15 本来の目的

 多摩川を隔てた遠く小高い城址公園の展望台からその光景を座主坊五六七は観察している。

「さて、どちらがどちらを取り込むのやら?」

 と思いを馳せる。

「それとも一緒になってしまうのか? これまで地球に存在しなかった、まったく新しい生命体に変わるか?」

 展望台には数人の人間がいる。

 東京都や神奈川県の多くの住人たちは逃げるのに必死だ。

 事態の展開が早過ぎたので自衛隊も米軍もやっと攻撃を開始したところ。

 だが今のところ効果はない。

 小型ミサイルも銃弾も火炎砲もジェルの餌食となるばかりだ。

 またそれらはジェルの食事としては不味いらしく、その多くが正確に元来た方角に投げ返される。

「いずれ核兵器が使用されると思えますが、あれに効くでしょうか?」

 その日知り合った昔はさぞ美人だったと思われる老婆の手を引いた若い娘が遠い目をした座主坊に問いかける。

「さて、今のままならば効くかもしれん。だが空気が変わった後では無理だろうな」

 座主坊が答え、ついで考える。

 あれに人格があるなら、それが成立しなくなるまで破壊すれば、活動停止状態まで追い込めるかもしれない。

 だが人格を超越あるいは来るべきときまで封印することができれば部分に分けても破壊とはならぬ。

 すると――

「わたくしには見えますよ。美しい光景が……」

 と質問をした若い娘の連れの端麗な老婆が誰にともなく呟く。

「まず素敵な紅で二十三区を/東京を/次いで日本全土を覆い尽くします。宇宙から見れば、まるでルビー/スピネル/ガーネット/スファレライト/レッドベリル/アンデシンを混ぜたみたいに輝いています。大きくそして漣のように揺れながら。それ以上は食指を延ばさず、大陸間弾道弾の攻撃を跳ね返し、やがてその場から旅立ちます。本来それが行うはずの夢と食べ物を求めて……」

 そのとき目を瞑っていても太陽を直視するほど強烈な閃光がジェルから発し、一瞬にして当たり一面を焼き尽くす。

 ジェル以外の何も、その近傍には残らない。(了)

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ジェル り(PN) @ritsune_hayasuki

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