3人で〇〇

 校長室を出ると、宿梨すくなし枯恋かれんを口説いていた。


「めっちゃ可愛いって、まぢで。オレ、嘘がつけないタイプなんだよな」


「うふふっ、お世辞、あーりがと!」


「お世辞ぢゃねぇって。な、だから今度遊びに行こうぜ?」


 巧厳こうげんが呆れ返っていると、枯恋はくるっとその場で一回転して、くちびるに人差し指をあてて答える。


「でも、ダ~メ! あたし、ちゃんと彼氏いるんだから!」


「え? は? はぁぁ?」


 宿梨が間の抜けた声を出した。


「バスケ部のキャプテンでね~。三か月になったばっかりなんだよぉ! 人生で初めてのキスもしたんだぁ。浮気なんて絶対にしないんだから。ね、だから、宿梨くんも諦めて!」


「え、だ、だって、聖母マリアになるっつうから、枯恋ちゃんと八か月以上付き合ってる男はいないんぢゃなかったのかよ?」


 すると、枯恋は不思議そうな顔をする。


「あれ? なんで、宿梨くんが八か月以上の話も知ってるの? ――あのね、パパは一年以上にしろって言ったんだけど、あたしがそれは長いって言って、八か月以上ってことに決まったんだ。だから、彼氏には色々お預けにしちゃってるんだけど、彼氏はあたしと一緒にいられれば、それでいいんだって! このまま順調に行ったら、八か月突破するかもねぇ~」


 枯恋はそう言って、頬を赤らめた。


 宿梨は枯恋のノロケを聞いて、魂が抜けたように放心している。


 元々、結婚までは貞節を守るべしという考えの巧厳は「あと五か月か……」と苦い思いでつぶやいた。すると、そんな巧厳の肩を、冥界から舞い戻った宿梨がガシっとつかむ。


「おい、巧厳。カラオケ行くぞ、カラオケ!」


「はぁ? なんだって、ボクがキミとカラオケなんて行かなきゃなんないんだ?」


「テメェも失恋したんだろう。こういうときはパーッと歌って発散するに限る」


「し、失恋だなんて、失敬な。あのねぇ、前にも言ったけど、恋なんてしてないからな。顔を忘れられちゃってたのは、そりゃ、ちょっとは淋しかったけどさ」


「ごちゃごちゃうっせぇ。いいから、行くぞ!」


 そう言うと、宿梨は巧厳の肩を抱いたままずんずんと歩きはじめた。


「ごちゃごちゃって、あのねぇ! ボクはただ誤解を解こうと……」


「はぁん? さてはテメェ、音痴だから行きたくねぇのか」


「何を! ボクは自慢じゃないけど、音楽の成績はいい方なんだ。それに、音楽とは神の真理を解き明かすための言葉として、中世では神学と並んで研究されていたんだぞ。キミのような野蛮人には音楽のなんたるかなんて分かるはずがない。どうせ、がなり立てるだけの粗雑な歌い方でもするんだろう」


「あ・あ・あ! めんどくせぇやつだな、テメェ! 音楽は何より心の奥から湧き上がってくる衝動が大事なんだよ! ごちゃごちゃ考えながら歌えるか!」


「だから、キミは野蛮人だって言うんだ!」


「おお? んぢゃ、採点勝負するか? アァ?!」


「ハン! 望むところだ!」


 巧厳が宿梨の手を振り払う。


 そこへ、後ろから枯恋が抱きついてきた。


「ねぇねぇ! カラオケ行くならあたしも一緒に連れてってよ! これから一緒にミライトのトレーニングをやっていく仲なんだしさ!」


 枯恋に失恋した宿梨の企画に、枯恋が同行するというのもおかしな話だが――、


 宿梨は「よっしゃ!」と笑って枯恋と肩を組んだ。


「んぢゃ、ま、三人で、歌いあかすとすっか!」


「まったく、ボクは面倒が嫌いなのに……」


「なんだ? 何か言ったか、巧厳!」


「うるさいな、もう少し声を小さくしてくれないか、"やどなし"」


「テメェ、その呼び方やめろっつってんだろ!」


 再び口論を始めた二人を見て、枯恋が楽しそうに微笑む。


「ふふふっ、二人とも、仲良いねぇ」


「「それはない!」」


 巧厳と宿梨、二人の声が調和した。


 三人はぎゃあぎゃあと騒がしくしながら、連れだって廊下を歩いてゆく。


〈了〉

――――――――――――――――――――

◇お疲れさまでした!


3Pーっす!!はこれにて完結です。


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3Pーっす!! 斉藤希有介 @tamago_kkym

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