第4話
高木友美……旧姓増岡友美は、数年ぶりに再会した高校時代の悪友二人と居酒屋で旧交を温めていた。季節は忘年会シーズン、外に出かければどこでもクリスマスソングを耳にする時期だ。その例にもれず、年末を口実にプチ同窓会と称して高校時代の仲良し三人組で集まったのだが、相手二人は男である。
友美はまだ新婚数か月、旦那を置いて外で男と飲むのはどうなんだ、と反対されるのが普通だろうが、相手をよく知っている――高校時代、友美と同じクラスだった夫はアッサリ許可した。
(ま、高校の頃から有名だったけぇね、こいつら……)
鶏軟骨をつまみにカシスオレンジをすすりながら、ぬるい目で友美は向かいの席を見遣る。そこには、大柄で逞しい闊達そうな青年と、線が細くて優しげな、垢抜けた雰囲気の青年が仲睦まじげに座っていた。大きい方は相変わらずだが、細い方は高校時代よりも随分綺麗になった。東京で芸術系に進むとああなるのか、と妙に友美は感心する。
「ますお……あ。高木? は、クリスマスとか何か旦那さんとやるん?」
話を振ってきたのは細い方――牧村裕紀である。うん、まあ。と曖昧に頷けば、俺は仕事じゃ、と嘆かわしげに大きい方、三倉拓馬がぼやく。話の八割くらい相手二人ののろけなのだが、まあそれを確認しに連絡を取ったのだから今回は許そう。
カシスオレンジをさっさと飲み干して次を注文しながら、今にもナチュラルに「はい、あーん」とかやりそうな正面の二人を見遣る。
この二人は有名だった。当人自覚まるでナシだったようだが、昔から半端なく人目を憚らずイチャついていた。男女でやれば大問題なレベルのスキンシップも、同性同士であれば見逃される場合がある。普通、男二人女一人でつるんでいれば、どちらか片方と浮ついた話のひとつもありそうなものだが、その余地は全く綺麗サッパリなかった。
今回、ことの次第を聞き出したところ、どうやら先に自覚したのは裕紀だったらしい。友美は正直、そのことに驚いている。この二人を傍から見ていた知り合い連中に、どっちがどっちをそういう目で見ていると思ったか、と問えば、多分十人が十人「拓馬だ」と答えただろう。それくらい、拓馬の裕紀へのベッタリ具合は凄かった。というか、アレで「自分は拓馬の射程外だ」と思い込んでいた裕紀の鈍さも大概な物である。
(まあ、とりあえず落ち着くとこに落ち着いたんじゃけぇええにするかー)
今回は拓馬の奢りである。裕紀と連絡がつかなくなってパニックを起こした拓馬に散々付き合わされた友美への、慰労の会でもあるのだ。
と、注文したモスコミュールのグラスがテーブルに運ばれて来た。
「はい、んじゃあ、ン年越しのカップル成立にかんぱーい」
本日何度目かの台詞と共にグラスを持ち上げ軽く揺らせば、ちらりと視線を合わせた二人が少し恥ずかしそうに空に近いグラスを持ちあげる。
「友美、ソレはァええにせんか……?」
もう勘弁してくれ、と拓馬が音を上げた。なんだこのやろう、アレだけ人目を憚らず騒いでおいて、今更羞恥心か。そんな言葉をカクテルと共に飲み込んで、友美はハイハイ、と適当に答える。
ちらりと視線を遣れば、裕紀はテーブルの上に視線を落とし、幸せそうにはにかんでいた。
(ん、まあ、もう一回くらいで許しちゃるか……)
そう心の中で決めつつ、友美は心から笑ってもう一度言った。
「おめでとう、お二人さん」
光る海岸にて。 歌峰由子 @althlod
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