第4話 翼
位置・時間・環境・触媒・法陣・詠唱。
”魔術”という
それは、とある者達を深淵へと駆り立てる。
人々は、彼らを”ウィザード”と呼んだ。
アヴメフ期1000年。
世界は、悠久の平和を謳歌していた。
世界には2つの国しかなく、その間に争いは無い。
人の魔術を得意とするアヴァケロン王国。
機械の魔術を得意とするメフィスト王国。
違いはあれど、互いに歩み寄りながら進んできた。
しかし、そんな平和は長く続く筈がなく……
【アヴメフ期1015年・セイライ海峡】
避難用ってよりかは、観光用っぽく見えるな、この船。
そんな豆腐な感想をポツリと呟き、改めてこの船を見る。
木造りのしっかりとした通路には何処かの景色が描かれた油絵が1枚置かれている。
たった1枚のその絵は、この船の中にあっても美術館と錯覚させる出来栄えだ。
農夫が振り上げた鍬が天を割くようにして描かれ、雲がそれに続く。
濃淡のはっきりしない、捉えどころのない作品。
一瞬見惚れ、瞬きし、また見惚れる。
そんな事を、少しだけ繰り返した。
でもそれは長く続かない。
ハイリーがこの先で、待っているから。
少しずつ進んでいくと、しんと静まり返った先頭に着く。
不思議なことにさっきまでの軋む音が無くなっていた。
ラウンジのように開けているわけではなく、少し広めの外付けの通路みたいなものだ。
ここは船の2階だからか、一階の広場がよく見える。
北から吹く風が、無慈悲にも僕の体温を削っていく。
さて、ハイリーは何処に言ったのやら。
等間隔っぽく置かれたパラソルは下の甲板に何個もある。
人が一人も居ないのが不自然だが、朝早い時間だから当たり前か。
しかし僕のそんな他愛ない思考をぶっ飛ばすような声が飛ぶ。
「ファム!大変よ、人が一人も居ないの。」
以心伝心と言えば聞こえが良いであろうその言葉は、当然のようにその答えに行き着く。
「朝だからね。みんな寝ているんだよ。」
まあ、後数時間もすればみんな出てくるのではないかと思う。
「そうかしら……なんか、変な感じがするのよね。」
ハイリーの勘はよく当たる。
だが、こんなに当たって欲しくない勘も珍しい。
この二人だけの朝がさっさと終わることを僕は願った。
一人でも良いから部屋から出てくれば良いのだ。
しかしそんな僕の願いが完全に無視されることを、その時の僕は知らなかった。
「これ……何?」
ほんの少しの違和感。
ハイリーが発した言葉の先には、僅かに歪む線があった。
それは、僕がよく知っていて、大好きなもの。
しかし、そこにはあるはずのない物。
?と顔をこちらに向けるハイリーが、なんだかものすごく遠く感じる。
「ハイリー!っ」
僕は、ハイリーを突き飛ばして、その体を押し倒した。
直後の、光。
先程までハイリーが触れていた鉄の作は、眩しい位の光を発して、ぐにゃりと爆発した。
背中に突き当たる風に押され、僕らは必死に地面にすがりつく。
爆風に当てられて何かが背中に当たる、木片、布、角ばった石。
それらは総じて普段攻撃性を持たないものだが、今この瞬間に至っては違う。
それぞれの人間に殴られているかのような、強烈な痛み。
爆発自体はとても短いものだったはずなのに、僕はしばらく動くことが出来ないでいる。
それは、ハイリーに向けられた敵意への応酬か、それとも。
ふざけるんじゃない。
顔にも声にも出さない思いが、たしかに強く僕の中に息づくのを感じる。
二人して地面にへばりついたまま、僕は観察する。
魔術はすでに発動していた。
陣から半径2mくらいの鉄は融解し、変形している。
爆発で船が燃えなかったのが、不幸中の幸いだ。
このところ、ハイリーに向かって飛んでばかりだ。
ハイリーは大丈夫だろうか。
無計画に飛び込んでしまった事は、誤ったほうが良い。
きっと痛かったと思うし、怖かったんじゃないかな。
