第33話



 次の日の初花はテンションが高かった。

 朝の教室でも啓に話し掛けてきて、啓や、周りの生徒を驚かせ、放課後の秘密基地に至っても、多弁だった。

 そして、初花は、最後に啓に爆弾を落とした。

 なかなか本題を言い出せない為の今日の饒舌だったのだ。

「啓。結婚式に一緒に来てくれないか?」

 真剣な目で懇願された。

「……へっ?」

 啓は予想外の話に驚き、なんだか間の抜けた声が出てしまった。

「だから、私の両親の結婚式だ」

 もー、鈍いな、とでも言わんばかりの顔で初花が啓を見る。

「……両親って、……え、あ……、えっと、初花の父さんと、あやめさん?」

「そうだ!」

 鼻息荒く初花が大きく頷いた。

 啓は、じっと初花の目を見て、言った。

「初花、もう吹っ切れたのか?」

 そう言われて、照れたように初花は顔を赤くした。

 そして、少しだけ口を数度、小さく開けたり閉じたりを繰り返してから、思い切ったように口を開いた。

「うむ! ……啓のおかげで……な」

 語尾が少しだけフェードアウトしたのは何でだろうと、目を離さないで居た啓は少し考えた。

 でも、深く追求はせず、当然の疑問を口にした。

「それで、俺が、なんで?」

「そりゃ、決まっているだろう!」

 何を当然のことを、と言った顔の初花は続けた。

「啓が来ないと私が式に参加しないとゴネたからだ!」

 いっそ清々しい程の笑顔での宣言。

「…………おいおい………………ぉぃ……」

 啓はずっこけそうになる。

 座っているので、気持ちだけ、だが。

 椅子に座っていたら、確実に、ずり落ちただろう事は想像に容易かった。

「い・い・ん・だ! だいたい元を辿ればお父様が勝手に母親候補を探して……」

 機関銃のように捲し立てる初花に、

「ストーップ!」

 啓が叫んで小言を止めさせた。

「あー。わかった。わかった。で、いつなんだ」

 啓の問いに初花は一瞬頭の中で考えて、言った。

「んっと、月末の、大安の、日曜日」

「え。早っ! 早すぎない? それ?」

 また驚く啓に初花は言った。

「そうなんだよ。……お父様たち、実は半年前に決めてたらしい……娘に何の相談もなしで! ひどいよな!」

 再度、ふつふつと怒りが沸いて来ている様子の初花を見て、啓が彼女を止めなければと言葉を掛けた。

「あー。分かった。……分かった。行くよ、行く。行くから」

 啓の言葉を聞いて初花の顔が、ぱあああっと明るくなった。

「おお! 行ってくれるか! ありがとう!」

 初花は嬉しそうに啓の手を握る。

 初花には他意は無く、純粋に、はしゃいでいただけの行為だったが、啓の心をかき乱すには十分な行動だった。

 啓は、初花の手の感触に、ドキドキしていたのだ。

「あのあと、色々話したんだ」

 初花が照れたように言った。

 そして、言葉を選ぶように、少し考えてから、続けた。

「あの、……。あのな。――あやめってやつ、結構、いいやつだった、んだ」

 困ったような顔をして笑う初花を見て、啓は、それでも安心した。

 初花の困り顔の理由は、本当に困ったからではない事が分かったからだ。

「――そっか。よかったな」

 口から自然と言葉が溢れた。

 初花は何度かモゴモゴと何か言いたげに口を動かしていたが、意を決したように、頷くと、一気に言い放った。

「だから、だからな! お父様とあやめさんの結婚を、祝うぞ!」

 それを聞いて、啓は心から喜んだ。

「わかった。一緒に行こうか」

 啓は快諾して、当日の自分のカメラや服の事を考えた。

 気分は壮快だった。




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