10.CLOSE ENCOUNTER

 6人の前に1人の「人間の女性」が現れた。座ってこちらに向いている。


 アンジーが紹介した。「装置作動の責任者スーガです。ホログラムですが、我々には実体として認識して差し支えないようです。」


 一同唖然とはこのことだ。今、自分達の目の前に現れたのは、このスミーア上、メッセンジャー号にいる誰でもない。いや、地球からの映像でもない。じゃぁ、いったい誰なのだろう。みんなの戸惑いを察知したのか、その女性が口を開いた。


「驚かして申し訳ございません。スーガです。お聞きになりたい事がいっぱいあるかとは思いますが、最初にお伝えしておきます。状況はアンジーに頼んで、メッセンジャー号のモニターにも映し出してもらってます。カーン博士以下船内の皆さんも御覧になっています。どうぞご安心ください。」


 たしか、アンジーはスィニーには人とのコミュニケーション機能は無いと言っていた。と言うことは、今、目の前にいるスーガという女性の同時通訳は別のコンピュータが行っていることになる。完璧な英語に翻訳されている。翻訳された音声の向うに、微かにスーガの肉声が聞こえている。ジョディには、スペイン語と日本語が混ざったように聞こえていた。肉声を聞く限り、我々と同じ呼吸法の様だ。


 ジェフが代表して口を開いた。「スーガ、はじめまして私の名前はジェフです。」スーガは知っていると言った。チーフは若干興奮した感じで聞いた。「あなたは地球外知的生命ですか?」みな内心、勇気ある発言だと思った。

 スーガは答えた。「知的かどうかはわかりませんが、あなた達とは別の惑星で進化した者です。」


 全員、息が止まった。人類史上初めてのことが今起きている。ジョディは追い求めていたことが今、目の前で起きているのが信じられないでいる。時間が欲しい。正直、考える、いや、落ち着いて状況をしっかり把握する時間が欲しかった。


 ジェフが再び勇気ある発言をした。「スーガ、あなたはどこに居るのですか?実際に会うことは出来るのですか?」

 スーガは答えた。「私は現在、サンミャーに居ます。あなた達の名称で言うと、太陽から45.7光年の距離にある、さそり座18番星の第二惑星にいます。姿をお見せして、触れ合うこともできるのですが、それにはあなた達の脳神経に手を加えることになりますので、ホログラムで失礼しております。」


 スーガもホログラムと言ってはいるが、これら先進文明下におけるホログラムは地球人が知っているホログラムでは無い。

 アンジーが言うように、最早、実体と見てなんら差し支えるモノでは無い。


 地球外知的生命、およそ想像とは違った。この状況を知らなければ異星人には見えない。全く地球人と同じ。人種で言うと、感じが中東の女性に似ている。地球だと極めて美人の部類に入る。


 しかし、そこであえてジョディは確認の意味も込めて訪ねた。

「失礼ですが、スーガ、あなたの姿は我々に似ていますが、それは地球人に合わせているのですか?それとも本当の姿なのですか?」


 スーガはありのままの姿だと言った。一同、安堵と同時に少しばかりの落胆を感じた。

 タケルが思わず言った。「地球人と変わらないですね。」スーガは少し頬笑みを浮かべ答えた。「外見はそうですが、内臓や骨格で違いが顕著です。可視光の幅域も違います。」 

 ジョディは、時差無しで話せている45.7光年の距離をどう理解すればよいのか、スミーアから1万キロ付近で起きるLT問題と時差なし通信はスミーアの装置が関係するのかを尋ねた。


 スーガはいとも簡単に答えた。「あなた達の研究対象の重力波を使っています。時差はありません。ただし、あなた達は、それを利用しようと研究されていますが、我々は、重力波を発生させ任意にそれ自体のベクトルを操ることが出来ます。ジョディの質問の、前者はこの位置での特異現象。後者はその特異現象を利用しています。詳しいことは現在アンジーが勉強中ですので、あとで彼女にお聞きください。」