「今度は何?もう、ただじゃ置かないわ!」
ハイリーは、本当に女子なのだろうか。
このアグレッシブさは、完全にイケメンのそれだと思うのだが。
死ぬかもしれなかったのに、落ち込むこと無く前を向くその精神はどんな構造なのだろうか。
見習わなくてはならない。
それはそれとして、すでにこの場所は魔術の仕様に足る条件が揃ってしまっている。
それが何よりも問題だった。
迂闊に動きたくはないが、さてどうするか。
少なくとも、今確認できる範囲では見当たらないが……
ふとしたを見ると、むすーとした顔のハイリーが居た。
「1回、部屋に戻ろう。」
この船内で唯一の安全地帯に向かうしかない。
僕も一度、準備を整えなければ。
僕は起き上がり、震えるハイリーの手を取る。
やさしく、そっと。
ハイリーはまたもむすーとした表情で、手を取る。
「ありがと。」
こころなしかその足取りは軽く、僕はその先を見据える。
彼女のその背を追いかけていくと、僕の願いはいともあっけなく裏切られたことが分かる。
さっきの爆発は相当な音と衝撃だった筈なのに、誰一人として表に出ていない。
そんな事は、ありえないはずなのに。
異常な静けさが、木製の廊下の内に響いていく。
ハイリーはそれを知ってか知らずか、他の部屋に視線を巡らせる。
ハイリー気にしていない風にしているが、本当のところは分からない。
昨日やっとの思いで着いた避難船で出迎えてくれた人たちが、綺麗サッパリ消えてしまったのだ。
僕も、正直信じたくない。
というか、今居ないだけだと思いたい。
何らかの魔術で、何らかの力で今、この場所に居ないだけ。
倒すべき人を倒した暁には、全ての人々が無傷で帰れることが保証されている。
そう思うことでしか、前に進めない気がした。
ボロボロの僕に治癒の魔術をかけてくれたおばあさん。
新しい服を譲ってくれた若い二人。
あったかい料理を作ってくれたおじさんも、今は何処にも居ないのだろうか。
わさわさと揺れる金髪は、今の彼女そのものだ。
庇いきれず付いてしまった傷や灰。
それらをもってしても損なわれない”強さ”がそこにはある。
しばらく廊下を歩くと、僕らの部屋の前まであっさりとたどり着く。
昨日ここにたどり着いた達成感と言ったら、それはもう。
ハイリーが扉を開いたその瞬間、明るい光が待っていて……
嫌な予感、それは唐突にやって来る。
「ヒビカ。やあ、二人とも。」
そいつは背中に大層な翼を生やした、気だるそうな天使だった。
「あんた、誰?」
ハイリーは臆せず食って掛かる。
それはそうだ、部屋に戻ったら見知らぬ天使が居るのだ。
まあ、食って掛かりはしないか。
明らかな敵意、それを持ってしてハイリーはファイティングポーズを取る。
腰を僅かに落として、敵を見据える格好がかなり様になっている。
ピリピリと張り詰めた何かが、この手狭な部屋の中を舞う。
風が僅かに天使のセミロングの神を揺らす。
手入れの行き届いた乱れた髪が、微かに天使の顔を覆う。
「ヒビカ。君たちを、助けに来た。」
随分と面白そうなのが来た。
僕がヒビ家に向ける第一印象は、それだった。
【次回予告☆】
部屋に突然現れた天使「ヒビカ」
僕らの事を助けると言っているが、かなり怪しい。
背中に大きな翼がある時点で、かなり怪しい。
というか、この状況であっさりヒビカを信じれる人間なんて居るのだろうか。
居た……居たわ。
家には、ハイリーっていうお転婆娘さんが居たわ。
さて、これからどうなるかは次を見てのお楽しみだね。
【次回も見てね☆】
魔導術式アドバン 椋鳥 @0054
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。魔導術式アドバンの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます