第8話 ん ん

8.

 さらに620年が経ちました。

 ふたりは湖畔にたたずんでました。

「ゆうさん。お別れですね」

 つるのゆうさんはもう飛べない身体でした。

「そうだね、あいさん。愛してるよ。ずっと」

「そうですね、分かっていたことですけれど」

「ごめんね」

 ゆうさんはなきました。

 もう高らかな鳴き声は出ませんでした。

 自分の死期を悟っていました。

 ゆうさんはもう一度生まれ変わるのです。

 


 ボクも10000年生きられたら。きみを幸せにできた。ボクはきみを看取ってから、思い出を抱えて、あと追うように死にたかったのに。



 そうですね。愛されながら、死ぬことができるのは、きっと何よりも幸せですよ。



 つるは飛び立とうとしました。しかしもう飛べる気力はありません。死に場所を求める時間すら惜しんで、彼女と一緒にいたわけなので、彼はここで、物語を終わらせるしかないのでした。



 あぁ、今が幸せだよ!これが幸せでなくて何になる!!ぼくはあなたを愛して死ねる!


 ボクは長く生きた。花も咲いた。もうこれ以上求めるものなんかあるもんか!きみのことが好きだ!!


 だからはあなたはボクの後を追わないで、ちゃんとここに生きてほしいんだ。

 きみはまた誰か別の人と恋するはずだ、


 それが許せない僕がいることも、でも。ほんとに願っているぼくもいることを、最後に知ってほしい。



 つるは何も語りませんでした。

 ただ黙って、そのを待っていました。


 かめも何も語りませんでした。


「綺麗で終われないわね」

 ぼそっと誰かがつぶやきました。

「ごめんね、次は綺麗に終わるから」

 それに応えるように、誰かが言いました。



 ふたりは寄り添ったままで。

 そして——


     つるとかめの恋(了)

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水乃真白とすこし不思議な物語 水乃 素直 @shinkulock

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