楽しく読めるweb向きミステリ

青年が女性の幽霊と一緒に、閉鎖された館で連続殺人を解き明かすミステリである。素直な構成と親しみやすいキャラクターのおかげで非常に読みやすく、若い世代を対象としたミステリとして人気が出そうに思えた。特に主人公と幽霊の、片方が好意的になると片方が引くという恋愛描写が丁寧である。
展開も素直で、なんの話かわからず読み返すような作業が必要なかった。webの小説は常に各章で引き込み続け、読者を手放さないテクニックが求められるので、そうした媒体に向いた書き方が自然に身についていると評価したい。トリックと伏線の回収も及第点には至っているであろう。ただ2点ほど気になるところがあった(ネタバレになるので、良ければ書いて良い場所を教えてください)。
一方で再考の余地がある点も散見された。まず推敲の量が不足しており、語彙も不十分かと感じた。読みやすいことは確かだが、表現が単調で工夫に甘さがある。古典でもラノベでも良いので、有名作品を乱読して文章を盗み、冗長な表現、筋違いな説明、日本語の間違いを直し、より良い表現を取り入れることで作品の輝きを強めてくれそうに思った。
次に、主役と幽霊の掛け合いが中盤以降謎に対する相談が増え、二人の関係が事件を通じて徐々に強く結びついていくべきであるにも関わらず、そうした進展が少ないのが残念である。せっかくの作者の長所を失っているようで惜しい。続編を意識するとしても、恋愛は新しい絆ができては壊れるの繰り返しであるから、次回作でまた離れ気味になってもさほど不自然ではないと思う。
最後に非常に贅沢な要望だが、なぜ幽霊でなければならないのか、は、再検討してほしい。なぜ犯罪に巻き込まれ聾啞になった彼女ではなく幽霊なのか。もちろん幽霊であるが故の描写は多々あったし、最後の独白は幽霊ならではだったが、他のミステリとの決定的な差異はここにあるので、さらに食らいつくべきではないだろうか。幽霊であったからこそ解けた謎、幽霊であるが故に助かったピンチ、幽霊であるが故に成り立つ恋愛をこれでもかというくらい詰め込み、他のミステリを押しのけ頭一つ抜き出る作品を目指してほしい。特に幽霊であるから解ける謎、は、「そんなのインチキだ、なんでもありじゃん」という批判と表裏一体で難しいだろうが、そこを克服すれば強力な武装になる。
面白かったですありがとう、ではなく、こんな面白いの他にない!というレベルが、次の作者の目標になるかと思われる。熱と勢いをこめて書き続けてほしい。

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