第四節 ハイエンス
第16話 過去の仲間
学園制圧事件から3日が経った。
学園は後処理に追われ、臨時で2週間の休校が発表された。
大量殺戮を犯したクロウの処遇はというと、特にお咎めは無し。むしろ、一部の人間からは称えられるほどだった。よくぞ、あの凶悪犯たちを殺してくれた、と。
そして現在、ハリスは部屋で、だらけていた。
「あー、暇だ……」
ハリスはリビングに寝転がりながら辺りを見渡す。床に無造作に落ちている果物を手に取ると、お手玉のように遊び始めた。
そして、その様を隣で見守る人物が1人。
「何してんだ、お前」
声を発したのは、クロウ。椅子に座って、雑誌を読んでいる。
ハリスを呆れた目で見てはいるが、クロウも実際やることがない。今読んでいる雑誌も、この期間中何回見たことか。
「やることがねえ。まったくねえ」
「ユイと聡は?」
「あー……、あれから会ってねえんだよなあ」
ハリスは天井を見上げながら寂しそうに言葉を吐く。
ユイと聡は、事件解決の夜から、顔を合わせていない。抱き合って泣いた後なのだから、恥ずかしさで当然と言えば当然か。
クロウもそう思ったのか、呆れたように口を開いた。
「あんなこっぱずかしいことすれば、そりゃ会えねえだろ」
「仕方ねえだろ。感極まっちまったんだよ」
「らしくもねえな。……ほれ、テレビでも見てろ」
そう言ってクロウは手元にあった、テレビのリモコンをハリス向かって放り投げる。リモコンはきれいな放物線を描き、ハリスの顔に落下する。
ハリスが普通に受け取ると思っていたクロウは、あまりの光景に目を見開いた。
「おま、何してんだ……」
「いや、油断してた……」
「あの『死神』様が聞いてあきれるよ。だらけすぎだアホ」
クロウはつま先でハリスの頭を小突く。ハリスは、あー、とうめき声を上げるだけで反抗はしない。
それから10数秒後、ハリスはようやくその身を起こした。そして、テレビをつける。いくつかチャンネルを変えた後に、1つのチャンネルで止まった。
番組の題名は、「発見! 秘境に住む、ヤジダルシア人!」
タイトルを見て、クロウは嫌そうな顔をする。
「……なーんでこんなの見なきゃいけねえんだ。もっと違うの見ようぜ。格闘戦とか、スポーツとかよ」
「いいだろ。俺はこういうの好きなんだよ」
リモコンはハリスが占拠しているので、クロウにはチャンネルを変える権利はなかった。テレビまで行けば変えられるが、クロウはそれをするのすら面倒くさかった。
それからしばらく、そのテレビを2人して眺め始める。
砂漠に1人で住み、快適な住居を確保した人。自然に暮らし、衣食住全てを木々で賄う人。ヤジダルシア人でありながら、世界最小の国ヨミルフで生活する人。
数十分かけてその内容を流した後、司会役の人が最後の特集を読み上げた。
「人口30人の村で暮らす、世界一たくさん動物を飼う人ー!」
ハリスとクロウは、それを聞いても顔色1つ変えない。むしろ、つまらなそうにあくびをするくらいだった。
番組では、ゲスト達が思い思いにコメントをしている。餌の確保に困らないのか、なぜそんな辺鄙な場所で飼うのか、等。
トークが終わり、テレビはVTRに切り替わった。VTRは、リポーターの人が派手なリアクションで場を盛り上げて始まった。
人口30人の村で聞き込みを行い、段々とリポーターが特集の人物の下へと近づいていく。
そして、特集の人物が映し出されたとき。
「……はあっ!?」
クロウが椅子から立ち上がりながらそう言い放った。その表情からは、驚愕が読み取れる。
「はっ、……痛っ!」
ハリスもクロウと同様、驚きで立ち上がろうとした。しかし、立ち上がるときに運悪く机に脚を強打してしまう。
クロウはハリスのまぬけな様子に見向きもしないで、テレビ画面を驚いた様子で凝視する。
テレビ画面に映っているのは、オレンジ色の髪でオレンジ色の目を持った青年。名前欄には、キース・ロッズと書かれている。
クロウは、驚愕の表情から段々とニヤついた表情に変わっていく。
「おいおい、キースの野郎……、あんなとこに住んでやがったのか……」
「こんな形で、あいつを見ることになるなんてな」
強打した痛みから回復したハリスは再び座っていた。その表情からは、動揺が隠せていなかった。
