時空カメラ
川北 詩歩
どう見ても怪しいカメラ
小林順一、32歳、独身。職業は地味な会社員、趣味はネットサーフィン。ある日、怪しい通販サイト「damason」を見つけ、目に飛び込んできたのは「時空カメラ・未来も過去も撮れる!送料無料!」という胡散臭い広告だった。
価格はたったの980円。あまりの安さに、順一は「どうせ詐欺だろ」と笑いながらポチッと購入ボタンを押した。
三日後、届いたのはボロボロの段ボールに包まれた、まるで昭和のインスタントカメラのような物体。説明書は一枚の紙切れで「ピントを合わせてシャッターを切るだけ!時空を映します」とだけ書かれている。順一は半信半疑でカメラを手に取り、試しに部屋の壁に向かってシャッターを切った。
カシャッ!
その瞬間、カメラから吐き出された写真には、驚くべき光景が映っていた。順一の部屋、だがそこには見知らぬ家族が住んでいる。子供がソファで跳ね、母親らしき女性がカレーをかき混ぜている。…日付は2035年3月15日。10年後の未来だった。
「うそだろ…マジで未来!?」
順一は興奮で震えた。これはただのカメラじゃない。時空を切り取る本物の「時空カメラ」だ!
* * * * *
翌日、順一は会社で同僚の山岸にこの話を自慢げに披露した。山岸は「バカバカしい」と笑ったが、興味津々でカメラを借りにきた。山岸は自分のデスクでシャッターを切り、写真を手に取ると顔が真っ青になった。
「やばい、順一…これ、俺、10年後ハゲてる…しかもリストラされてるっぽいぞ!?」
写真には、草臥れた薄毛の山岸が公園のベンチでうなだれている姿が映っている。
順一は大笑いしたが、山岸は本気で落ち込んだ。
「こんな未来嫌だ!変えるんだ!」と叫び、彼は会社で猛烈に働き始めた。
すると数日後、山岸が「上司に認められた!昇進の話が!」と喜び勇んで報告してきた。まさか…時空カメラの写真が未来を変えた?
調子に乗った順一は、カメラでいろんな場面を撮りまくった。自分の5年後の写真には、なぜかハワイで美女とデートする自分が。
20年前の写真には、幼い自分が公園で泣きながらアイスを落とす姿が映っていた。「過去も撮れるのか!」と感動し、順一はさらなる実験を試みた。
* * * * *
ある日、近所のコンビニで「カシャッ」。写真には、10分後のコンビニ店員がレジでお釣りを間違えて客ともめる場面が映っていた。順一はピンときた。
「これ、未来を修正できるチャンスじゃん!」
順一はすぐコンビニに駆け込むと店員に駆け寄る。
「今から10分後、お釣り間違えるから気をつけて!」
店員は怪訝な顔をしたが、10分後、本当に客が来て、お釣りを渡す前に店員が気づき、ミスを回避。客は笑顔で帰っていった。
「俺、ヒーローじゃん!」
順一は有頂天になった。しかし、調子に乗るとろくなことがないのがお約束。
* * * * *
ある夜、酔った勢いでカメラを手に街へ繰り出した順一は、繁華街でカシャッ。出てきた写真には、1時間後の自分がパトカーに乗せられている姿が!
「え、逮捕!?何!?」
慌てて写真をよく見ると、背景に「飲酒運転取り締まり中」の看板が。
「やばい、飲酒運転なんてしてないのに!」と焦る順一。
よく考えたら、さっきビールを3杯飲んだ。運転はしないが、酔っ払って何かやらかす可能性は大いにある。順一は急いでタクシーに飛び乗り、家に直行。無事にトラブルを回避した。
その後も、時空カメラは順一の生活を激変させた。
会社のプレゼン前に未来の失敗を予見して修正したり、友人の失恋を未然に防いだり。
しかし、カメラのバッテリーがみるみる減っていく。説明書の裏に小さく「使用回数100回で自動消滅」と書かれていたことを、順一は最後の10回で気づいた。
「あと10回か…大事に使わなきゃ」
順一は真剣に考え、最後の1枚で自分の老後を撮ることにした。
カシャッ
写真には、70歳くらいの自分が、家族に囲まれ、笑顔で庭でバーベキューする姿が映っていた。
「よし、この未来なら悪くない!」
順一は満足げに頷いた。
次の瞬間、カメラは光と共に消滅した。順一は少し寂しくなったが、未来は自分で切り開けることを学んだ。時空カメラは消えたが、順一の冒険心は消えなかった。
そして、怪しい通販サイト「damason」には、今も新しい怪しい商品が並んでいるらしい…。
(終)
時空カメラ 川北 詩歩 @24pureemotion
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