第24話 神のゲームとそのルール
「やあ、マイゴッドだよ。初勝利おめでとう」
「ありがとうございますマイゴッド。これからも務めを果たしていきたいと思います」
「いやぁ、お礼を言うのはこっちのほうだよ。なんとかこの世界を延命させることが出来た」
今回は神と名の付く者である、神崎、神無月、神田も一緒に夢の世界にいる。
「…………」
「ほう、これが神か」
「私も神なんだけど」
三者三様、それぞれの反応。
神崎はマイゴッドに対しては沈黙を決め込む気らしい。
さてマイゴッドは同じ神である神田に何を思うか気になる。
「祟り神は神って言っても、妖怪みたいなものだしなぁ。僕はほら、創造神だから」
「ぐぬぬ」
「さて、それじゃあこの戦争のルールを確認しよう」
「そうだ。いきなりあの男が殺気を放っているから何事かと思ったぞ」
ちなみに、俺はいわゆるルールについては前もって聞かされていた。
あの悪夢が終わって次の日の夢で、マイゴッドからざっくりとした説明をされていた。
「いやぁ、まさか出会いがしらにおっぱじめられるなんて思ってもみなかったからね。普通準備期間とか設けるでしょ……」
つまり、そういった細々としたところは定まっていないのだ。
「それじゃあ神の名を持つ皆様に、ルールを説明いたしますよっと」
ルールその1
対戦方式、参加人数は自由。ただし、どちらかの代表者が全滅した場合は、強制的に決着とする。
「これは私達にとっての異界の使者だね。こちらの世界では神の名を持つ者ということで認識してくれたまえ」
「つまり、下手したら国ごと攻めて来るってこともあるんですか」
「うん。今回は本当に運が良い巡り合わせだったよ」
「出会いがしらに鉛玉を喰らいかけたがな」
ルールその2
勝利した世界の神は、敗北した神が持つ世界の支配権を譲り受けることが出来る。
「僕は別に興味ないけど、新しい世界なら新しい武器とかも手に入ると思うから、一応は自由に行き来できるようにしてあげるよ」
「今回の世界からは収穫は得られそうにないですけどね」
ここでは魔法があまり主流ではないらしいし、出来れば魔法の発達した世界とかだったら良かったのだが。
今回の相手は銃でモノを言うだけの輩だった。あれなら俺でも出来る。
さすがに出会い頭にさらっと撃ち殺すほどぶっ飛んだことは出来ないが。
「そうだねぇ。今回の相手は彩人、君の前世とそこまで変わらない。違いがあるとすれば、そこに導き手となる神がいたことくらいだ」
「そういえば、やつらはどこから来たんだ? どうやってこの世界に来た?」
ルールその3
異世界間の行き来は
「向こうの世界は神様とかそういうのがメジャーじゃなかったんだろうね。だから神に選ばれた使者以外は手駒としては力不足。よって、使者同士を直接戦わせるために、君達が戻ってくる国で待機させたんだ」
「短期決戦というわけですか」
「本当にすぐ終わっちゃったね。結果はこっちの勝利だったけど」
ばったりと出くわしたのは偶然ではなく、向こうの世界の神の策略だったというわけだ。
「まあ、世界によってはこっちみたいに全世界で協力しているところもあるだろう」
「となると、世界一個分の軍勢で総力戦仕掛けてくるとかいう展開もありえるってわけですか」
「そうだね。そういう世界もありえるだろう」
そうなると、かなり不安になってくる。
今回はいわゆる雑魚だったから、ほぼ完勝という形で終えたが。
「不安そうだね彩人くん」
「ええ、まあ。だって下手したらとんでもない規模の、それも人型ロボットの群れとか、最新鋭の戦闘機とか、底なしの魔力を持つ魔神とか、一騎当千の勇者とか、それこそチートみたいな輩がいるのでしょう?」
「まあ、そうだね。そういう人間はいる。必ずいるし、必ず出会うだろう。トーナメントだし」
トーナメント制だなんて初めて聞いたが、そこはとりあえず置いておこう。どちらにせよ問題は解決しない。
「大丈夫だよ。それのためのルールがちゃんとあるから」
「と言いますと?」
ルールその4
因果は確定させてはならない。
「一見、絶望的な戦力差であれ、がんばり次第で因果をこっちのものに出来るってことさ。別に無理に正面切ってのバトルを繰り広げる必要はないんだよ」
「なるほど……」
「それに、僕はその辺りも考慮して使者を選出したんだよ」
「その辺りというと……」
俺は神と名の付く彼らを見る。
「まず神崎。彼女一人ではか弱い少女だが、彼女の持つ魔本は使い方次第では一冊で一つの世界を滅ぼすことだって可能だろう。多くの魔物を従え、祟り神さえ使役できるのだから、自分の身だって守れるようになる」
なるほど、確かに今回の戦いでは神崎が召喚したゴブリンが相手の一人をやった。
しかも祟り神である神田も使役できることから、その伸びしろは凄まじい。
「次に神無月。僕らの世界は魔法は未発達だけど、妖怪は妖術を使う。その点、魔法よりマイナーで一癖あるから、むしろ有利だ」
ここまでくると考え方をポジティブにしないといけなさそうだ。
とはいえ、なるほど納得。妖術というのがまだよく分からないが、魔法であるなら、相手も対応できないかもしれない、ということだ。
「そして神田。彼女は祟り神だ。これはどういうことか、分かるかな?」
「分かりません」
「即答……」
これ以上回りくどく言う必要も無いだろうに、マイゴッドにはさっさと説明してもらおう。
「つまりね、死なないんだよ。神様だからね。基本的に死なない」
「えっ、そうなの?」
と、俺は巫女姿の神田を見る。
「そうですね。基本的には死にませんね。死ねないといったほうがいいですかね」
「……例えば、死ぬどころか途轍もないエネルギーで跡形も残らず消し炭にされたら?」
「あー、それはちょっと分からないです」
「伝承を知っている人間とか、記録が残ってればそこからこう、ひょっこりと復活できるよ。ちなみに妖怪も似たようなことは出来る」
「マジすか」
「マジか」
「そういう仕組みだったんですか」
祟り神ご本人ですら知らないことを、マイゴッドはさらりと告げた。
ん? 復活する?