それから、テレビはどんどんとキースについて語っていく。キースも嬉しそうにそのインタビューに答える。
ペットが少なくとも100種類はいるだろうということ、餌は自力で調達していること、人口30人の村を選んだのは、少しでも周りに迷惑がかからないように配慮したため、ということ等、私生活がどんどんと暴露されていく。
その様を見ながらクロウは、カッカッ、と短く笑ってから口を開いた。
「よし、会いに行くか」
「……は?」
「キースが住んでるところ……、ハイエンス、って国だろ? ここからそう遠くなさそうだしな」
ハイエンスは、ハリス達が住むアルトロから電車や車を乗り継いで、6時間もあれば到着する場所。少し時間こそかかるが、学園が休校になった今ならば、ハリスには関係はなかった。
「まあ、いいけどさ……」
「お前免許は?」
「もってねえよ」
「なんだ、使えねえな。聡なら持ってそうなもんだが……」
少し考え込むように、クロウは顎を撫でる。しかし、それを聞いたハリスは驚いたような表情をしていた。
「ちょ、待て。まさか、聡も連れてくってのか?」
「ん? 俺は最初っからそのつもりだぜ。ユイもな」
あまりにも勝手に決められていた事実に、ハリスは開いた口が塞がらない。
聡とユイとの気まずい状況の中、下手すれば泊まりになりそうな旅に出ろという、クロウの提案にハリスは頭を抱えた。
ハリスのその様子を見て、クロウは楽しそうに笑う。
「カッカッカッ、まあいいじゃねえか。仲直りにはいい舞台だろ?」
「いや、まあ、そうかも知れねえけどさ」
「なんだ、キースのこと気にしてんのか? あいつなら別に大丈夫だろ」
「そういう問題じゃなくてだな」
「カッカッカッ、ま、細かいことは気にするなや」
とても楽しそうに、クロウはハリスの背中を叩く。ハリスはただ呆れた表情でクロウを見ることしかできない。
黙ってしまったハリスを尻目に、クロウはテレビの電源を消した。そして玄関のほうに歩き出す。ハリスがついてこないのを見ると、さも当然のようにこう言い放った。
「なにしてんだ、聡の家とユイの家行くぞ」
「いきなりかよ!」
「カッカッカッ!」
クロウはただ笑って、玄関に向かってしまう。ハリスは面倒くさそうに机に頭を置いてから、恨みのこもった声で呟いた。
「くっそ……、覚えてろよ……」
それからハリスはゆらりと立ち上がると、重い足取りで玄関に向かった。
時刻は午後8時前。薄暗いアルトロの街中を、クロウとハリスは2人で歩いていた。
この時間帯ならばいつもなら賑わっているはずの、アルトロの商店街もいくつかシャッターを閉めている。そのせいで街中はいつもより少し暗くなってしまっていた。
そうなってしまったのには、理由があった。
先日起こった学園制圧事件。その事件の収束の翌日。ヤジダルシアに再び動乱が訪れた。
ヤジダルシア国内各所で、暴動が起きたのである。
それはいくつかのレジスタンスが立ち上がり、軍の施設を襲ったことにより始まった。国内各所に潜んでいた他のレジスタンスや難民が、その報道を見て立ち上がり、ますます暴動の勢いは増していった。
そのせいか、つい先日に学園制圧事件が起こり、厳戒態勢となっているアルトロでさえ、何かが起こるのではないかと一時的に休業してしまう店が後を絶たなかった。
そして商店街の中にある電気屋で展示されているテレビから、暴動に関する報道が告げられた。
「
そのニュースを見て、クロウがつまらなそうに呟く。
「こいつらもバカだよな。どうせ鎮圧されるに決まってんのによ」
「……ま、仕方ないんじゃねえか? こういう奴らは、どっかで同胞が暴れてたら、自分達もやりたくなっちまうもんだろ」
「そんなもんかねえ」
そこで、2人の会話は途切れる。
それから数分歩き続けて、2人は聡の家に到着した。玄関の前で、クロウが思い出したように口を開く。
「そういえばよ」
「ん?」
「聡に何の連絡もしてねえけど、大丈夫かね」
それを聞いて、呆れた様子でハリスは返答する。
「連絡くらいしとけって……」
「カッカッカッ、まあなんとかなるだろ」
そう言って、クロウはチャイムを押す。数秒待った後、玄関の扉が開く。
「はいは……って、ハリスにクロウ」
出たのは、聡だった。一瞬気まずそうな顔を浮かべていたが、クロウはそれを気にせず挨拶する。
