第54話 4人の勇者
「旨かった」
「です」
「そりゃよかった」
俺はお腹をさすり、椅子に深く座りながらそう言った。
久しぶりに見知った食事にありつけたのが嬉しかったのか、おかわりまでしてかなり食べてしまった。
というか食べるのに集中しすぎて聞くのを忘れていた。
「すいません。今更何ですが、今食べた料理に使われていた食材ってお米ですか?」
「あんちゃんやっぱり物知りだな! コメで合ってるぞ」
この世界に来てからそれらしきものを一切見なかったから、この世界には無いのかと思っていたが、あった。
形状に多少の差異はあれど、あった。
これはこの世界で生きていこうと考えている身としては朗報だ。
「お兄さんよく知ってたですね」
「あぁ、同じようなのをよく食べてたからな」
「ほぉ、そいつは凄いな。こいつはちと特殊なルートでしか手に入らないんだがな?」
「特殊なルートですか。それって僕でも手に入れる事って可能なんでしょうか?」
「今は無理だな。何せ俺はあんちゃんの事をよく知らんからな。俺の紹介で相手方に迷惑をかけちゃ、俺の信用問題にかかわる」
「それじゃぁ教えてもいいと感じたら教えてくださる、ということですか?」
「おう!」
ローランドさんの言った事は理解できるし、納得もできる。
恐らく可能性はゼロではないんだろうが、それには時間と労力を要するはずだ。
一日二日でどうにかなるような簡単な話じゃない。
となると……
「どうしたですか、お兄さん?」
俺がそんな事を考えていると、アーシャが横から得意げにそう言った。
なんか腹立つ。
アーシャの思惑通りに動かされてるような気がして、腹立つ。
「別に何も」
「お兄さん、嘘はよくないですよ。アーシャに話してみるです。多分力になれると思うですよ」
「…………まだ考えてる段階だから、決めたらな」
「そうですか。でもやっぱり一考させる事はできたですね。半信半疑だったですが」
やはりか。
恐らくは静香辺りとの会話の中で見当をつけたんだろうが、普通そんな見当つけられるか? 静香の食いつき具合にもよるだろうが、たかが食材一つに対しての行動を予測するなんて、俺には無理だぞ。
ホント……
「怖いぐらい先が見れるな」
「なんか言ったですか?」
「何も。オヤジさん美味しかったです。また来ます」
俺はそう言って席を立ち、店を出るため歩き出す。
「おう、また来い」
「あちょ、待です!」
俺はアーシャの制止を無視して店を出る。
アーシャは不満そうな顔で、店を出た俺の隣に駆け寄ってきた。
俺の勝手な仕返しだが、これぐらいは許してほしい。
「もう、どこ行くですか」
「どこって、帰るに決まってるだろ。それとも他に行くところでもあるのか?」
「特には無いです」
「なら帰る」
「時間的にも丁度いいからいいですけど、お兄さんってホント面倒くさがりですよね」
「面倒くさがり? 違う違う。効率的なだけだ」
「アーシャには面倒くさがって、過度に人と関わるのを避けているようにしか見えないです」
帰路につきながら、アーシャに言われた言葉が少し引っかかった。
別に俺はそんなつもりはなかったが、もしかしたら無意識にそう行動していたかもしれない。
ーーー
宿につき、用意された椅子に腰かけながら現状を説明するよう、隣に座っているアーシャに視線をやる。
アーシャは俺の視線を無視して、あらぬ方に目をやりながら知らんぷりを決め込んでいる。
「図々しい願いだという事はわかっている。だが頼む朝野、俺達を鍛えてくれ」
机を挟んだ対面に座っている4人の男の内の一人がそう言った。
こいつら4人は勇者だ。
俺が宿に戻り部屋に入ると、既にこの4人は部屋で待っていた。
恐らく手引きしたのは、部屋に入ってから一度も目を合わせようとしないアーシャだろう。
店で勇者達に関する質問をされたとき大体予想はしていたが、まさかその日の内だとは思っていなかった。
それにセバスは俺が部屋に入ったと同時に「申し訳ありません、主」と言ったあたり、知っていたのだろう。
