【∞】……〈形而上 流星〉
【∞】――胸を裂く 破裂する きっと死ぬほど美しい 夢を見た 夢を見た
【∞】
ところでさ。
これって方角とか、ちゃんと合ってんのかな。
あたし一刻も早く帰りたいんですけど。
「やったー! 着いたぞー!」と思ってたら実はアメリカ大陸でしたパードゥン? とか、マジ勘弁だし。
くぅ~、疲れました。
せっせとオールを漕いでたから、さすがにね。
百兄ィ、ちょっと替わってくんない?
え……? あ、そう。
いいよ。だったら、まだ休んでなよ。
■
いったい、この海域はどこまで真っ赤に染まっているんだろう。
破砕された人体の肉片や臓腑が所狭しと浮かんだ海原を手漕ぎのゴムボートで渡っていく。繰りだすオールの感触すら、ねっとりと絡みついて、まるで血みどろの煮こごりの中を漕いでいるみたい。
海面が赤く染まって見えるのは、あながち夕焼けのせいだけじゃない。
■
ん……?
なんか足許にタプタプと赤い水が溜まってきてるんですけど。なにこれ浸水?
手で掬ってパシャパシャ掻きだしても掻きだしても、どんどん増水する一方で一向に減らないし。
ちょっと! 百兄ィも手伝ってよ。
もう! お腹からなんかいろいろだしてる場合じゃないよ。
っていうか? あたしも結構でてるかー。
アハハ!
でも大丈夫。
絶対に帰れるから。
あの高円寺の小汚いコーポに。
それでさ、あたし思うんだけど。
ちょっとマジメに学校とか通ってみようかなぁ……なんて。
帰ったら誰か《MAD》関係の人に頼んでみてくれないかな? ほら、戸籍とかいろいろ面倒だし。だから裏口的なルートでスルスルっと入り込んでね。
なんだか、そういう普通の中学生……? みたいなことを経験してみるのも悪くないんじゃないかなって。
だってさ。
あたし、まだたったの15年しか生きてないんだよ。
でさでさ。
とりあえず学校いったとするじゃん? ガッコー。
あたし、自己紹介するんだー。
「ただの人間には興味ないし。この中に連続殺人鬼/レイプ魔/食人族/屍体性愛者/ペドフィリアがいたら、あたしのところに来なよ。
このザクロ嬢さんが手ずから残虐に殺してあげるからさ」……ってね!
■
……って、百兄ィ! ちょっと聞いてんのー?
せっかくマジバナしてんだから、ちゃんと聞きなよね。
っていうかさ。
あたしたちだって、もう兄妹の振りなんかしなくったっていいんじゃないかなぁ。
そしたら。
今まで、できなかったことだって、いっぱいできるよ。
みんなが当たり前にやってる、いろんなことをさ。
きっと好きなだけ、できるんだよ。
え? なんなの?
あたしが、こんなに気恥ずかしくも
聞いてんの?
聞いてんの?
聞いてんの?
聞いてんの?
聞いてんの?
もちろん聞いてるよね。
嬉しい?
嬉しい?
嬉しい?
嬉しい?
嬉しい?
やっぱ嬉しいんだ。
アハハ! そんな照れちゃって。
もう、顔真っ赤だし。
っていうか、いろいろ赤すぎでしょ。
あたしの視界も真っ赤だし、頭の中でもボウッと赤い霧がかかってきてるし。
■
暗幕を落としたみたく、ぷっつり急激に訪れる夜の
月も星もでてないのか、ひどい真っ暗闇だった。
それでも手探りで探す。
手を伸ばして――指先。そっと触れる。
探り当てた百兄ィの身体にしがみついた。
ぎゅうっと抱きしめる。
もっと強く強く――抱きしめる。
ここにいるから。
あたし、ひとりじゃない。
あたしたち。
もう、ずっと一緒だよ。
それなりに同じ部屋で暮らしてきたけどさ。
こんなふうに、ふたり並んで寝たりするのって初めてだよね。
じゃあさ、初めてのついでに。
おやすみのチューしちゃお。
チューって。
おやすみ、百兄ィ。
おやすみ――。
いい夢を見ようね。
ふたりで一緒の夢を。
――chimidoro dead【END】girl――
血みどろデッドエンドガール 〜血死吹ザクロの虐嬢〜 暮逆 京助 @kuresaka
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