かえるのこはかえる

嬌乃湾子

かえるのこはかえる



私は今、家と実家の間にあるH神社に来ていた。


H神社に来たのは独身の時以来だなぁ。今は夫が余りいろんな神社に詣ると神様が喧嘩するからと、夫が参拝するO神社だけをお参りするようになったから。


神聖なH神社の境内を思い詰めた顔で歩きながら、何かを思うと駐車場に停めた車に戻る。


そしてスマホを手に電話をかけた。


「どうした、侑子、何かあったんか」


電話をかけた先は母で隣に父もいる。


「旦那に出て行けって言われたんや」


「えっ!?」


電話越しのカミングアウトに母は驚いた声で叫んだ。


「大丈夫か?今どこに居るんや」


「H神社の駐車場‥‥」


「とりあえず家に来なさい」




心配な声で尋ねる母に私は躊躇する。


結婚して数年。坂見侑子となってからは夫に「お前はもう坂見の人間だと言われ実家に行く回数は減った。

偶に会うと「侑子はお客さんだから」と持て成されるようになる。


馴染みのない土地で生活するも両親の悪い所ばかり似る私は不器用で、細かい性格の夫と家の事で口論になる。

「ここは俺の家だ」

「じゃあ出ればいいのね」

「ああそうしろ」

‥‥そんな些細な理由で思わず家を出た。


私は「戻る場所なんか無い」と電話越しに糸が切れたように涙を流した。


無能感に苛まれた私にとにかく帰って来なさいと宥める母。

その言葉は嬉しかったしその方が良かった。しかし私は余計な面倒をかけさせたくないと、またかけると言って電話を切る。



『そういえばご飯炊かなきゃ』

かまってちゃんだった私は母に電話をして何故かすっきりすると、思い出したように神社から離れた。




「思ったより早かったな」


家にいた夫は帰ってきた私に一言言う。私は黙ってご飯を炊いていた。


暫くするとスマホの着信が鳴った。


父からで私は家に戻ったと言うと安心したが、聞いていた夫が後ろで何か喚いてたので電話を変わる。


「あ、おとうさーん?尚志ですー」


明るく対応する夫に父は思い切った声を出した。


「あんちゃん、侑子に出て行けって行ったんか?」


「あいつがへましたのをちょっと強く行ったら出て行ったんですよ」


「侑子も悪いけど、一緒に暮らすのなら仲良くやろう。これから先、長いんだぞ」


「‥まあ帰ってきた事だし」


昔は喧嘩ばかりしていた父だが遠方で頑張ってる私を理解し説得してくれたのだった。



その夜二人は布団の中に入り互いの温もりを感じる。

かえるの子はかえるだけど、両親のように自分なりに過ごす日々。今年もO神社へお詣りしよう‥‥

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

かえるのこはかえる 嬌乃湾子 @mira_3300

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