俺がMPを回復してる間に根回しまで終わらせていたとは、本当に厄介だ。
「引き受けるかどうかは別にして、まず聞こう。どうしてそういう結論に至った?」
「俺達は自分達の身を守れる強さが欲しい。だから俺達と同じ勇者であり、一緒に召喚された朝野に頼むことにした」
能力的にはほぼ同じはずだった俺が強くなった方法、それを真似れば同等の強さになれると考えるのはごく自然の事か。
だが俺は他者とは圧倒的に違うスキルを持っていた。だからここまでの力をこの短期間で手に入れる事が出来たんだ。
決して俺自身が強い訳ではなく、俺の持っているスキルが強かっただけだ。
「それが図々しいと理解していながら?」
「あぁ、俺達はどうしても強くならなくちゃならないんだ。この世界で死ぬわけには行かないからな」
「……化けて出られたら嫌だからな、手を貸すぐらいはしてやる」
「本当か!!」
俺はその言葉に無言で頷く。
それを見た勇者4人は嬉しそうにガッツポーズや力強く握手したりしている。
正直昨日の俺なら断っていたかもしれない。
さっきアーシャに言われた言葉、俺はそれに反するように変わろうとしているのだろうか?
壊れてはいるが、まだまだ人間という事だろうな。
「引き受けてくれてよかったです」
「こういうことは普通事前に言っとくものじゃないか?」
「普通に言ってたらお兄さん、絶対に断ってたですもん」
「だからって周りから固めていくなよな」
「事情を説明したら皆さん協力してくれたです。お兄さんが人に戦い方を教える事ってないらしいですからね」
「そういえばそうだな」
食いついた餌はそれだったか。
確かに言われてみれば、俺が他人に戦い方を教える事なんてなかったな。
というか俺に戦い方なんて大層なものないけどな。
今更だがこの勇者達の名前何だっけ?
<右から、
ホント便利だよな、[メーティス]。
「でだ。手を貸すとは言ったが、具体的にパワーレベリングになると思うがそれでいいのか?」
「パワーレベリング? それはどういう意味なんだ?」
「簡単に言うと、レベルは早く上がるが技術がレベルに合わなくなるって感じだ」
「それは困る。できれば技術も高めたい」
無茶言うな!
俺だって自身の力に技術がついて来てないんだぞ!
「小野だったか?」
「覚えていてくれたのか!」
「あぁ。それでだ、お前何かを得るためには何かを失わなければならないみたいなこと聞いたことないか?」
「もちろんある」
「今回お前らは短期間で力を得る代わりに、本来お前らがその領域に到達する為に必要だった経験を失うんだ。ある程度技術が劣るのは理解し、納得しろ。それが無理なら俺ではなく、アーシャの父親に頼め」
俺の言葉に勇者達4人は少し考える素振りを見せ、小声で相談を始めた。
実際短期間で両方というのは欲張りすぎだ。
特に技術的なものは、一朝一夕でどうにかなるような簡単なものじゃない。
それは身をもって知ってるからな。
「無理を言ってすまない。俺達には今、何よりも力が必要なんだ。それで頼む」
「お前たちもこの世界に来て気づいてるだろうが、この世界はステータスがほぼ全てだ。技術的なものはその差を多少覆すことが出来る程度のものしか俺は知らない。逆に言えば、ステータスで大幅な差があれば負ける事はないという事だ」
「お兄さんそれって慰めてるですか?」
「違う、ただ事実を言っただけだ。それよりもそれでいいなら明々後日また来い。こっちにも準備が必要だ」
「わかった。急に来てすまなかった。それと引き受けてくれてありがとう」
勇者達4人はそう言って頭を下げてから部屋を出て行った。
何故かアーシャは部屋に残り、嬉しそうに俺の顔を見つめている。
「どうした?」
「何も、ただ明々後日までこの町に居るんだなって」
「さぁどうだろうな」
俺はとぼけるようにそう言った。
スキルの種 ~俺のチートは神をも軽く凌駕する~ 黄昏時 @asa
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