第6話 決着

傾場かぶきばは攻撃の度に壁を破壊していた。長身の男、早川は傾場の攻撃を全て躱す。


「シュー、シュー」


傾場は体から音を鳴らしている。


「ドン」と音をたて、傾場は早川にタックルを仕掛け、そのまま壁を破壊し外へ飛び出した。


早川は驚きの声を漏らした。どんどん速くなっている。それに、攻撃の度に威力が上がっている。早川は攻撃を交わし続けていた。なぜなら、避けなければ確実に死ぬから、そして、反撃の隙を見つけられないから。

早川は加速し続けている。だが、傾場はそれ以上だ。


冷や汗とともに、早川はひとりごちた。


「あんまりやりたくないんだけどなぁ、足パンパンになるし。まぁ死にたくないし、仕方ないよなぁ」


早川は続ける。


「"加速"」


早川は加速した。加速する速さを。


「ドン」と空を蹴り、傾場は早川に攻撃を仕掛ける。

が、蹴り飛ばされた。


「ドサ」と2人は地面に打ち付けられた。

早川はそのまま地面に横たわった。傾場ももう動いていない。


*********************


一方、生徒会室。


「さて、こっちもろうか」


千曲川ちくまがわはにやりと口角を上げ、気味の悪い笑みを浮かべた。


「パチン」「パチン」「パチン」


千曲川は指を弾いた。


「バチバチ...バチバチ」


「バン」「バン」「バン」


火花が爆発し、それを廿日市が吸収する。何度も応酬が続く。


「廿日市」


珈が廿日市に目配せする。


「"発火"」


廿日市の声とともに「ボン」という巨大な爆発が起こり、生徒会室の半分が消し飛んだ。


「ボン」


「ボン」


「ボン」


まだ爆発を続けている。


「"不確実な未来の悪意ある改編スペシャルアドバイザー"」


千曲川がそう言うと同時に指を弾いた。


「パチン」


指先から火花が現れ、「バチバチ」と音を立て、次第に大きくなっていく。


「ボン」


火花は巨大な炎となり、爆発した。

そして、生徒会室を灰だらけにした。


運悪く、珈の側近の男、真黒まぐろが爆発に巻き込まれ意識を失った。


なぜ?


その言葉だけが廿日市の脳内を駆け巡った。

装置の故障?なぜこんなタイミングで?メンテナンスはしていたはずだ。装置は丈夫だし、そもそも完成したばかりで新品に近かった。ちょっとやそっとで壊れるなんて、考えられない。


千曲川はわざとらしく服を払い、「煤まみれになっちゃった」などと言う。


「″toiletteトワレ″」


服を払ったそばから、クリーニングにでも出したかのような新品同然の服へと姿を変えていく。こころなしか、きれいな空気が漂っている気もする。


珈は怒りを隠そうともせず、周りにあたる子供のような声色で言う。


「そんな魔術を使う余裕まであるんだすごいねぇ。さすがに一線は超えちゃいけないって、そう思ってたのに。なのに....我慢できなくなる」


珈は呟いた。


「"白線"」


途端、消し飛んだ教室の半分を埋め尽くすように大きく白い物体、飛行機が突っ込んできた。


「片付けがめんどくさいなぁ。千曲川も今ので死んだし。要求は残りの生徒会役員にのませるとして、新生徒会長は...風紀委員から出そうかな」


めんどくさい、なんて言葉とは裏腹に珈の声は嬉々として弾んでいた。


「"コンティニュー"」


どこからともなく聞こえてきたその声は千曲川のものだった。命どころか体すらまともに残っていないはずの男、喉すら残さずに死んだはずの男、千曲川棘。


「パリン」


そんな男が飛行機の窓を蹴破って現れた。


「どんな魔術だよ?」


珈は天を仰ぐ。

千曲川はそんな珈を鼻で嗤うような声で言う。


「魔術じゃないよ。僕の思春期症スペシャル。」


「そんな...さっきの、装置が故障したやつだって思春期症でしょ?どうなってんのよ」


「能力がひとりひとつなんて、誰が決めたんだ?」


「今、わたしが決めたわ。それと、あなたのは没収よ」


そこには傾場がいた。


「″沈黙″」「″切迫″」「″opus″」「″ひざまずけ″」「″知″」「″アカシア″」「″奪取″」「″*″」


傾場は突然いくつもの魔術を唱えはじめた。


「や、やめろ」


千曲川だけはその意味を理解できたらしい。目を見開き、歯をガタガタと鳴らし、引きつった顔で怯えている。


「″死ね″」


千曲川は動かなくなった。


新生徒会が樹立したのはそれから数日後のことだ。その頃から、学校ではクーデタが何度か起こるようになった。


そして、傾場は姿を消した。最後に口にしていた言葉は、"世界図書館"だったと思う。

思うと言うのは、最近は妙に記憶が薄れてきているからだ。


*********************


傾場は果てもない図書館の中でぶつぶつとひとりごちていた。聞く相手もいないのに、そんなことをするのは寂しさからだろうか。

何にせよ、傾場はひとり、世界を見つめているのだ。図書館にある、本を通して。


「よし、思春期症スペシャルはもうなかったことにしちゃおう。先代の気まぐれで随分おかしなことになってしまったしね」

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国立大蔵学舎の異能の教室 羊飼い @H1tsuj1ka1

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