sid.愛李


今日は朝からたくさんの出来事があった。すべての発端は裕奈が記憶喪失になったこと。学校に行ったり、事務所に行ったり、あんまり見てやれなかった裕奈の姿を少しだけ見れた気がした。で、今日は1段落したから、なな子は中学校へ登校、私は職場に出勤することにした。ちょうど今1時くらい。きっと中学校は昼食の時間だろうか。間に合ってれば良いけどな。で、一方私はと言うと、すかっり忘れていたのだが、今日はちびあいりんの〆切日だった。もう昼休みは終わった頃だ。会社には少し遅れると伝えたけど全然少しとか言うレベルじゃない! 私は急いで階段を上り、プロダクションのドアを勢いよく開けた。

「はあ、遅れてすいませんっ」

「江籠君、全然少しじゃないじゃないか。どうした体調でも崩したか?」

中西編集長が心配そうな顔をして私に言う。うーん私はどうにもないんだけどな。

「いや、私じゃなくて妹が入院してしまって」

「入院! ? どっちの?」

「あ、子役の方です。裕奈」

「うそー! 裕奈ちゃん入院したの! ?」

ちゅりこと高柳明音が会話に入ってくる。ちゅりは昔からの幼馴染で私の家系を良く知っている1人だ。

「ちょっといろいろあってね」

「ふーん、大変だねー」

私は自分のデスクに向かい、いすに座った。ふう、やっと落ち着いた。私の勤めているプロダクションは社員が私も含め4人と言う少なさ。意外と有名は会社なんだけど4人で切り盛りしている。雑誌のカメラ担当はちゅり。ホームページの担当はかおたんこと松村香織。文面と、四コマ漫画ちびあいりん担当はあいりんこと、私、江籠愛李。その他もろもろは中西編集長といった感じ。4人でも力を合わせればただ人数が多い会社よりかはずっと効率よく回せているような気がする。

「松村香織の今夜も1コメダー! と言うことで今回のゲストは名古屋からのお客様、大矢真那さんです!」

「はい! 大矢真那でーす。よろしくお願いしまーす」

かおたんは、毎週恒例の1コメダの撮影をしている。今日も相変わらずプロダクションの端っこのソファーで撮影が進められている。多分あのソファーが一番このプロダクションにある物の中で上等なんじゃないかと思う。ゲスト専用のソファーだ。

「さてと」

私は自分のパソコンを開いて作業を始める。えーっとあと5話も書かないとなのかー。急がなきゃ。

「愛李ーこっち向いてー。はい、ちゅりっ。オッケーです」

ちゅりが目の前でシャッターを切る。うおっいきなりー!

「何?」

「え? あ、今回の企画がプロダクションの裏側だから、写真取ってるの。見てー可愛いでしょ」

ちゅりがカメラを私の方に向ける。いやー私そんなにでしたか(笑)ん?鳥?

「見てー! ぱぴたん♪ 麗しい瞳でしょー」

あ、そうでした。彼女は鳥だった。そうだった。ちゅりはプロダクションでぱぴたんというインコを飼っている。何インコだったかはよくわからないけど、ちゅりはものすごくぱぴたんを可愛がっている。お家にもぽぽとかぷちょとかだったっけ?とりあえずたくさんのインコを飼っている。それは小さい頃から変わらないんだけど、未だにどれがどの子とかは分からない。どの子が亡くなって、どの子が新入りなのかもわからないのだ。ちゅり曰く私は鳥だから、鳥の気持ちも分かるし、鳥さんは私の家族だから。だそうです。あ、だからぱぴたんも立派な社員って訳ね。失敬。うちのプロダクションは社員5人、いや4人と1匹でしたわ。私は改めてこんな暖かい所で働けてよかったなと思った。裕奈には本当に悪いけど、私は楽しい時間を過ごしていた。

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四つ葉のクローバー 立花音符(たちばなおんぷ) @onpu0307

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