3話目 自習時間の思いごと
「ねぇ、飽きた」
僕の発した声は僕を含め3人だけの教室によく響き、誰も反応しないから再び静まり返る教室。2人のシャーペンを動かす音と、プリントをがさがさと動かす音が聞こえる。
そう、今は自習時間。しかもたった3人だけの。本当は4人になっていつものメンバーになる筈だったのだが彼は風邪を引いてしまったらしい。
それで3人だけだが、"自習"と言う名目で授業を行っている。これは、普段僕らがマトモに授業に出ないから5日という中で前期中間の勉強を詰め込んだプリントをひたすらに解いていくというもので今日はその最終日。この日、この時ばかりはやる気が起きなくて勉強に身が入らない。前期中間の内容全てを詰め込んだそれはとてつもなく数が多く、内容としてもぎっちりと字がつめ込まれている。正直見ているだけでも気持ち悪い……。それでもなんとかこなし、残り枚数は2桁。やり遂げたプリントは別の机に置かれ、タワーを成していた。2人も僕と同じくらいの数をこなしていて、この部屋には紙のタワーが何棟か建築されていた。
僕はもう何もしたくなくて、ただぐてーんと机に突っ伏していた。あぁ、暇じゃないんだけど暇と言い張りたい……。ペラペラと残りのプリントの枚数を数えていく。いち、にー、さぁーん……。うん、やめた。めんどい。
だからと言ってもまだ勉強には戻りたくないんだよなぁ……。ペンが、何より僕の腕が「動きたくない」と駄々をこねている。だから本体である僕が動かしちゃいけないんだよ、などと自分だけの屁理屈を作り出しながらくるくるとペン回しをする。
ん?じゃあいっそ2人に絡みに行けばいいんじゃない?もちろん玉砕覚悟で。
そうと決まれば、僕ははやくも行動にうつった。
(えーっと、うーさんに行ったらぐーで殴られて終わるだけだからめいたんに行こうっ!)
思考は少しばかり秒数をかけただけで、がたがたと椅子を動かしながらめいたんの隣に座った。
めいたんがペンを忙しなく動かしていたのは数学のプリントだった。うわぁ……、すごい、途中式えぐいぃ……。
よし、気にしないでとりあえず話しかけてみようっ☆
「めーいーたーんっ!」
反応がない。どうやら集中しているよう。
「めっ、いっ、たんっ!」
反応がない。シカトされているようだ。
うーんん……、どうやれば構ってもらえるか……っ!
「めぇー、めぇー」
いっそ一か八かでやってみた羊の鳴き真似は、僕が恥ずかしくなるだけで終わりました。えっ……、泣くよ?
ん?待てよ……?あのめいたんの事だ。もしかしてこのプリントをやっているめいたんはまさかロボット……!?
ふっふっふっ……、なるほど。分かったぞ、めいたん……!!せんせーの目は騙せても僕の目は騙せない!
よし、とてくてく歩いてくるりとめいたん(仮)の背後に回る。そして、きゅっとめいたんの耳をつまむとぐいーんと引っ張った。
むいーん、むいーん、むいーん……。
ふむ、耳たぶがやーらかいなっ!
すると、めいたん(仮)は急にパッとペンから手を離した。何事かと考える間もなく、めいたん(仮)はこっちを振り向くと、どすっと僕の脇腹に裏拳を食らわせた。
急な激痛に立ってられなくて、ズルズルとしゃがみこむ僕と反対にめいたんは口元だけに笑いを作る。
「くーちゃん?煩いよ?」
あっ、めっちゃ怖いごめんなさい。めいたん本物でした、知ってました。ごめんなさい。
一言、ごめんなさい。と震え混じりに伝えるとにこっと笑って作業に戻った。
一瞬の殺気、感じた恐怖に僕は震えながら自分の椅子を自分のやっていた机のところまで戻し、僕はおそるおそるうーさんの机の下で縮こまった。うーさんは急にきた僕のことを"いないもの"と判断したらしく、すぐに作業に戻った。
とりあえず今日の教訓。めいたんを怒らせちゃダメ。絶対。
その後のことを覚えてない僕は、うーさんに聴いた事曰く「のっそりと自席に戻ってペンをひたすらに動かしていた」らしい……。
恐怖って、すごいね……。
Blood life 深海灯 @yukiusagi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。Blood lifeの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます