第20話 ニコの能力

「…ニコは今とても強い。時魔は負の感情で強くなるからな。しかも、俺とカサメは堕天使化しているから、力は落ちている。…作戦を練らなければならない。」

自分で自分の時を遡って泣いているニコを見つつ、ヒカルは淡々と冷静に述べた。しかし、その心中が冷静でないのは声の震えからわかる。

「ニコの弱点はカサメで間違いはないだろう。カサメを上手く配置できれば倒せないということはないはずだ。」

そこまで言った後、ヒカルは冷静さを繕うことが出来ていなかった。思い出したように目を細め顔を歪ませた。

「…でも俺達の弱点もまた、ニコだからな…。」

それからヒカルはあたしに焦点を合わせると、

「山鳥がニコに触れるだけでいいんだ。闇に染まりきった者は光に極端に弱い。光に触れたところから浄化されて消えていくからな…。」

と、ヒカルこそ消えてしまいそうな声で言った。

「触れるだけなら作戦を立てるまでもないんじゃないの?」

友達を倒すための計画を練るだなんて、きっと辛いことだ。だってその友達を倒すことが前提であり、最終目的になるのだから。

しかしヒカルは首を振った。いつも無表情のヒカルが無理やり笑おうとしていた。きっと頭のいいヒカルのことだから、あたしの考えてることがわかったのだろう。さらに意識させるようなことをしたと後悔した。

「ニコと誰かの目が合うと、周辺にいた人は動けなくなるんだ。目を離しても、ニコの警戒が解けるまで話すことさえままならないほどの圧力に押しつぶされそうになる。だから警戒されないように近づいて、不意に触れなければならないんだ。」

急に頭の隅の方が騒がしくなった。記憶の点と点を強引につなげようとしている。ニコの能力に覚えがあるような気がしたんだ。C-003と戦うよりもずっとまえからその能力のことをしているような、そんな気が…。そんなことはないと強く思うものの、隅の騒がしさを消すことはしなかった。

「俺はニコと目を合わさず戦うのに慣れているから、時間稼ぎにはなるだろう。その隙にカサメが話しかけつつ近寄って、傘を使って扉の方へ吹っ飛ばし、その先に山鳥がいれば触れられる……か?」

ヒカルは珍しく自身がなさそうに呟いた。しかし、もうその計画しか選べないようだった。

ニコは過去を全て遡ってきたらしく、俯いていた顔を上げると叫んだ。

「なんでなんだよ!俺はいつだってカサメのために……っ!」

遡る間ヨウから魂を奪う手を止めていたニコだが、顔面蒼白のヨウをにらむとまたその手を強めた。それと同時に赤いものがちらついた。それがニコの血走った目だとわかるのにそれほど時間はかからなかった。目を合わしてはいけない。そう思って顔を動かそうとするも、うまくいかない。台風時の向かい風に逆らって歩いているようだ。すでにニコの能力は解放されかけているらしい。完全に解放されてしまったらどうなってしまうのだろうか。

「山鳥、しかたがない、さっきの通りおまえは待機していてくれ。」

ヒカルはそう耳打ちした。

「この圧力はニコから発せられるタイプ。翼を使って円を描くようにニコの頭上を飛んでいけば、それほど苦もなく行けるだろう。」

翼を広げると面積が広くなる分、受ける圧も増え、後ろへよろめいた。しかし背中を支えてくれているものを感じ、振り返るとヒカルがイヴ様に似た微笑を浮かべ「気を付けて」と口を動かしていた。緊張で凍えていた血が元気よく流れていく。生きた心地のしない悪魔の巣窟で、心臓の鼓動を確かに感じながら、あたしはさらに光り輝く翼を羽ばたかせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

光が飛翔し終えた時 飛竜 @rinky

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