 ジョディがまた質問した。「このスミーアが重力波の発生装置ということね?」スーガは思いもよらないことを言った。「いいえ、スミーア自体は、今は、普通の観測装置件スイッチです。重力波の発生はここでは行っていません。冥王星とカロンの連星公転をジェネレーターに使って生み出しています。」


 先進文明を前に、なすすべを無くした地球人がそこには居た。


 そこで、スーガは改まった感じで話し出した。「我々はナイル人ではありません。」みながそう聞いた瞬間、アンジーが言った。「訂正します。ニュルスはナイルの複数形でナイル人と発音します。」

 一同納得の表情を見せつつも、じゃぁ、今、目の前にいるスーガが誰なのかを知りたかった。スーガの話は続いた。「我々は、惑星サンミャーで進化しました。そして、さそり座18番星とあなた達の太陽は、46億年前に同じガスから生まれた兄弟です。太陽の方がお兄さんですが、地球が出来るよりも1千万年はやく惑星サンミャーは出来ました。星団の中ではほとんど同時期と言ってよいでしょう。」皆は絶句した。

 それでも1千万年の文明の開き。みなが思ったことを見抜いたかのように、スーガは続けた。「惑星が出来たのは早かったのですが、我々の進化速度はこの銀河系では平均的で、地球人の進化速度の方が早かったのです。それでも我々の方が電気を使うようになったのはあなた方より100万年ほど早く使い始めました。」皆、異口同音に「100万年!!」とつぶやいた。

 と、その時、ジョディが口を開いた。「進化速度が地球人の方が早かったというのはどういうことでしょうか?何か外的要因があったのでしょうか?」またもや彼女特有の直観での問いかけだった。

 スーガは少し言い淀む表情を浮かべたが、直ぐに笑みを浮かべ「私達は、地球人、いや、この太陽系の代表生命であるあなた達にお話ししておかなければならないことがあります。」


 スーガの話では、地球とサンミャーの恒星が兄弟として生まれた時、時は数億年単位でずれるが、900個ほどの星が誕生していたらしい。18番星系と太陽系が形成されたのはほとんど同時期で、一卵性双生児と言ってもいいぐらいだ。

 その900個のうち我々のような生命をはぐくむことが出来た恒星系は7個あり、現在、恒星間での交流が可能な技術を持っているのはサンミャー1個。惑星全域が数百の国家セクトに別れ暴力的コミュニケーションのプロセスにあるのが1個。その1個が地球だと言う。

 それを聞いた時、ジェフもジョディも地球の現状を説明し、今は小さな紛争が残っているだけだと抗議した。

 それに対し、スーガは簡単に答えた。「紛争が残っているということは、まだ地球人に「暴力」という概念があると言うだけのことです。」

 たしかに、暴力反対を唱えることは、暴力という概念があることではある。

 しかし、スーガ曰く、地球はまもなく次のプロセスに入るそうだ。

 残りの5個の内3個は地球でいうところの古生代から中生代。そして、2個はカンブリア紀で進化の迷路に入ってしまっている。ただし、この迷路の出口は分かっているので、サンミャー人がいずれ進化の道筋を作るそうだ。

 残念ながら地球人が太陽の兄弟星と目星をつけているHD175740, HD28676, HD83423はいずれも生命をはぐくむことはできていない。しかし同じ分子雲から誕生したことは間違いなかった。地球人の面目躍如である。そして、スーガはジョディの質問の答えにつながる話しを始めた。


「先ほどのジョディの質問に地球人の進化の速度が外的要因で早められたのかとありました。」ジョディはじっとホログラムのスーガの目を見た。果たして、スーガにも私の目線が伝わっているのかしらと思いながら、話の続きを待った。


 スーガの話はここに居るメンバーだけではなく船内に残っている者、そして後に知ることになるであろう人類全体にとって驚嘆すべき内容であった。

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2161長征 浅師 久楽 @Yamaguchi-G

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