玉座と白痴の従者のうたげ。縞瑪瑙の城のはて、凍てつく荒野の隠されたひみつもな!」

 ニャルはこの作家に、いつまでも悪夢をみせてやろうと思いました。


 ある日、作家はニャルの下で冷たくなっていました。

 毎晩わるい夢を見せてやったはずなのに、その顔は穏やかに笑っているようでした。

 ニャルははじめて泣きました。血の色の舌をのばし、赤い月に啼きました。

 ないてないて、100万回もなきました。




 朝になるまえに、ニャルははらいせにロバート・ブロックを襲いました。

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百万回生きたにゃる 藤村灯 @fujimura

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