「気付いたようだね。この戦争の勝利条件は使者の全滅。つまり、よほどのことが無い限りは?」
「敗北は無い?」
「そう。オマケに潜入でもなんでも出来る。力不足はそこらへんで補ってほしい」
死んでも大丈夫というのはかなり良い。
多少の無理や無茶にも手が付けられるし、色々と用途が広い。
「特に彩人くん、君はそういうところを気にしそうだからね」
「えっ? 俺ですか」
「じゃあ例えばマナが神の名を持つ者だったら、彼女が死んだとしても後腐れなく諦められるかい?」
ああ、なるほどそういうことか。
それは無理だ。絶対に無理だ。
「そういうことさ。二次元大好きな君にとっての、僕からの配慮だよ」
「ありがとう御座いますマイゴッド」
俺は膝を着いて頭を垂れる。
マイゴッドは俺に対して完璧な人選をしてくれた。
即ち、死ににくい奴ら。
仮に神の名を持つ者がマナ、アルトリカ、レーナ、羽々斗だったら、俺は戦える気がしなかっただろう。
彼らは強いが、普通の人間だ。
何かしら特別な異能を持っているわけではなく、ただ普通に他より強いというだけの存在だ。
それこそ出会い頭に銃弾浴びせられでもしたら、そこでアウト。ゲームオーバー。
俺は二次元の友を死なせてしまった罪悪感に囚われ、以降戦うことも出来ずにやがて敗北する。
「まあでもさっき言ったとおり、戦えるのは使者だけに限らない。自分の戦力を育て上げたり、向こうの戦力となる人間を引き入れることだって出来る。そこは君の創意工夫次第だね」
創意工夫なんて中学の頃の夏休みの宿題でしか聞いたことが無い。
久々に聞いたな。
「さて、これで説明は一通り終わったけど、他に何か質問はあるかな?」
「……一つだけ」
今まで沈黙を貫いていた神崎。
やっと口を開いてくれたことに、マイゴッドは少し興奮したようだ。
「はい神崎ちゃん!」
「悪魔と会いたい。どうすればいいか教えて」
しかし神崎は手短に済ませようとしているようだ。
必要最小限の言葉しか発さない。
「あ、そうだったね。神崎ちゃんは悪魔崇拝をしていたね」
そういえば神が嫌いになって悪魔崇拝者になったのだった。
俺はマイゴッドの素晴らしい御業の恩恵を受けたが、マイゴッドは直接世界には干渉しない主義だ。
「悪魔だったら、その魔本の妖精を介して呼びかけすれば、答えてくれるよ」
「……」
「便利ですね」
「でもたくさんの種類の魔物を収集して魔本そのものの魔力を上げないと、大物悪魔には見向きもされないと思うよ」
「祟り神でも?」
さすがに大物悪魔と言えど祟り神と言う存在を従えていれば、興味の一つくらい持ちそうなものだが。
「うーん、これはなんと言えばいいのか。祟り神は魔力にカウントされないんだよねこれが」
「魔力にカウントされない?」
「さっきも言ったように、魔本の魔力を上げないと悪魔は食いつかない。祟り神は悪魔的ではあるけれど、どちらかといえば神霊の類だから。つまり魔力は0なんだよ」
そんなところにまで気を配る必要があったのか。
となると、神崎が悪魔を呼び出すためにはもっと魔物に限定して仲間を増やさないといけない。
「ちなみに妖怪もノーカンだよ。妖力は上がるけどね。魔本の魔力とシステムによって祟り神や妖怪も支配下におけるけど、魔力にはカウントされないから注意ね」
「……分かった。ありがと」
質問も終わり。
あとは自分達で考えて、次の戦いに備えねばならない。
「というわけで、救世主・彩人。僕の世界をどうかよろしく頼むよ」
「ええ、マイゴッド。この二次元世界、最後まで守りきってみせましょう」
相手がいかに強かろうと、そんなことはどうでもいい。
俺から二次元を奪おうとする奴は、なんであれ皆殺しだ。
暇を持て余した神々の異世界戦争 妄想存在さん @henkame
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