さあ、飛び切りのドライブをしよう

洋画のカーチェイスを思い浮かべてほしい。
ロサンゼルス、パリ、あるいはマンハッタンの風を切り、流れる街並みのどこかに特別焦点を当てることもなく走り抜ける。
その、息の止まるような爽快感。遠心力に身を流されるような臨場感。それらが重なる緊張感、高揚感。

『強盗童話』の強みは、つまり。
「それらの感覚を一挙に体感できる“小説”である」ことだろう。

疾走感溢れる文章、釘付けにされる場面展開、個性鮮やかなキャラクター達。
呼吸も、瞬きも、傍らに準備した珈琲の香りすらも忘れてまさに「物語の世界に沈み込む」ような感覚を覚える。
気づけば時計は幾度も進み、車が止まるは最前線(フロントライン)。
心も時間も五感も、あらゆる意味で「持っていかれる」のだ。

平面の劇場を眺めることに飽きたあなたへ。
ありきたりなびっくり箱では驚かなくなったあなたへ。
是非最前列でご覧あれ。この“小説”は、『格別』だ。

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