第34話




 そうして、時は過ぎ、五月の連休。

 初花は、連休初日の今日も秘密基地に顔を出していた。

 鞄から、大切そうに写真を二葉取り出した。

 嬉しそうに写真を見詰めて、にっこりする。

 そして、大事に宝箱――お菓子の缶の中に仕舞う。

「ふふふっ!」

 上機嫌で鼻歌を歌いながら、秘密基地を見渡した。

 初花は、強く感じた。

 (ここが、私の居場所)だと。

「さー。今日も次の秘密基地の構想でも練るか!」

 宣言して、段ボール箱の上にノートを広げる。

 この段ボール箱が、秘密基地での机代わりだ。

 最近は座布団を持って来たので、座り心地も更に快適になった。

 

 暫くすると、啓が現れる。

「初花、来てたのか。おはよ」

「おう! おはよう」

 元気に返事を返して、初花と啓は笑い合う。

 二人になると、秘密基地はより温かい空間に変化する。

 これが、たまらなく愛おしいのだ。

「そういえば、今度の文化祭、校内新聞に載せる用の写真撮れってさー。初花も手伝ってくれるよな」

「うむ!」

 そう言って初花と啓は談話を始めた。

 外には爽やかな風が吹いていた。




 宝箱の中身の写真、一枚は初花と啓のツーショット写真である。

 初花の両親である涼とあやめの結婚式は、郊外の品の良い教会で、つつがなく行われた。

 もちろん、おきまりのブーケトスも行われた。

 そのブーケを何故かキャッチしてしまったのは、他でもない、初花だった。

 初花は吃驚して、助けを求めるかのように啓の方を見た。

 啓も、慌てて、でも、つい癖で、カメラ片手に初花の頭を撫でた。

 式の参加者から、ますます冷やかしの声が上がる。

 そうしている二人の背後から、その日の主役であるあやめが、こっそりと近づき、啓のライカを奪い、二人を激写した。

 あやめは二人の行動が面白かったため、つい写真を撮りたくなったのだ。

 しかし、それは、あまりにもタイミングが良かった。

 そこに写し取られた様は、まさに決定的瞬間――だった。

 まんざらでもない二人の気持が、ストレートに収められた良い写真が撮れたとは、あやめ談。


 それを暗室で現像していて、写真の出来に、一人真っ赤に成ったのは啓である。

「てゆーか、これ、あやめさんの方が才能あるんじゃ……」

 呟いて、啓は自分で言ったのに何故か自分の発言に落ち込んだ。

 そして、この写真をどうしようかと悩んだ結果、初花に渡した。

 初花は家に居た両親――ちょうど、渡しに行ったその日が、二人の新婚旅行の出発日だった為、全員に写真を見られるという恥ずかしい事になったのだが、最終的に件の写真の所有者は初花に成った。

 というより、初花は甚く気に入り、啓から写真を奪ったのだった。

 それが一葉。


 もう一葉は、秘密基地の前でピースサインをしている啓と初花の写真だ。

 これは初めて、啓が自分で三脚を立てて、タイマーをセットして、自分が明確に被写体となることを意識して撮った写真だった。


 宝箱の中には、その二つの写真が仲良く納められているのだった。








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秘密基地クラブ 菊月太朗 @Kikudukitaro

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