第6章──マネージャー反撃回“恋の攻守”は抱きしめたときに変わる

 「えっと、今日はちょっとだけ、私からお話があります……」


 配信開始の3分後。

 画面には、たかなしさん──あの事件以来、視聴者に“昇天マネージャー”とまで呼ばれた高梨ひかりが、真面目な顔で立っていた。


 その隣には、千代。

 定位置の笑顔。でも、今日は少しだけ、視線を泳がせている。


 「わたし、前回……気絶しちゃって……」

 

 「はい、キスで倒れました」

 

 「ちよるちゃん!? そこ繰り返さなくていいからっ」


 コメント欄はすでにお祭り状態。


《気絶姫きた》

《昇天再来》

《再戦!?再戦!?》

《今日も胃薬案件》

《かわいすぎて死ぬ》

《それで今日は何?反撃するの?マネージャー?》


 そして──マネージャーは、ゆっくりと言葉を続けた。


「わたし、ずっと……誰かを好きになるって、よくわからなかった。

 仕事して、締切とスケジュールのことしか考えない毎日で……。

 でもちよるちゃんと出会って、少しずつ、心が揺れていって……」


 千代の目が、少し見開かれる。

 マネージャーのモデルが、一歩、近づいた。


「まだ、うまく言葉にできないけど……でも、ちゃんと、気持ちはあるの。

 だから──今日は、私から……!」 


 ぎゅっ


 マネージャーの両腕が、千代の肩に回される。

 まるで、ぎこちない子どものような、それでもまっすぐな抱きしめ方だった。


 配信が、一瞬、静まった。


《……あ》

《あ》

《あ!》

《あああああ!?》

《えっ、えっ、今、抱き──!?》

《まって心臓痛い》

《マネージャーから!マネージャーからいったぞ!?》

《えらい、えらいよ……!》

《かわいいしか言えない》

《これは“反撃”じゃなくて“初恋”》

《マネさん恋愛経験、小学生止まり説、泣ける》


 そして──

 千代が、マネージャーの肩越しに、そっとカメラを見て


 ピース。内緒の、唇にそっと添える小さなピース。


 満面の笑みで。


《あ……》

《あああ》

《あああああああああああ》

《小悪魔……》

《手のひらで転がされてるのは我々》

《あざといけど許す》

《なんでそんな無自覚顔でこっち見んの……》

《好き……》

《ちよるちゃん、怖い。でも好き》


 配信は、幸せすぎる空気のままフェードアウト。

 その夜、


 #マネージャーから抱きしめた

 #小悪魔ピース

 #推しマネ尊い


 が同時トレンド入りし、

 再びV界隈を揺らす夜となった。


 ──ただし、抱きしめた直後のマネージャーは控室で


「……ああああもう……もう無理……しばらく仕事休んでいい……?」


 と、顔面真っ赤で崩れ落ちていたという。

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