憧れのパレード

森陰五十鈴

叶えた夢は

 北の村に現れたドラゴンの討伐隊の一員に選ばれたと聞いて、カインの心は浮き立った。思い出すのは、十年前に城下町の大通りで行われた騎士のパレードだ。ドラゴンを倒した英雄たちの姿に憧れて、カインは騎士を志した。十六になってようやく夢を叶えたが、ドラゴンの討伐なんて大仕事はしたことがなかった。

 この仕事が終わったら、あのときのようなパレードが行われるかもしれない。そして自分がその主役になるのだと思うと、期待に胸が膨らんだ。

 早速向かった北の村は、まだ大きな被害は受けていないようだった。けれどドラゴンは、たびたび村の近くまで来ているという。村人たちの騎士への期待は大きなものだった。

 ところが、その中に一人だけ、騎士たちを睨み付けている娘がいた。睨まれる心当たりがなかったカインは、娘に理由を尋ねた。

「だってあなたたち、ドラゴンを殺しに来たのでしょう?」

 リボンで髪を纏めた娘は、そう言ってカインを睨みあげた。

「何も知らないくせに、なんてひどい人たち」

 しかし、カインは娘の言葉に納得ができなかった。

「僕たちのどこがひどいものか。ドラゴンは村の人たちを困らせているのに」

 ドラゴンは暗い森の中を住処にしていた。からだは小さな家ほどもあり、そのうえ鱗は瓦のように硬かったので、騎士たちは苦戦した。それでもなんとか、ドラゴンを倒すことに成功した。

 騎士たちは、ドラゴン退治の証に鱗を剥がして持ち帰ることにした。

 鱗を剥がしている最中、カインはドラゴンの爪にリボンが巻き付けられていることに気がついた。カインは村にいたあの娘を思い出し、リボンをポケットの中に入れた。

 騎士たちが村に戻ると、村人たちは大喜びで彼らを迎えた。けれど、やはりあの娘だけは、騎士たちを睨み付けていた。

「あの子は友達だったの」

 カインの持つリボンを見た娘は、涙を流した。

「村には、私に会いに来ていただけだったのに」

 リボンは、彼女が友情の証にドラゴンに贈ったものだった。

 騎士たちが城に戻ると、ドラゴン討伐を祝した凱旋パレードが行われた。しかし、ようやく憧れのパレードの主役になれたというのに、カインの心は沈みきっていた。

「僕たちのしたことは、正しかったのかな」

 パレードの歓声は耳に入らなかった。ただ、娘の涙ばかりが思い出され、カインは自分のしたことに胸を張ることができなかった。

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憧れのパレード 森陰五十鈴 @morisuzu

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