薔薇の花びら

月乃 レイ

薔薇の花びら

 その日は皮肉ながら土砂降りで、君が不機嫌そうな顔を浮かべていたのを覚えている。


「雨ってさぁ、みんなきれいな水だって言うけど、俺はそう思わないんだよね」

「どうして?」


僕がそう聞くと、君はいつも浮かべる得意げな表情をした。


「水って何回も同じ水を循環してるって知ってた?恐竜の時代からだよ?!一体誰の何が入っているかわかんないじゃん!」


そんなこと考えたこともなかったな、と意外な豆知識に少し感心してしまう。いつもふざけたり、下ネタばっか言ってる君が、掛け算も危うい君が、このような豆知識を知っていることが不思議だった。


「ふーん、君からそんなこと聞くとは」


君はふてくされた表情で「なんだよ」と軽く濁した。


放課後の午後4時、教室の中は雨の匂いでいっぱいだった。

君の机の上に飾ってある。白色の薔薇は、今日も影を落としている。


「急に静かになるじゃん。てかもう4時かよ!俺、バイトあるから行くわ!」


その生き急いでるような眼差しで外を向きながら、君は扉までそそくさと歩いて行ってしまった。


「オッケー。じゃあね」


君が教室から出た後、机に置いてある白いバラの茎をパキっと降り、教室を後にした。

もう戻ることのない教室の中黄昏の庭に体を預け、夕暮れの中に溶けていった。





その日は、あの日と打って変わって晴れていて、これもまた火抜きなのだと感じていた。


綺麗で丁寧な服を着た君に、「似合ってないなぁ」と笑えたのだろうか。

君のことをずっと忘れぬように、せめて瞬きの間、その顔を目に焼き付ける。

君とはもう会えないんだ、という事実に苛まれてしまわないように。


花の匂いがツンと鼻の奥を刺激し、君の後ろで白い花びらが落ちたのをみた。

それは僕らが大好きで、大嫌いな、白い薔薇の花びらだった。



バラの花びらも剥がれるように、僕らの命は尊いものなのだ。


君が紡いだその生命が、大切であればそれでいい。


辛いのは君なのに、苦しいのは君なのに、先にこの世の裏側へ行くのは僕だった。



笑えるよね。

君が僕が死を選んだ理由は、一生、わからないだろうから。笑いながら考えておいてよ、僕も、考えておくからさ。

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