「おっす」
「……よう」
ハリスは視線を逸らしながら挨拶した。時折、泳いだ視線でチラチラと聡を見ている。
クロウはその様子をちらりと見ると、ハリスの首根っこを掴んで話し始める。
「なあ聡、ちと話したいことあるんだが、今いいか?」
「ん、ああ、大丈夫だぜ」
「んじゃ、上がらせてもらうな」
そう言うと、クロウはハリスを引きずるようにして中に入っていった。聡に案内され、リビングに通される。
リビングに座った3人は、しばらく無言だった。聡とハリスが時折視線を交えては、気まずそうに目を逸らす。
その様子に耐えかねたのか、クロウが机を叩いて叫んだ。
「付き合い始めたカップルか! 気持ち悪い!」
突然突っ込んだクロウに、ハリスと聡は目を見開いた。動揺しながらも、なんとかハリスが口を開く。
「いや、お前、どうした」
「いくらなんでもお前らが気持ち悪くてな。青春物語をやったくらいで、気まずくなりすぎだ」
面倒くさそうに耳をかきながら、クロウが言葉を続ける。
「いつも通りでいようってこの前泣いてたんだからよ、恥ずかしくてもいつも通りにしてなくちゃ意味ねえだろうが。せっかく離れ離れにならなかったんだからよ」
ハリスはそれを聞いて、何も言えなかった。代わりに聡が口を開く。
「クロウ、いいこと言うな……」
「だろ?」
褒められて、なぜか格好つけた顔をしたクロウを見て、ハリスは呆れたような表情をした。
「お前がそんないいこと言うとか、意味がわからなすぎる……」
その反応を見たクロウは、うるせ、と小さく言ってから、言葉を続ける。
「俺だってたまにはいいこと言いたくなるんだよ」
「嘘つけ。今までそんなこと無かったろうが」
ハリスにそう言われて、気前よさそうにクロウは笑った。そして、意を決したようにハリスが話を続ける。
「ま、クロウの言うとおりだな。せっかくこうして残れたんだし、恥ずかしくなってる場合じゃねえな」
その言葉に、微笑みながら聡が返答する。
「まったくだな。こんなの俺達らしくねえ」
聡とハリスはお互いに笑い合う。
クロウはそれを遮るように、手を叩いて口を開いた。
「さて、本題に入るか」
「お、ようやくか」
楽しみにしていたかのように、聡が反応を示した。クロウはそれに一度頷いてから、話を続ける。
「旅に出るぞ」
クロウはそれだけ言い放つ。いきなりのことに、聡は固まってしまう。
それを見て、補足するようにハリスが話し始めた。
「ハイエンスってところにな、ちょっと用があってよ。せっかくだからお前らも連れてこうってクロウがな」
その言葉に、聡は首をかしげながら答える。
「ハイエンスか……。あそこ、もう焼け野原で人なんてほとんど住んでない国だろ? そんな辺鄙なところに何しに行くんだ?」
「ちょっと、人に会いにな」
「人ってえと……、フォードの?」
聡から聞かれたその質問に、ハリスは一瞬答えられず詰まってしまう。それを見越していたのかクロウが口を開いた。
「そうだ。フォードの仲間。キース・サモンフォードって奴だ」
「ちょ、バカ、おま」
ハリスが慌てて、クロウの頭をはたいた。クロウは、何するんだ、と言いたげな表情をハリスに向ける。
ハリスはそれを気にせずに、クロウを軽く怒る。
「キースに確認も取らずバラすって、何してんだ!」
「カッカッカッ、別にかまいやしねえだろ」
「一応あいつもキース・ロッズって偽名使ってるんだからよ、バラしたくねえかもしれねえだろ」
「遅かれ早かれバレるに決まってんだろ。あいつのハリアルは隠しようもねえしな」
呆れ疲れたのか、ハリスは頭を抱えてしまった。それを慰めるように、聡が声をかける。
「まあまあ、気にするなよ。フォードでも、俺は気にしないって」
「……まあ、クロウのこういうところは、今に始まったものじゃねえし、諦めるよ。キースには悪いけど」
そう言って、ハリスはため息をつく。その雰囲気は完全に諦めたものだった。
気を取り直して、聡が再び口を開く。
「ハイエンスに行くのは構わないけど、ユイも連れて行くのか?」
「ん、ああ、そのつもりだけど」
それがどうした、と言いたげな表情を浮かべるハリスを見て、気まずそうに聡は頬をかいた。数秒してから意を決して、口を開く。
「いや、あいつこそ本気で気まずいんじゃねえかなって」
