29「キス十八回目〜キス二十一回目。ポニーテールメイド奮戦記そのニ」


★☆


八月四日


 取り引き二十回目


 ランチの時間帯だから鬼忙しいが会長は涼しげな面持ちで縦横無尽に職務を全うしていた。

 経験値が高い俺でもしんどいのによくやるよと感心。


「会長、今日でバイト四日目だな。ほい、オムライスセットおまち」

「そうなのか? 毎日が忙しくて忘れてしまいそうだ。四番卓、マスターの気まぐれランチ一つ」

「はいよ。少しは慣れたか?」

「どうだろうか。責任のある仕事だから手が抜けない。六番お会計お願いします」

「承知しました。無理するなよ」

「君の経験談か? いらっしゃいませ! 何名様ですか?」

「そうだ。あんまりテンション高めだと疲労が溜まりやすい。腐ったりんごブレンド上がったぞ」

「なら先輩の顔を立てて考慮しよう。了解」


 お客様をテキパキさばきながらも表情は変えず、口パクか小声で会話を続ける俺達。互いに接客業の経験があるから出来る荒業だ。


「アップルジュースとりんごのタルト準備完了。サラダの盛り付け済んだぞ」

「分かった。ありがとうございました。またのご来店お待ちしております」


 それにしても会長はよく動く。空いたテーブルを拭いていると束ねたポニーテールがゆらゆら揺れていた。生徒会活動の時もそうだが疲れを知らないのか?

 しかし荒い息と汗がただの痩せ我慢だと察する。


 飛ばしすぎ、バテるぞと警告するも聞く耳を持ってくれない。給仕業務はマラソンと同じでペースを制御しないと後に影響してくる。

 案の定、後半から速度が半減。

 それでも会長は弱音を吐かず作業をこなす。プライドが高いというか強情だ。

 俺は本人にバレないようにサポートする。折角頑張ってくれているのに、やる気を削ぐ行為は今後の信頼関係に影響するからだ。


「だいぶ客が途切れてきた。中々激戦だったぜ」

「そうだな」

「ほれ、おつかれさん。アップルジュースだ、これでも飲め」

「神無月ありがとう」


 疲労が溜まっているのか口数は少ない。さもあらん、一杯頑張ったからな。

 俺は思わず頭を撫でた。お竜を褒める時の癖がでる。

 拒絶されると後悔するが意外にも受け入れてくれた。きっと怒る気力もないに違いない。


「あんまり無理するなよ。夏休みはまだなが——」


 それでも、「神無月、今日の分だ。受け取ってくれ」会長は俺の頬へキスをする。


「今日は別にしなくてもいいだろ?」

「そういうわけにはいかないぞ。自分の疲労を言い訳にしたくない」

「面倒なやつだ」

「自分でもわかっているが、性分なんでやめられないのさ」


 今日はさすがにキスはないと思ったが、律儀な会長が忘れることもなくノルマをこなす。疲労困憊なのによくやるよ。


★☆


八月五日


 取り引き二十一回目。


「今日は凄まじかったな。体力には自信ある僕でもお客さんが途切れないから息つくこともできなかったよ。人気店は伊達じゃないか」

「ああ、中々の客入りだった。駅前通りだけあって、持ち帰り販売もやっているから夏の快晴だと混む」

「客入りの予想が外れて稼働スタッフ少なかったのに神無月は余裕だったぞ」

「そうでもない。かなり焦ったぜ」


 会長と仕事の帰り道を共に歩く。激務から開放されてもまだ高揚。互いにテンション高めなのでスキップでもしそうだ。


「ふふふ」

「どうした? やけに上機嫌だな」

「いや、また君の面白いところを発見した」

「何か変だったか?」

「子供が苦手だったとはな。泣かれてあんなにオロオロした神無月は微笑ましかった」

「ガキの頃からぼっちだったからどうやって接すればいいか戸惑っただけだ」

「そういうことにしておこう。ふふふ」

「ちっ、勝手にしろ」


 会長は上機嫌だ。よほどオタオタする姿が滑稽だったのか。


「イッショウケンメイニ、コドモヲアヤススガタハカッコヨカッタゾ」

「なんかいったか?」

「なんでもないよ」

「そうかよ」


 俺は体裁が悪いからたい焼きを買い口止め料として渡す。それがまた可笑しかったらしく腹を抱えて笑っている。


「神無月、君は面白い。でも一つだけ不満があるぞ」

「どうした会長?」

「それだ。バイトなのに会長はないだろ?」

「そうか?」


 言われてみれば、他のバイト仲間とはもっとフランクに呼び合っている。幾ら慣れているからといって学校内の名称はおかしいか?


「ああ、君が平気でも僕は恥ずかしい。お客さんが一回一回僕の顔を確認するのは勘弁してもらいたいのだ」

「ならなんて呼べばいい?」

「おとちゃんはどうだろう、なんなら乙環でもいいぞ」

「難易度べらぼうに高いわ。先輩でいいじゃないか」


 無難なチョイスだが会長は不満そうだ。びっちりあんこ入っているたい焼きの尻尾を口へ入れながら眉間にシワが寄る。


「それだと君のほうが先輩なのに違和感ある。第一周りにも示しがつかないだろ」

「なら鹿伏兎さん」

「苗字は堅くて好きじゃない」

「譲歩して乙環さん」

「ふむ……仕方ない。もう一声といきたいがそこらへんで手を打つか」

「そうしてくれ」


 乙環ちゃんとかは勘弁してほしい。それでなくても美少女の会長は注目度高いのに、学園の奴らへフレンドリーに呼び合っていることを知れ渡ったらまた変な噂が蔓延する。それだけは絶対に避けたい。

 

 ちなみにキスされるとあんこの香りが漂っていた。

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俺をNTR系チャラ男と勘違いして上官口調の僕っ子生徒会長があからさまに口止め料のキスを毎日してきて困る。しかも月日と共に愛が重い通い妻化してメチャ可愛い 神達万丞(かんだちばんしょう) @fortress4

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