第7章──この先も、あなたのマネージャーでいるから。
収録がすべて終わったスタジオには、ゆるやかな空気が流れていた。
カメラの赤いランプが消え、照明も落とされたその中で──
千代は、マネージャーの隣で目を閉じていた。
その顔には、安心しきった笑みが浮かんでいる。
つないだ手があたたかい。
高梨あかりは、そっと息を吐いた。
思えば、最初は裏方でいるつもりだった。
彼女の隣に立つ資格なんてないと思っていた。
だけど──
「千代ちゃん、ひとつだけ、言わせて」
千代が目を開けて、ゆっくりとこちらを見上げる。
その目はまっすぐで、どこまでも澄んでいた。
「あなたは、すごく強くて、ずっと前から誰かの心を動かす力を持ってて……
でも、そのぶん、自分がどれだけ無防備か、気づいてない」
あかりは笑った。少しだけ、寂しさと、誇りを込めて。
「だから、私がちゃんと見てる。あなたが無理しそうなときは止めるし、迷ったら支える」
千代の手が、少しだけ強く握られる。
「あなたが“推しマネ”って言ってくれたこと、私はもう仕事以上の覚悟で受け止める」
そして──
「だから、私は最後まで、あなたの面倒を見ます。
どんなに有名になっても、どれだけ遠くへ行っても、
あなたが“朝霞ちよる”である限り、私は“あなたのマネージャー”です」
千代は、しばらく黙っていた。
けれど次の瞬間、彼女はそっと灯の首に腕を回し、抱きついた。
「……うん、あかりさん。ずっと、わたしの隣にいてね」
「もちろん」
スタジオの外には、これからも変わらず喧噪が続いていく。
配信があり、リスナーがいて、日々がある。
けれど、その中心には──
「推し」と「マネージャー」ではなく、「ちよる」と「灯」というふたりの人間が、
確かに手を取り合って、未来へ歩き出していた。
『#声恋』 鈑金屋 @Bankin_ya
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