その言葉の意味が分からずに、ハリスは首をかしげる。しかし、その言葉の意味を理解すると、ハリスは段々と赤面していった。クロウも理解したのか、その顔はニヤついている。
ハリスが理解したこと。それは、ユイがこの間どさくさにまぎれて告白してしまったこと。
あれからうやむやに流れてはいるが、しっかりとハリスはユイに告白を受けていた。そんな事実があれば、この状況でユイは一番ハリスに会いたくないだろう。
それを理解していて、あからさまにからかうように、クロウがハリスに話しかける。
「ま、こればっかしはハリスさんに解決してもらわねえとなあ」
「わかったから。なんとかするから。だから頼むからそんなニヤニヤしながらこっちを見るな」
ハリスは赤面した顔を見られないように顔を逸らしながら、クロウを遠ざける。
その様子を楽しそうに見ながら、聡が口を開く。
「ところで、旅はいつ行くんだ?」
「んー、決めてねえけど、できるなら早く行くかな。……あ、そうだ。聡、免許持ってるか?」
「ああ、持ってるよ」
「車は?」
「一応あるけど」
一通り聞いてから、クロウは満足そうに頷く。そして少し考えた後に、再び口を開いた。
「よし、車で行こう」
その言葉を聞いて、聡が一瞬嫌な顔をする。長い距離を1人で運転するのは、さすがに嫌だったようだ。
しかし、安心しろ、と言わんばかりの顔で、クロウが口を開いた。
「大丈夫だ。俺も運転する」
「え、免許もってんのか?」
「持ってない。だが、運転はできる。なあ、ハリス?」
ハリスは頬をかきながら答える。
「ま、訓練で運転の仕方の一通りはな」
「と言うわけだ。……あとは、ユイだけだな、ハリスさん?」
ニヤニヤしながら見てくるクロウを、ハリスはとりあえず蹴っておいた。
「あ、でも今はユイ家にいないぞ」
思い出したように、聡が口を開いた。クロウはその言葉の意味がわからなかったのか、首をかしげた。説明するように、聡が口を開く。
「今は寮が閉鎖されてるからさ、多分友達の家にでも泊まってるんじゃねえかな?」
クロウはそれを聞いて納得したのか、あー、と声を漏らした。そしてそのまま言葉を続ける。
「でもよ、電話くらいは繋がるだろ?」
「多分ね。かけてみるよ」
聡が電話を取り出し、ユイに電話をかける。数秒待ってみたが、ユイに繋がる様子は無かった。残念そうに携帯を閉じながら、聡が口を開く。
「ダメだ。繋がんない」
「そうか……。誰の家に泊まってるか、確かめらんねえか?」
「ああ、んじゃ色々聞いてみるよ」
「おう、頼んだ。わかったら連絡くれや」
そう言って、クロウは立ち上がった。そのまま言葉を続ける。
「とりあえず、今日は帰るわ。またユイと連絡取れたら、ハイエンスに向かうぞ」
ハリスも続いて立ち上がり、聡に話しかける。
「悪いな、今日は突然」
軽く微笑みながら、聡は返答する。
「いや、気にすんな。ハイエンス、楽しみにしてるぜ」
ハリスはそれに、おう、とだけ返して玄関に向かう。
そのままハリスとクロウは外に出て、家に向かって歩き始めた。
数十秒歩いた後、ハリスが思い出したように口を開いた。
「あ、そういえば俺ちょっと買い物があるから、先帰っててくれ」
「ん?ああ、わかった」
そこでハリスとクロウは別れ、ハリスは暗い道を1人歩く。
近道をしようと路地に入って、暇そうにハリスは口笛を吹き始めた。そのまま数秒歩いた頃。ハリスは立ち止まる。
その顔は先ほどまでのような穏やかなものではなく、厳しいもの。
「…………」
無言のまま、ハリスは辺りを見回す。感じる気配は薄く、とても小さい。下手をすれば気付かないようなもの。
暗く、細い路地で襲われては危険だと判断したハリスは、少しでも広い道路に出ようと、後退を始めた。
そして、街灯が何本か立つ少し広い路地に出たとき。ハリスは敵の正体をその目で捉えた。
ハリスの数m先に立つ人影。黒装束に身を包み、黒いマントを羽織っている。その姿はまるで、つい先日鎮圧したはずの『死神』そのものだった。
「おいおい、また『死神』かよ……」
呆れた様子で、ハリスは右手に短刀のハリアルを生成する。
だが、先日の『死神』とは決して違うものがただ1つだけあった。
