どうか、その火が消えてしまわぬうちに

霧原いと

この世とあの世を繋ぐ道

 線香の煙が真っ直ぐ立ち上っている。


「ねぇ、覚えてる? あんたが幼稚園の頃、私にプロポーズしたこと。

 タンポポつんで来て、お嫁さんになってくださーい、ってさ!」


 早苗は悪戯っぽく笑い、感慨深そうに続けた。


「そんな隼人が、まさか結婚とはね」


「時の流れって言うのは、早いもんだよな」


 隼人は困ったように俯き、それでも幸せを滲ませるようにはにかんだ。


「でも、お前が背中を押してくれた気がしたんだ。

 彼女とデートした公園で、沢山のタンポポの綿毛が空に舞い上がった時に。

 俺も前を向いて、未来を生きろって言ってもらった気がした」


 隼人は仏壇に飾られた早苗の写真に向かって、とつとつと語る。

 二人の間に会話は成立していない。

 

 隼人の声は早苗に聞こえるけれど、早苗の声は隼人には届いていない。

  

「あんたって昔から、本当に鈍感だったよね。

 お人好しで、私の気持ちなんて、何にも知らないで……」


 それでも、早苗は言葉を止めることは出来なかった。


「……やめてよ、その結婚」


 そして、そこでお終いになった。

 まだ長く残っているはずの線香の火は消えて、早苗の世界は暗闇に包まれた。


 死人も涙を流すのだろうか。

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どうか、その火が消えてしまわぬうちに 霧原いと @kirihara_ito

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