姉と食べる深夜の背徳カップ麺
夕雲
姉と食べる深夜の背徳カップ麺
草木も眠る
私は夜中にもよおしてトイレへと駆け込んだ。
「ふうぅ〜……すっきり」
用事を済ませたあと、私は再び寝室へと向かう。
そんな時だった。
リビングの方で気配がした。
脳裏に先ずよぎったのは泥棒の存在。そして数コンマ遅れてのオバケ。
どちらにしても私の目は一瞬で覚めてしまい、ゴクリと生唾の音が身体に響いた。
気づいてしまった以上は確認しなければならない……しかし、一歩踏み出すことに数秒の時を要してしまう。
ギシリという床を踏む音が鳴らぬよう、それこそ泥棒のような抜き足差し足で私は一歩一歩と歩を進めた。
神経が研ぎ澄まされていく中、私はリビングを恐る恐る覗き込む。するとそこには何かを啜る姉の姿があった。
「……ん?」
姉が振り返り私に気づく。
安堵の中、心が軽くなっていく感覚が私にはあった。
「……お
「…………」
姉は何を言うまでもなくズズズと音を鳴らす。
漂う匂いと共にそれがカップ麺だと気づいたのは数秒遅れてのことだった。
「……何食べてんの」
「カレーのやつ」
「もう深夜なんだけど」
「お腹……空いたから」
姉は素っ気なくそう答えた。
漂うカレーヌードルの香りが私の程よい腹の中を刺激する。
「ちょっと頂戴」
「やだ」
「ケチ」
「まだ棚にあるからそれ食べたら」
「1杯は多い」
「余ったら食べたげる」
姉に促されるまま私はカップ麺……というか色々なものが乱雑に入れられた棚を開け、その中を物色していく。
「……カレーないじゃん」
「うん。これが最後だったし」
「ええ〜……カレーの口なんですけど」
「知らない」
仕方なく私はじん兵衛(緑)を取り出し、湯を沸かす。
湯が湧く間私は姉の前に座りただその姿を眺めていた。
「何?」
「別に」
姉を見つめる私を姉は不思議そうに見つめ返していた。
……深夜に起きてカップ麺を貪る姉。それだけ聞くとなんともダメな存在と思えるが……むしろ逆だ。
姉は高校の部活のソフトボールで最優秀賞だかなんだかを貰っていた。夕食も母に頼みあまり脂質が多くないものを望んでいるしトレーニングも欠かさない。普段はむしろ節制していると思う。
対する私はというと部活には入らず帰宅部だ。
普段だっていつもスマホを弄りながら寝転び怠惰の限りを尽くしている。時には母にお姉ちゃんを見習いなさいなんて言われたりもしていたり。
勉強も私と姉とでは全然違う。
この前のテストだって姉は全教科平均よりも上だったのに対し、私は赤点ギリギリアウトだ。
文武両道の姉、私はそれに対して別に劣等感は覚えていなかった。
姉は姉で私は私だし。そんなの個人の差でしかない。学年だって違うし。
……それでも中学のいつからか次第に会話は減っていったような気はする。不仲ではない……と思う。それでも姉はなんとなく違う世界の住民だなと内心思い、いつの間にか学校はおろか家でも会話は少なくなっていた。
「……」
そんな姉は目の前でカレーの匂いを満遍なく散らしながらズズズと音を奏でていく。
姉のだらしない姿を見たのはいつ以来だろうか……私は勝手に距離が縮まっているような感覚に陥っていた。
「……最近どうなの」
「何が?」
「学校。楽しい?」
姉は唐突に口を開き問いてきた。
面をくらいながらも私は言葉を返す。
「まあ……ぼちぼち」
「そ」
「……お
「あたしもぼちぼち」
「県大会出場決まってなかった?」
「うん」
「それでぼちぼちなんだ」
「うん。……お湯湧いたよ」
「あ、うん」
私は火を止めて熱湯をじん兵衛へと流し込む。
あとは5分待つだけだ。
「……なんで急にそんなこと聞いたの?」
「アンタと最近話してなかったから」
「そうだっけ……」
覚えがないように私は答えるがその通りなことを何よりも私は知っている。
「そうだよ。だから聞いたの」
「聞き方が不器用なお父さん風だった」
「そう? じゃあ新聞でも読んで顔を隠そうか」
「ぷふっ」
素知らぬ顔でふざける姉に私は思わず吹き出してしまった。
「てか……お
「うん。全然大丈夫じゃない。コレステロールダメかも」
「じゃーなぁんで食べてんのよ」
「んー……なんとなく。なんだか無性に食べたくなっちゃった」
「ふーん……それでどうだったの?」
「罪悪感ヤバい」
「じゃあダメじゃん」
「ダメだった」
気づけば私は姉と言葉を交わし続けていた。
内容に中身はなく、到底思考を介しているとは思えないことばかりの会話。そんな生産性のない会話が心地よかった。
「5分たった」
私がじん兵衛の蓋を捲ると暗闇の中に白い湯気が立ち昇った。
「お
「食べきれないの?」
「ちょっと不安。分けてあげる」
「優しく貰ってあげましょう」
姉はカレーヌードルに使っていた箸をそのままじん兵衛へと突っ込んだ。
「あ、カレー味になるじゃん」
「カレーの口だったんだしいいでしょ」
「ミックスは無いわ〜……」
私はそういいながらも同じように箸をつける。
私達は隣合わせで口へと運んでいくのだった。
「「うまっ」」
姉と食べる深夜の背徳カップ麺 夕雲 @yugumo___
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