個人的には取っつきにくい印象があったものの、ミリタリーの専門的な用語から、本来の歴史的背景、その情報密度に触れれば、作品から「良く調べてあるのだろうな」という丁寧さが読み取れる。
だからこそ、本来とは異なる歴史を描こうとも、そこに荒唐無稽さはない。「上手に負ける」という落としどころにも納得させられるし、タイムスリップによる日本列島の転移、というか転換にもオリジナリティを感じる。
常々私は、人がある状況下に置かれたときにどう動くか、が生きたキャラクターの小説の書き方だと信じている。
この作品は、緊迫の政治的局面や戦場の切迫した状況においても、その点上手く描写出来ているように思う。
それは、日常のひとコマにも見て取れ、第一章の終わり、本来叶うはずのない父と娘の再会の描かれ方は、設定の妙であり、ここだけでも評価に値することだろう。
ここからは、恥ずかしながらこのテのジャンルにまったく触れてこなかった私の未熟さによるものではあるので、あまり気にして欲しくはないが、やはり取っつきにくさは払拭出来なかった。
専門的な情報量、登場人物の多さ、そこに海外諸国の思惑や視点が加わることでの物語の複雑さ、展開のテンポ、このへんだろうか。
架空戦記はこういうものだ、とか。お前の読解力が足りない、とか。ミリタリーマニアは気にしない、とか。
そう言われてしまうと、正直なところ、うん、私が悪い。首を縦に振ろう。
よって、読み応えのある作品として、ミリタリー好きはもちろん、私のようにあまり触れてこなかったジャンルとしての読者にも触れてみて欲しいと思う。