敵から感じる、気迫。その気迫は『死神』のそれとは比べ物にならないくらいのもの。気を抜けば、切り刻まれそうな程の気迫。
敵は何もせず、ただ立ち尽くす。ハリスもそれをじっくりと観察するようにその場に立ち尽くしていた。
しかし、突然敵は動き出す。
ハリアルを生成すらしないまま、ハリスに向かって駆け抜けた。
その速度は、本気を出したハリスに引けを取らないほどの速度。常人なら反応すら不可能な速度。
ハリスは突然のことに驚愕で目を見開くが、対処は速い。敵が繰り出してくる格闘術をしっかりと対処していく。
ハリスと敵の拳がぶつかり、敵が2、3歩後退する。そしてそれと同時に、その手に短刀のハリアルを生成させた。生成の際の光は、ハリスは認識できなかった。
「……まさか」
ハリスがそう呟くと同時。敵が再びハリス目掛けて駆け抜ける。
拳と拳、脚と脚、刀と刀がぶつかり合う音が、暗い路地に響き渡る。
ハリスが敵を斬りつけようと、手を伸ばした。しかし、その刃先は敵を捉えることはできない。
代わりに、ハリスの腕が敵に掴まれた。ハリスが掴まれたと認識した瞬間。
ハリスは、宙を浮いていた。
それは、敵がハリスを投げたことにより起きたこと。しかしハリスは投げられながらなんとかその手を振りほどいた。
投げられた勢いのまま、ハリスはなんとか地面に脚をつく。ハリスが再び顔を上げると、そこには敵の姿はない。
ハリスはそれを認識すると共に、短刀のハリアルを消滅させた。そして、漆黒の鎌のハリアルを生成する。そのまま、鎌を上に向かって振り上げた。
その瞬間、刃と刃がぶつかり合う音が辺りに響く。
ハリスが上を見上げれば、上から落ちてきたであろう敵の姿。その手には短刀ではなく、ハリスと同じような色の、同じくらいの大きさの鎌が握られていた。
闇のような黒の鎌は、もちろん敵は先ほどまで背負っていたわけではない。どこかに隠していたのか、それとも彼のハリアルか。
敵はその場から飛び去り、ハリスの数m先に着地する。ハリスはそれを見ながら、苦い顔で口を開く。
「おいおい、勘弁してくれ……。2つもハリアル持ってんのかよ……」
敵はその言葉に何の反応も示さない。ハリスは鎌を1振りし体勢を整えてから、言葉を続ける。
「なんだ、アイブレプスが新しい奴でも作ったか……?それともまさか」
苦い顔で、ハリスは一度ため息をつく。
「ユーリじゃねえだろうな……?」
ハリスが口にした言葉に、敵は微かな反応を示す。
その反応を見て、ハリスは舌打ちをする。まさか、本当にこいつはユーリなのか。そうハリスが思ったとき、敵は再びハリス目掛けて駆けてくる。
ハリスは右手に鎌を握り、左手には短刀のハリアルを生成させた。それに合わせたのか、敵も左手に短刀のハリアルを生成させる。
敵は駆けながら、短刀のハリアルをハリス目掛けて投げつけた。それと同時に、斜め前方に大きく跳ぶ。
ハリスは短刀を短刀で弾き、斜め前方の壁を蹴ってこちらに向かってくる敵に目を向ける。敵が振った鎌を、自らの鎌で弾いた後に、ハリスは左手に握った短刀で敵を斬りつけようとした。
しかし、敵は身を捻りハリスの後ろ側に回る。それと同時に、弾き飛ばされ宙に浮いていた自らの短刀を掴むと、そのままハリス目掛けて斬りつけた。
ハリスは体を捻ってなんとかその攻撃を防ぐ。回ったことにより大きく開かれてしまった体に生まれた、ほんの僅かな隙を敵は突いてきた。
敵が脚を勢いよく振り、ハリスの体を捉える。ハリスはその衝撃を防ぎきれず、後方に数mは飛ばされる。
「くっ、そ……!」
なんとかすぐに体を起こす。敵は、先ほどの位置のままこちらを見続けている。
ハリスはよろめきながらなんとか体勢を整えた。敵を睨みつけ、軽く荒れた息を整える。
そのまま両者のにらみ合いが続いた。数十秒にも及ぶにらみ合いは、敵がハリアルを消滅させることにより終わりを告げる。
罠だと警戒して動かないハリスを尻目に、敵はその場を去る。
敵がその場を去ってから数十秒たって、ようやくハリスはハリアルを消滅させ構えを解いた。
それからハリスは舌打ちをして、苛立ちを隠さずに近くにあったゴミ箱を蹴飛ばした。
破滅世界のリベリオン 麒麟レイモンド @meto5678
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