正しく『騎士道物語』である作品

 「紋章」のあるファンタジーを読むことはありふれたことと思いますが、「紋章」を取り扱う作品は少ないように思います。
 本作は中世ヨーロッパ(特にイギリス)の世界観にケモミミや翼人、巨人などのファンタジーの要素を織り交ぜつつ、馬上槍試合を中心に据えたド正統派の騎士道物語です。
 作中においては、いわゆる「紋章学」に因んだストーリーが展開されていますが、中世にかかる作者の深い造詣とそれをストーリーに織り合わせる技巧には敬服します。
 本作では、大紋章に書き加えられる巻物(scroll)に刻まれるモットー(motto)が、重要な要素として作品を彩ります。
 モットーは信条、座右の銘などをを意味しますが、この物語では様々な誇りを持つ者たちが物語を織り成します。
 そして、物語の中核を成すのは未だ誇りを未だ持たない主人公であり、己を探し旅をする王道の物語でもあります。
 実直な文体で描き込まれた、古き良き騎士道物語です。

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